十勝岳

増田 宏 


 大雪山からトムラウシ山、十勝連峰に連なる山脈は北海道の脊梁であり、かつては大雪山と総称されていたが、現在は大雪山、トムラウシ山、十勝連峰、東大雪等と名称が細分されている。十勝連峰は北東のオプタテシケ山(2012㍍)から美瑛岳(2052㍍)、十勝岳(2077㍍)、上ホロカメットク山(1920㍍)、富良野岳(1912㍍)に連なる山々であり、通常地元で十勝岳と呼ぶ場合は個別の峰ではなく十勝連峰を指す。ただし、登山者は連峰から独立しているオプタテシケ山を除外する場合が多い。
 十勝連峰は新生代第三紀末から第四紀前期にかけての火山活動で形成された基盤の上に第四紀後半以降、前富良野岳、富良野岳が形成され、次いでオプタテシケ山、美瑛岳、上ホロカメットク山が形成され、最後に十勝岳が形成された。これらの火山群は休息期を経て約1万年前に活動を再開し、美瑛富士や十勝岳の新噴火口が形成されるなど今日まで活発な火山活動を行っている。美瑛や上富良野の丘から遠望する十勝連峰は北海道を代表する風景になっている。北の厳ついオプタテシケ山から中央の噴煙を上げる十勝岳本峰、そして右に優美な富良野岳が連なり、山頂に雪を戴いた時期はことさら美しい。
 十勝連峰の登山道は白金温泉、望岳台、吹上温泉、十勝岳温泉など西面各地から付けられており、登山口の標高が高いので登山は容易であり、十勝岳温泉から安政火口など行楽客も多い。これに対して東面の新得町側からは十勝岳本峰に登る道が一つあるだけだ。美瑛岳から本峰付近は砂礫の斜面で活火山らしい景観をしているが、上ホロカメットク山から三峰山、富良野岳にかけては高山植物の咲き乱れる稜線になっている。


十勝岳概念図

 十勝連峰に初めて登ったのは二十年程前の夏で、十勝岳温泉から1人で三段山を経て大砲岩から本峰に登り、富良野岳まで縦走して十勝岳温泉に戻った。噴煙を上げる本峰と高山植物が豊富な富良野岳の景観が対照的だった。この道は現在、三段山から本峰の間は崩壊が進んで通行禁止になっている。
 次に登ったのは秋で吹上温泉から望岳台を経て本峰に登り、富良野岳に縦走して原始ヶ原に下った。富良野岳登山者の大半は十勝岳温泉から往復し、原始ヶ原に下る人は殆どいない。一部に遊歩道が整備されているものの、原始ヶ原の大半はその名のとおり原始の湿原である。ほかに誰もおらず、仲間と2人で爪の形が鮮明に残る熊の足跡を辿り、原始ヶ原に踏み入った。原始ヶ原も熊の足跡だらけでいつ熊に出会ってもおかしくない雰囲気だった。白金温泉から秋のオプタテシケ山に登り、美瑛岳に縦走して望岳台に下った時は見事な紅葉に遭遇した。その後も望岳台から美瑛岳に登って本峰に縦走するなど吹上温泉の白銀荘を拠点に十勝連峰を歩いている。
 積雪期は年末に白金温泉からオプタテシケ山を目指したが、悪天候に阻まれて西尾根の途中で撤退したことがある。その後、年末年始に白銀荘を拠点に十勝岳本峰を目指したことがあるが、好天に恵まれず、4晩滞在したものの、三段山まで行くのが精一杯だった。積雪期の三段山は山スキーの人で賑わっていたが、十勝岳の山頂を目指す人はほかに誰もいなかった。積雪期は天気が悪く、無雪期のように気軽に登ることはできない。
 十勝連峰は新しい火山のため地質が脆く、遡行対象になる渓谷は殆どないが、唯一の例外が三峰山(さんぽうざん)沢である。三峰山沢は富良野岳から三峰山の稜線に源を発し、十勝岳温泉の下流で富良野川に合流している。火山活動の影響を殆ど受けておらず、沢登りを楽しめる唯一の沢である。この夏に三峰山沢の右俣を遡って富良野岳に登った。初心者向きとされているが、初心者を同行したことに加えて雪橋が残っていて沢通しに行けない箇所がいくつかあり、同行者の登高にザイルを使用するなど予想外に苦労した。雪橋が残っている時期は初心者向きではなく、初級の難度と考えるべきである。九重の滝、華雲の滝2つの大滝があり、いずれも三十㍍を超える落差があった。2つとも直登できず大きく高巻いたが、2つの大滝の間には直登できる滝が連続し、沢登りの楽しさを味わえる。源流部は急斜面になっている富良野岳の直登を避け、三峰山への縦走路と十勝岳温泉への分岐付近に出た。沢の詰めはエゾキンバイなどのお花畑になっており、最後にハイマツ漕ぎが少しあっただけで登山道に出た。
 手軽に登れる半面、十勝連峰の範囲は広大であり、私はまだ全容を知らない。積雪期・残雪期を始め新得側からの道、オプタテシケ山からトムラウシ山の間など訪れていない場所が残っており、今後探るのを楽しみにしている。


十勝岳から美瑛岳

新雪の十勝岳(望岳台登山道から)

十勝岳山頂から前十勝噴火口

十勝岳本峰と上ホロカメットク山

十勝岳本峰(富良野岳方面から)

富良野岳(三峰山方面から)

富良野岳

前富良野岳と原始ヶ原

三峰山沢・九重の滝

九重の滝上部

ナメ滝と雪橋

華雲の滝

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