花行脚(春)

花に浮かれて逆立ちすれば山が見えます山だけが♪、とでたらめな歌を歌いながら逆立ちはできないのでついとことこ走り出してしまった春闌の昼下がり。ぐるりの山はいくらか淡い緑が煙り、そのあちこちに桜の雲がかかって、柄杓山の桜も低い辺りはもう咲き始めたのかほのかに白を広げています。
桜ほど開花を待たれ、咲けば祝われ、散るのを惜しまれる花はありません。昨年は大災害・大事故の直後、賑やかなお花見こそ自粛されましたが、どの場所でもやはりそれぞれに心待ちされ愛でられ切なく見送られたでしょう。
今年はとりわけ花が遅く、気温が上昇し始めたあたりから一気に開いていつもなら終わっている花と桜の競演が青空の下繰り広げられ、桐生は特に桜が多い。山にも町にも花が溢れ、代表幹事との桜の場所には思い入れも深い。♪走り出したら何か答えがみつかるなんて〜。
 
調子外れに口遊みつつまずは女子高脇の桐生川土手からスタート。ここはいつもなら斜面の黄水仙が終わってからの桜なのですが、今年は同時期に開き始め、ちょうど対岸に河津桜の古樹が一本こちらも満開で、流れの向こうに八王子丘陵の薄い影。子ども連れのお母さんや犬を抱いた老婦人、散歩の方は必ずここで足を止め、花を見上げてつい微笑んでしまうのはもう人類にインプットされている遠い遺伝子の仕業なのかしら。

桐生川左岸、あちらにもこちらにもある花雲の中でもとりわけ高く大きく広がっているのは普門寺の桜ですが、その手前観音山からの山稜下の黒川児童公園。ひっそりしてちょっと古びた遊具が散らばる小さな公園も桜は古樹ばかりで梢が高く、枝という枝に咲き誇る花の重みでいくらか撓って、見上げれば息が詰まりそうなほど。うしろの稜線の初々しい緑とのコントラストも美しい。近くの住宅のお庭にはミモザも盛りを迎えたまっ黄色で、でもこの花開ききるといくらか妄りがましい気もします。

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桐生川女子高脇
土手の水仙も満開
黒川児童公園
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ミモザも満開
東沢寺の花雲
六地蔵の脇に紫大根

渡良瀬川をいくらか強い風に吹かれながら渡り、八王子丘陵、唐沢山の下り口あたりに突き当たれば東沢寺。ここも古いお寺、山裾には古木が列をなし、遠目でもむくむくと華やかでついお寄りしたくなります。山門脇のお地蔵さまの側にはこの季節おなじみの通称紫大根の花。この花は正式名称はオオアラセイトウ、別名は諸葛菜(しょかつさい)、三国志の時代野菜不足に苦しむ兵に諸葛亮が食べさせたのでこの名がある、とは代表幹事からの受け売りです。山門から振り返れば遠くに小俣の山が浮かび、実に明るい里山の風景。

ここからかつての農道らしき道をくねくね曲ったり、県道を走ったりしながら岩神山の麓の赤城神社。くり抜かれた複雑な形の岩屋に古びた石祠があり、左手の斜面には椿が鮮やかな紅を散らしています。鳥居をくぐった社殿奥から代表幹事は登っているのですが、手足だけでなくお尻も使った急斜面だったと聞いており、今回は右側広場のソメイヨシノを楽しむだけで頂上は諦めます。

吉沢の信号を曲がると可愛らしい丸山が見えてきて、その手前賀茂神社の境内の桜の見事なこと。陽光、という名の交配種が幾本も並び濃いピンクの大きな花がぎっしりと満開で、通りすがりの方々が思わず車を止めて見物に降りていらっしゃる。この神社は古く慶長11(1606)年、丸山宿が公認されたときからのもので、このあたりの町並みは古いまま残されており、病院が昔ながらの長い土塀に瓦屋根を乗せた門構えだったり、すぐ前のやはり長い板塀がいい色に褪せていたり、時間が停まったような静かな界隈に、多分この桜の時期だけ派手やかなのではないかしら。華やかな桜吹雪を想像するとちょっとわくわくします。

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花また花
岩神山赤城神社 椿も満開
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丸山宿賀茂神社
陽光、豪華な桜です
雪柳も重たく

本殿に手を合わせ丸山へ。西南の斜面には保護されたかたくりの自生地が広がり、鉄柵で立ち入ることはできませんが、まだたくさんの花がついていてカメラを構えるひとも多い。目一杯ズームにして近寄れる花はどれこもれも萎れていて、写真が魂を吸い取ると怖がった昔の人、案外正鵠を突いているのかもしれません。筆者のデジカメではどうにもならないので早々に丸山の登り口に向かいます。
頂上直下のずっと気になっていた青面金剛は真っ白な雪柳の花の向こうに鎮座し、小さな山ですから花は皆下のものとは変わらない、重たげな満開の連翹や小さな固い蕾が見える躑躅、見下ろす関東平野のあちらこちらに白く煙るのは春霞なのか咲き誇る桜なのか。

♪行きはよいよい帰りは恐い、と相変わらず小声で歌いながらお寄りする住吉神社も背の高い古樹の桜が今が盛りと開ききり、空一面を覆って、筆者はだんだん花酔いが深くなっているのか、花の愁いが伝染ったのか、宙を舞う気分で帰途につき、それでも八王子丘陵東裾はどこもかしこも花ばかり。小さな流れに沿って寄り道を重ねながら花・花・花と行脚は続きます。
咲ききったばかりの桜は強風にも散らないのだとか。あした日曜日までは間違いなく楽しめそうですし、その後は切ない花吹雪に花筏、柄杓山の桜や山中の山桜が始まってもうその後は百花繚乱、春の闌は山に移ってまだまだ続きます。

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カタクリが残っている
住吉神社裏 どこもかしこも春闌


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