袈裟丸山の秘境・餅ヶ瀬川源流

増田 宏 

 餅ヶ瀬川は袈裟丸連峰頂稜を水源とし、上流で砥草沢と押溜沢に分かれている。この地域は自然の渓流がよく残されており、源流部一帯は栃木県の自然環境保全地域に指定されている。道がなく、簡単に入れないので袈裟丸山に残された唯一の秘境である。地形図に崖記号が連なっていることから分かるように源流は切り立った崖になっており、頂稜まで詰め上げるのは難しい。快適な遡行は期待できず、沢登りの対象になっていない。拙著『袈裟丸山』で餅ヶ瀬川源流の記録をいくつか掲載したが、その後に訪れた渓流の記録を追加する。

 押溜沢流域涸堀沢本流

 過去に2回、押溜(オシダメ)沢を遡ったことがある。1回目は険しくなる源流部を避けて右岸支流に逃げてしまった。2回目は本流から八反張を目指したが、行き詰まって戻れなくなることを心配して源流のナメ滝で引き返した。3回目に山仲間の大谷さんと右岸支流の白水沢を遡り、八反張から涸堀(カラボリ)沢本流を下降してようやく目的を達成した。
 林道から踏跡を辿って砥草沢と押溜沢の出合に下り立ち、押溜沢に入った。赤ナギ沢を分岐した先で10㍍滝を含む連瀑帯になっており、左から小さく巻く。伐採が終わって久しく、高巻きの踏跡は不鮮明になっていた。ハンノキクボ沢を左岸に分けるとすぐ右岸に白水沢を分ける。登路として稜線まで最も容易な白水沢を遡った。白水沢は稜線近くまで水があり、源流で5㍍の悪い滝が現れたが、簡単に巻ける。水がなくなった先が悪場になっていたので左の草付を登り、樹林帯に出るとすぐ先が稜線だった。
 前袈裟山頂を経て八反張から下降を始める。傾斜はそれほどきつくないが、安全のため稜線の立ち木を支点に懸垂下降した。2回懸垂下降して沢に下り立つと8㍍の棚が現れた。ここは流木にザイルをかけて下った。その下に20㍍の垂直の棚が続いており、左岸の立ち木を支点に懸垂下降した。この下りは40㍍ザイルがやっと届く長さだった。さらに3㍍の棚を下って10㍍の棚を右岸から巻く。その先に水の滴る滝が現れたが、ザイルを使用することなく巻けた。
 いったん平坦になり、右岸から前袈裟に源を発する沢を合わせるとナメ滝が連続する。殆ど直下降できたが、1つは右岸を巻いて下った。巻いて下ったナメ滝は2回目の遡行で引き返した地点である。右岸から前袈裟南面に源を発する沢を合わせると滝場は終わる。この右岸支流は押溜沢を初めて遡行した時の沢である。この先で右岸から白水沢が合流する。あとは往路を下るだけだが、沢の下りはいつも長く感じる。八反張直下の滝と棚は左から巻けることが分かったので涸堀沢を下から遡行することは可能である。

2004年7月13日
林道遮断器手前(1時間)押溜沢出合(1時間40分)白水沢出合(45分)稜線(25分)前袈裟山頂(10分)八反張(3時間30分)林道(50分)遮断器手前駐車地点

 砥草沢流域マサゴヤ沢

 餅ヶ瀬川流域の精通者だった餅ヶ瀬在住の故神山門重氏によると、砥草沢流域は源流が崖になっており、リュウゴヤ沢を筆頭に沢から稜線に登るのは困難だという。例外として同氏からマサゴヤ沢を遡って稜線に出た話を聞いたことがある。神山氏は沢伝いに残雪に鉈で足場を切って稜線に達したという。以来、マサゴヤ沢がずっと気にかかっていたので、今回山仲間の森田さんとマサゴヤ沢を目指した。
 遮断器の奥1.2㌔地点に駐車し、林道を歩き始める。林道は押溜沢出合の少し先で崩壊しており、車両の通行はできない。崩れた林道を辿り、終点から踏跡伝いに笹の中を下るとツルサリ沢出合のすぐ上流に出た。出合の小滝を越え、ツルサリ沢に入る。マサゴヤ沢出合までは緩く平坦な流れが続き、源流の険しさを全く想像できない。植生はミズナラを主とした森で深山の趣がある。餅ヶ瀬川源流の森でマイタケが採れた話を神山氏から聞いていたのでいつも探しながら歩いたが、残念ながら私はいまだにマイタケに巡り会っていない。
 標高1550㍍の二俣から本流の右俣に入るとナメ滝が現れた。いくつか小さい滝を越えて行くと、標高1600㍍付近で直登をためらう滝が現れた。右の斜面を高巻き始めたが、滝の上流で水が消失して急斜面になっていたので笹を手掛りにそのまま斜面を登り詰めた。標高1760㍍付近で斜面が切り立って岩が現れた。岩を巻いて進んだが、地形図の通り斜面はますます切り立って崖状になっている。先が見えないので稜線まで登り詰められるか確信がなく、行き詰まると下るのが難しくなる。結局、下りが容易なうちに撤退することにした。マサゴヤ沢本流は沢が稜線にまで達しておらず、稜線直下の崖で終わっていることから神山氏は二俣から左俣を登って頂稜から派生する支尾根に出たのかもしれない。

2010年10月3日
駐車地点(1時間30分)ツルサリ沢出合(2時間10分)引返地点(3時間)駐車地点

* *
涸堀沢八反張直下の棚 右を懸垂下降 涸堀沢源流の滝 左を巻いて下降
* *
押溜沢中流の10㍍滝 ツルサリ沢出合の小滝
* *
マサゴヤ沢上流の二俣(本流) マサゴヤ沢上流の滝
* *
源流の滝 直登できず、右の斜面に取り付く 標高1760㍍付近の引き返し地点

*********足尾山塊トップに

inserted by FC2 system