二股山

*なんだか今年の紅葉がいつもの年よりやけに綺麗に思えて、もう山裾の方も茶色くなり始めてはいますが最後の錦を楽しみにあにねこさんに(無理矢理!?)お願いして鹿沼にある二股山へ行ってまいりました。
この山は南峰と北峰の間に深いキレットがあり短いとはいえその上り下りは面白そうだし、三つある周回コースは地元の方が丁寧に案内板を設置してくださってて道もしっかりしているらしく、今年は山歩きが少なくて足腰が弱ってきた自覚のある筆者でもなんとかなりそうです。

下沢の延命地蔵尊にまずご挨拶して、お地蔵さまのお堂横には何基もの十九夜塔が建ち、安政や天保の女性名を指で追ってみましょう。舗装道の突き当たりの民家脇から新しい堰堤が設けられている沢沿いに登り始めます。ここからはすぐ正面に北峰に建つアンテナがはっきりと目視できる、ということはこれはかなりな急登を覚悟しなくちゃいけません。
下沢回遊コース往路の標識と丁寧なコース説明図がある登山口から左岸を辿る沢には苔むした倒木が目立ちますが枯葉に覆われた道は固く締まっていて歩きやすい。すっくり伸びた明るい檜の斜面はかなり急とはいえ、幾度か涸沢を左右に渡る度に短い間隔で白い標識がつけられていて至れり尽くせりに手入れされたコースです。

だんだん沢筋は狭くなり前方左稜線へ道は延びてゆきますが、右側の斜面は地滑りでもあったのか斜面全部が倒木に覆われてそれがもう白茶けているのでちょっと荒涼たる雰囲気です。
羊歯と檜が薄くなって雑木の紅葉が空に映え出すと加園方面へ下る稜線に到着。振り返ると登ってきた斜面はなかなか急で泣き言を言わなかった筆者エライ!と秘かに誉めてみますが、稜線を右に登る尾根道はますます急傾斜になっていて安心なんかしていられません。稜線を辿れば右手には古賀志山のごつごつした山容が大芦川を挟んでくっきりと浮き上がり、川のこちら側には下りに辿る柔らかな稜線が最後の紅葉の赤茶と植林の緑のパッチワークで可愛らしく延びています。

葛籠折れにつけられた道は徐々に山肌の西側に回り、鮮やかな楓が待つ展望地へぽんと飛び出ます。ここからの西側の眺めは素晴らしい。幾重にも重なる安蘇山塊の無名峰、その向こうにくっきり黒いわが町最奥部の丸岩・熊鷹・根本の長い連なり、山名板のつけられた枯木の真正面に真っ白な富士山がやんわりと輝いて、甲武信岳も見えます。視線を左に流せば大平山や晃石山、行ってみたい粟野の三峰山。
でも一番気になったのはけっこう手前に見える尖った乳房のような双耳形のハナント山。とても目立ちますし、なんといっても名前が変!これは絶対に行かねばならぬ筆者好みの名前です。
ザックを抛り出しておやつを食べながら、見える限りのあにねこさんが歩いた山の話などを聞き大休憩。全く風がない小春日和のうらうらした陽射しにゆっくりと炙られます。

さてそろそろと腰を上げほんの少しで、あらもう雷電さまの祠がある南峰570m到着。たくさんの山頂看板が掛けられ、三角点もあるここからはさっきの展望地では見えなかった日光側の眺めが一気に開け、どっしりと裾野を延ばす男体山はじめ大真名子山に女峰山、いつも雪を冠っている日光白根、手前には横根山があるぺったりした稜線とここでも心ゆくまで眺めを楽しみます。右手を眺め下ろせば登ってきた登山口が真下にあり、これから歩く稜線もかなり低く、こんなに急だったのにそんなに辛くなかったのは上手に道が作られていたのだと改めて感じ入ります。

おやつ直後だしまだお昼には少しある、北峰でご飯にしましょうということで、さてここからが筆者恒例の泣き下りの始まりです。ロープが設けられた急角度の岩混じりの斜面をへっぴり腰、きゃあきゃあの悲鳴で呆れるほど時間をかけてなんとか鞍部まで。ここには迂回路の標識がありますがせっかく来たんだもの迂回なんかしてられない、再び岩を掴んだりロープに縋ったり、最後の岩場は上から足場を指示して貰いながらようやく北峰に這い上がります。そのくせ偉そうにもう少し岩場があっても良かったなんて大言壮語をするのは悪い癖。
こちらから見る南峰はさっきまでそこにいたとは思えないほどそそり立って、真下に広がる関東平野を睥睨する風情でなかなかのもの。先ほどとは向きが違う雷電さまはどっしりとした大きさで、この二股山が信仰されるのはもう当然だと思えます。

ビールでささやかな大冒険(!)成功を祝して乾杯し、美味しいソーセージを茹でていただき、祠の前に腰を据えてお昼の大休止。この土日は気温も高く良いお天気の里山日和なのにどなたにもお会いせずどちらの天辺も我が物顔に伸び伸びと占拠しました。北峰からはぐるっと関東平野が見下ろせて、ぽかりと浮かぶ筑波山はいい具合に霞を纏って筆者が今まで見た中で一番の大きさです。酔うほどには飲みませんがふわっと柔らかないい気分で、山の楽しさというのはこの長いゆったりした時間なんですね。

さてそろそろ、と日の短い時期なので腰を上げます。頂上を後にするときの、ちょっと名残惜しいような残念なような気分でいくらか長くなった影をひいて下る道は、北峰にあるNHKの電波施設のためなのか広々として歩きやすい。やはり要所要所にしっかりした標識が立ち、細い檜に混じる鮮やかな黄色の楓に目を止めたり、見上げる空の光が澄んでいるのを楽しんだり。けれども見返るとけっこう急ではあります。
林道への分岐を分けてからはロープがある場所もあり、ずんずんと高度が下がります。つつじ平の看板を経て最初の下沢城の堀切跡を過ぎると道は緩やかに登り始め、暫く進むとごつんと突出する不動岩、再び堀切跡を過ぎ、登りが急になればかつての山城の石垣が枯葉に埋もれて残っています。もう一本堀切を過ぎて小広く開けているピークが下沢城跡。小さな砦なら作れそうな雑木に囲まれた頂上で背戸山368mとあります。

南へ少し稜線を辿り、看板に導かれて稜線から離れて小石混じりの九十九折れの急降下。小刻みの急カーブが続くのでちょっと目が回るような感じになりますが、この道がなかったら膝を痛めそうな急傾斜が続きます。足を止めて右手を眺めると紅葉ごしに思わぬ高さについさっきまで座っていた二峰が鋭く尖りなんだかちょっと寂寞感。でもこの寂しさはどこか甘やかでもあります。
真下に堰堤が見えてきて、よろよろと下り着けば出発のときに見た周遊看板脇に合わさり、朝見上げたときよりも二股山は親しい、アタシノヤマの表情になっています。

もう紅葉はおしまいですがこの道は変化に富み、小さな冒険心も満たされて、これからの寒い季節にお薦めの楽しいコースです。
帰路の高速では事故渋滞などもあって、助手席でお気楽な筆者はあにねこさんに感謝してもし足りません。ありがとうございました。

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正面に二股山
登山口
涸沢を急登する
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稜線を目指す
右手に古賀志山
急登は続く
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展望地
枯木の正面に富士山(右桐生の山)
南峰の雷電祠
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見下ろす出発地
日光の山並
三角点
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この岩場を登った
北峰雷電祠
さっきまでいた南峰
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北峰を後にする
見返れば急斜面
不動岩
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下沢城の石垣が残る
下沢城跡(背戸山)
紅葉の向こうに二股山の二峰

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