長七郎山・小地蔵岳

*こーーんなに暑いんだもん、滝を見に行こうよ。山崖の滝に思いっきり近づいて飛沫など浴びて少し浄化されなきゃどろどろ溶けてしまいそう。なんて言って出発した久々の会長との山歩き。そこは右ではなかろうか、あの先はきっと左。エンゼル号に乗り込んで、本日は四万六千日、お暑い盛りでございます。

ふたりとも常に代表幹事の助手席で歌など歌っていたら登り口に着く、という長いお気楽な習慣からなかなか抜け出せません。そのうえ出がけに地図を見るとか、持物を点検するとかいう細心さは互いに持ち合わせていない。なんだか先行きがあやふやになってきたあたりで、利平茶屋は何処なりと道行く方に尋ねますと、あれは黒保根、ここは新里、と呆れた顔をされて、え〜いこうなったらしかたない長七郎でも歩こうか。
という次第で今回は赤城山小沼の周りの尾根を辿る楚巒山楽会定例です。

シモツケソウのぽやぽやしたピンクやヤマボウシの白を愛でつつ、下界よりはるかに涼やかな風を車に入れて色濃くなった緑の間に高度を上げれば小沼の駐車場。当会にしては早い出発だったのですが既に何台もの車が停まり、山支度のひともいれば犬連れのお散歩スタイルのひともいる水際の道を歩き始めようとしたら、なんと、代行はカメラを忘れている!空はあんなに青いのに、雲はあんなに素敵にむくむくしてるのに、沼はさながら明鏡止水なのに、なんてこったい。
今回の写真、すべて代表幹事が残したものからの借用です。実際はもっともっと晴れて緑輝く山日和。沼の木陰で本を読んでいる方や、岸辺で山見るご夫婦や、歩きいい遊歩道を散歩している若い方、なかなかの賑わいです。

小沼尻から看板通り左へ上がり、ここから長七郎頂上までは1kmもありません。写真を撮れないのでさくさく歩くちょっとがらがらした山道は昨夜結構降ったのでしょう、両側の草も道の石も水気を含んで深呼吸すれば胸潤う柔らかさ。途中大の苦手の蛇に遭い悲鳴をあげたほかは、さして息も切らさずにけれども腕にあたる陽射しはなかなか強く、ちりちり音をたてている如く。
大きなケルンのある広いガレ場で靄立つ下界の蘊気を気の毒がりながら休憩していると、登ってくる方、下る方たくさんいて、案外に若い方が多いのは、しかも女性が多いのは嬉しい限りです。

背の低い樹木の間を抜け、道の正面の光あふれる青空に辿り着けばもう頂上の一角です。まだ色づいてないアキアカネの大群が舞い飛び、左手には桐生の山並みよりまだ向こうまで眺めが開け、右手は榛名の上に大積乱雲。くるりと回れ右をすれば地蔵岳の上にも丈高く雲が聳え、あちらの山頂はいくらか黒い雲を纏って、これはにわか雨がくる前兆。
たぶんあれが鳴神山だよ、と会長に指さしながらもひとに聞かれてもし間違ってたら恥ずかしい、うんと小声で囁けば会長も小声でではあれが仙人岳かな、となにしろふたりとも方向音痴で地図音痴、あまり自信はありません。
昨年の薄の枯れ茎に一匹ずつ小さな花のように止まっているアキアカネのひとつが、こちらのすぐそばに寄ってきたのはひょっとしたら代表幹事が正しい解を教えるつもりかもしれませんが、ふたりとも蜻蛉語が聞こえない仕様の耳の持主。

下ったところの草原でお昼と決めて、三角点に別れを告げ尾根道を小地蔵岳方向に辿ります。両側の薮は今が盛りと茂っていますが道はしっかりしている。この尾根、真冬に来れば外側の崩壊地の急な角度が結構恐いかもしれません。尾根を外さないようロープがきっちり張られています。
かつては小沼の側に眺めが開け広々としていた草つきは思ったより狭くて、けれども頂上が混むときはここは風の抜けるいい休憩地点、空模様を眺めながらパンなど齧っていたら非常に山慣れた装備の若いお母さんに連れられて小さな女の子が登って来ます。お聞きすれば2歳半で今日が登山デビューの日。お母さんのカメラで可愛いパーティの記念写真を撮ってさしあげて、ああ、ほんとにカメラを忘れるなんて、とつくづく後悔します。

地蔵岳から動く雲に翳められたのか少しだけ雨が落ちて、また空が一気に晴れ上がり、いくら何でも3歳前の子どもと同じコースだけでは物足りない。小地蔵岳への分岐看板でもう一度登れば、道は刈り払いされたばかり、笹の中に綺麗な形を見せ、会長が代表幹事と来たときとは全く違った気持ちのいい踏み心地だとか。頂上直下の石祠も周りが刈られていて、当会の記事でも、桐生みどりさんの記事でさえ未見だという小沼神社の名前が確認できました。
頂上の立派な白看板は健在で、分岐にあった茶色の標識と同じような標識も立てられ、古い写真とは大違いのすっきりした天辺ですが展望はありません。鳥居峠へ向けて踏み跡らしいものがありますが、すぐに茂り放題の薮の中に消えて、はて少し枯れると歩けるようになるのかどうか。

来た道を戻り分岐に着けばあとは広々とした作業道が小沼まで。
下界はまだまだ熱暑の気配なので覚満淵で季の入り交じった花を眺め、モウセンゴケの鮮やかな色に見入り、できればこの風に吹かれたままハンモックに収まって星空や夜明けもここで眺めていたいと心から願ったのでした。

追記:桐生みどりさんもこの夏小沼神社の祠を確認したそうです。道がきれいに刈り払われたので興味のある方、今が歩きどきです。

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