ニセイカウシュッペ

増田 宏 

 ニセイカウシュッペ(1879b)は石狩川を挟んで大雪山に対峙し、岩峰を従えた豪壮な山容が特徴的である。山名はアイヌ語で「断崖の上に聳える山」を意味し、層雲峡方面から見るとその名のとおり断崖の上に聳えている。ニセイカウシュッペ山と呼ばれているが、シュッペは山の意なので山を付け加える必要はない。アイヌ語でヌタクカムウシュペと呼ばれていた大雪山は和名が付けられて本来の名はすっかり忘れ去られてしまった。つまらぬ和名が付けられず、ニセイカウシュッペの名が残ったことは喜ばしいことだ。大雪山のゆったりした山容に対し、ニセイカウシュッペは大槍小槍の岩峰を連ねた荒々しい稜線が対照的である。層雲峡から朝陽山を経て大槍小槍を辿る南稜の道があったが、廃道になり今は西尾根からの道が唯一の登路である。

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ニセイカウシュッペ概念図

 初めてこの山に登ったのは十年ほど前の秋で、山仲間の大谷さんと層雲峡手前の清川から双雲別川沿いに西尾根に取り付き、尾根上で幕営して翌日頂上に立った。十月上旬とはいえ山上はすでに初冬の様相で山頂付近は積雪に覆われていた。この夏、平山からニセイカウシュッペの豪壮な山容を見て、思い立って再訪した。清川からの道は廃道になり、現在は中越から古川林道を旧清川登山道合流点まで入ることができる。古川林道は途中に遮断器があって施錠されていたが、前日泊まった上川の民宿で鍵の番号を聞いていたので通行できた。登山口の林道終点には平日にもかかわらず登山者の車が5台駐車しており、この山の人気のほどが判る。清川から日帰りで山頂を往復するのは健脚者向きだったが、林道で半分近く登ってしまうので今では半日行程の山である。ここから西尾根伝いに山頂に立ったが、上部にはお花畑があり、チングルマ、エゾノツガザクラ、エゾコザクラ、チシマフウロなどの群落が見事であった。帰途、以前から気になっていた大槍の頂上に向かった。同じようなことを考える人が多いのか肩から踏跡が付いており、容易に山頂に立つことができた。大槍の山頂は同じような高さの峰が二つ並び、双耳峰になっている。もう一つの頂までは踏跡は全くなく、双耳峰の間は崖状の急斜面になっているが、ハイマツを手掛かりに山頂に立った。山頂からは大槍を巻く旧道の跡がはっきり見える。旧道は岩塔状の小槍を巻き、朝陽山を経て層雲峡に通じていたが、廃道になって久しいので辿るのは容易ではないだろう。積雪期には本格的な雪稜の登高が楽しめそうだ。階段状に滝が連続するニセイノシキオマップ川と合わせて私にとって今後の課題である。

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平山からニセイカウシュッペ 西尾根展望台から大槍
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山頂から前衛峰の巻き道 大槍
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平山に連なる稜線 大槍から山頂
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大槍山頂部 大槍山頂から小槍と南稜
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ハクサンイチゲ エゾノツガザクラ
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チングルマ エゾコザクラ
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シナノキンバイ チシマフウロ

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