残雪期の石塔尾根

増田 宏 

*

 三川ダムから庚申山に連なる石塔尾根は二十数年前に縦走して以来、再訪の機会がなかった。Tさんがこの尾根に憧れていたことを知り、残雪期に久しぶりの縦走を試みた。わが心の故郷である渡良瀬川源流に憧れる仲間を得て嬉しかった。当初、もう一人の仲間を加えた3人で行く計画だったが、体調の良くないIさんが参加を取り止めて私たち2人を出発点の三川ダムまで送り届け、下山予定の庚申山荘で待ってくれることになった。
 銅(あかがね)親水公園から遊歩道を辿って松木川を対岸に渡り、さらに仁田元沢を水管橋で渡って尾根の末端に取り付く。前回は木のない急斜面をずり落ちないように這い登ったが、今は灌木が成長したので容易である。私が三角山と呼んでいる1017b三角点を下った鞍部は両側が切れ落ちてキレットになっている。痩せた稜線が崩壊して通れない箇所があり、稜線南側の崩壊壁を浮いた岩をだましながら慎重に登って通過した。後続のTさんをザイルで確保して通過したが、通過した際に足場が一気に崩れ落ちてヒヤリとした。この付近は木のない裸尾根だった昔の面影を留めている。
 この先は岩が露出した箇所がある程度で全く問題はない。中倉山の登りは灌木帯の急斜面になっている。途中、大きな岩塔が右に立っており、急斜面を登り切ると中倉山に着く。中倉山から沢入山までは樹林がなく、展望の開けた気持ちの良い稜線だ。ただし、稜線の北側は蟻地獄のような不安定な砂礫の急斜面になっている。岩雪崩が恐いので松木沢右岸支流は足尾山塊で私が唯一足跡を記していない区域である。
 沢入山付近から残雪が現れた。ヲロ山の登りで樹林帯になり、急に積雪が深くなったので輪かんを着けた。無雪期のヲロ山山頂部は石楠花の密生で藪漕ぎに難渋するが、この時期は積雪の下なのでその苦労はない。ここから庚申山まで針葉樹林帯の緩い雪面が続いている。春の雪は重く、体重と荷物の重いTさんは時々深く落ち込んで足を抜くのに苦労していた。体重の差でこんなに沈み方が違うとは思わなかった。尾根伝いに登り詰めると山名板のある山頂に着いた。あとは下るだけだとほっとしたのも束の間で、山頂部の緩斜面で下山路が判らず、針路選定に迷って行きつ戻りつして1時間費やしてしまった。地形図に表示されている登山道の破線の位置はでたらめなのでTさんの持っていたGPSは役に立たなかった。勘を頼りにようやく登山道を見付けることができたが、この下りは岩場を縫う道なので積雪期は慣れない人にとっては意外に厄介だ。日没近くなってやっと庚申山荘に辿り着いた。8時間行程と考えていたが、結果的に11時間の長丁場になってしまった。山荘でIさんと合流し、3人で楽しい夕べを過ごした。

 2011年4月2日〜3日
 三川ダム(3時間40分)中倉山(1時間30分)沢入山(1時間50分)ヲロ山(1時間40分)庚申山(2時間)庚申山荘

* *
三川ダムと石塔尾根末端部 水管橋と石塔尾根末端の1017b峰
* *
キレット キレットと1017b峰
* *
中倉山 稜線の岩塔と1017b峰
* *
中倉山山頂 沢入山とヲロ山、庚申山
* *
沢入山山頂 ヲロ山と皇海山
* *
皇海山の雄姿 ヲロ山から庚申山
* *
庚申山 庚申山の登り 後方はヲロ山
* *
凍結した裏見の滝 庚申山荘

**********足尾山塊トップに inserted by FC2 system