尼ケ禿山

*日・祝日以外にウィークデイに一日休みがある筆者と遊んでくださるのは土日以外ならいくらかお暇な山猫さんたち。草紅葉を見損なったので紅葉は必ず、なんて決意の秋の日暮れに「タンバラへ行きましょう」と嬉しいお誘いがあって、「タンバラ」ってずっと「丹原」と思っていましたよ、「玉原」って書くんですね。

沼田の町をかすめる頃は通学時間で、だんだん色濃くなる紅葉と厚着の小学生にこの辺りの冬の寒さを想像し、見慣れぬ形になる赤城山におまえさんは赤岩橋からの形が一番なんて言ってるうちに玉原湖の畔に建つセンターハウスに到着。朝の光に赤や黄色や薄緑、ベージュや飴色や芥子色、朱や深緋やカナリア色、知っている色の名前じゃとても足りないほどたくさんの色が輝いて、空は高く、一日いいお天気の兆し。ここを提案してこの日を選んでくれた赤猫さんに何度お礼を言っても言い足りません。

まずは湿原の木道を巡りますが、来る途中初冠雪だという谷川岳がちらと見え、ここでも冷たい朝だったらしく木道にはまだ霜がついていて滑ること、つい足元ばかり見てしまって勿体ない、MOTTAINAI。黄金色の湿原の向こうにこれから歩く尾根がゆったりと延びて錦を纏い、見上げれば青空に紅葉が映えて何度も立ち止まってはため息をつきます。
湿原を半周して入る山道はもう豪華な色の競演で高い梢の赤を見てはパチリ、黄色を透かす光をパチリ、道に散り敷く落葉をパチリ、鮮やかな蔦をパチリ。これではちっとも進みません。
中でも一際赤い葉はツタウルシで、これは色につられて触ってはだめ。かなり強い毒性があってかぶれるのだとか。でもほんとに綺麗な猩々緋で見るたびについシャッターを押してしまいます。

この山域は丁寧に道が作られていて、分岐や入り口にはしっかりした標識が立てられ、倒木は片付けられ、無粋な階段や急登もほとんどなくて歩きやすく、色んなコースが楽しめるようです。途中、迦葉山への表示もあり、でもここから歩くひと、いるのかしら。
第五鉄塔を過ぎれば道はいくらか傾斜を強め、空が近く大きく広がり、振り返れば赤城山が、もう山というより山脈といっていいくらい長く峰々の影を並べて、ふふ、どれも名が呼べます。が、なんだかぺたんこで峰の順番もいつもと違うのがやっぱり変。

ぽんと空が開けて出る短い尾根道は開放感があって素敵。玉原湖が青く静まり、その左手に上州武尊がくっきりとぎざぎざの影を濃くし、こちらは未踏なので山猫コンビの説明に聞き入ります。
そしてすぐに到着する頂上からの眺めのいいこと!幾重にも重なる山影の右奥には至仏や燧が白い頭を見せ、そこからほぼ360度ぐるりと見えるのですが、ああ、残念なことに谷川方面にはいい色の大樹があって眺望がさえぎられ、思い切ってあれを伐ってくれれば、と三人口々に嘆いてしまいました。ついでに小さな山名方位盤も置いてくれないかしら。白い峰がいくつも見えるのですが、もちろん筆者には判るわけはなく、おふたりも双眼鏡を取り出してあちこちを同定してはくださるのですが、真正面に小さく光る湖の向こうの大きな白い三角形が気になってなりません。大水上山ってあんなに大きいのかしら。(写真を見ていただいてこれは中ノ岳だと判明。ほんとに遠くまで見通せた素敵な日でした)
尼ケ禿山は実はおまけの軽い足慣らしのつもりだったのですが、思いがけない眺望に時を忘れます。特に皇海山から長々と襞なす山並みは(たぶん)袈裟丸まで続き見飽きません。

山頂に別れを惜しみ、斜面を彩る様々の赤を愛でながら鉄塔先の分岐まで戻りブナ平を目指します。朴の実やブナの実を拾い、小さな茸を教わり、ホコリタケって埃になる前はみっちり白い肉肌で、うーむこれがあの煙になるのは如何なるメカニズムであるのやら。
高くなる陽射しに輝く秋色の中を、見回し、見上げ、見下ろしていちいち歓声をあげたりため息をついたりしてゆるゆると下る道は一度舗装道のトンネル脇に出て、この辺りが玉原越の一部でしょう。もう一度入る山道は、標識が倒れているのかと思うくらいの急降下で両側の笹が一気に密度を増します。
けれどもすぐに道はだらだらと登り始め、相変わらずの色の競演にカメラを向けながらきゃあきゃあ歩けば長沢三角点(1302m)に到着。ここでカメラのバッテリーが尽き、既に写真は100枚をゆうに超えています。

でも大丈夫、こんなこともあろうかとちゃんと替えを用意した筆者、偉い。
バッテリーを交換して、喉を潤し、さてこの続きは後編「鹿俣山」へと続くのでありました。

* * *
朝日を受けて黄金に輝く
湿原入口
前方に尼ケ禿山
* * *
山道は秋の色
見上げればこんな空
標識は要所要所に
* * *
ゆるゆると登る
ブナ平との分岐
迦葉山へも道は続く
* * *
野性のなめこ!
思わずため息
空がだんだん近くなる
* * ”
気持ちのいい短い尾根
赤城山です
玉原湖の向こうに重なる山々
* * *
上州武尊
頂上看板
見下ろす斜面
* * *
皇海山から続く山並み
白い峰がいくつも
こちらには尾瀬の山が白い
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若いホコリタケ
トンネルの側に出る
唯一の急降下
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ブナ平へ
ゆるゆると登る
長沢三角点

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