唐沢尾根〜仙ヶ沢〜白葉峠

*「累々たる岩尾根」を辿って仙人ヶ岳へ登り白葉峠へ県境尾根を下る、のつもりで歩き出す梅雨の晴間。とはいえもうふた月ほどもちゃんと歩いてないので歩けるのか心配しつつ、今回もあにねこさんにお世話になりました。深謝。

黒川ダムの脇から歩き始めてすぐ向かいからいらっしゃる一団。なんとその中にhisiyamaさんが!桐生の山の主、山でお会いすることに確かに不思議はありませんがほんとうに久しぶりの邂逅で互いにがしと手を握り合い、hisiyamaさんは前日退院されたばかりだそうで、うわ、もう歩いて大丈夫なんですかと驚きます。さすが山の大御所、体力もですが精神力が凄い。しばらくお喋りして、脚が強くなったと誉められ(何度か代表幹事と三人で歩いたことがあるのですがそれはそれは酷いていたらくでした)、唐沢尾根は昨夜の雨で滑りやすい、気をつけてと奥さまにもエールをいただいて山神宮へ向かいます。

●唐沢尾根を攀じり続け
鳥居をくぐり濃い緑の奥の大きな岩の窪みに鎮座する二基の神さまにご挨拶。祠の横にはほうきがあって綺麗に掃き清められて、ここは今でも地元の方、山仕事の方々に崇敬されています。
この鳥居のすぐ左から尾根に取りつきます。季節柄少し薮っぽい踏み跡はすぐに露岩の連続する登りになり、かつて代表幹事はこの尾根でコンタクトを失くし筆者にたいそう叱られたのですが、う〜む、あれはしかたなかったのかもしれない。立ちはだかる大岩を正面から攀じ登ったり、狭い足場を探って木の枝と岩の間をすり抜けたり、赤テープは散見されますが大岩が出て来るたびにあにねこさんにルートを指示してもらって、のっけからきゃあきゃあわあわあ汗まみれになって大騒ぎです。仙人ヶ岳への一番面白い尾根ではないでしょうか、ってひどく時間をかけているのに偉そうに言ってみる。
岩上に立つ度に振り返れば下界はどんどん小さくなり、でんべい山からの尾根と観音山からの尾根の向こうに広がる桐生市街は温気に濁って暑そうですが、高度を上げる岩稜にはいくらか涼しい風が通り、次の岩への闘志を取り戻します。

燈籠、の声に下ばかり見ていた視線を上げると正面少し左手に聳える岩の上に石燈籠が。右側面に文化六(1809)年の年号が刻まれ、正面には「御神灯」かしら。火口は潰れたのか最初からなかったのか判りませんが、こんな険しい山中に、いやこんなところだからこそ山神に相応しい立派な燈籠です。見下ろせば足下に一色の家々の屋根、そこから低い山並のあちらに市街地が霞み、ここにもし灯が入ったらずいぶん遠くから見えるでしょう。
もう少し岩を攀じればやはり大きな岩の上に二基の石祠。右唐沢山、左根本山でこれが下の山神宮の奥宮ということです。文政十(1827)年、江戸爛熟期、町人文化が花開きお伊勢参りの流行など庶民の動きが活発な時代、桐生山中の石祠はけっこうこの年号のものをよく見ます。安定の中にももうすぐ激動する時代を微かに予感して、神さまたちは大忙しの時期かもしれません。顕著なピークというわけではありませんがここが桐生百山第68番唐沢山380m、展望すごく良し、かつては盛んな信仰の山でした。

ここからは今までよりはかなり緩やかな道、でもときどき大きな岩塊を越えて進みます。道右手に台座だけになった石祠の跡を眺め、どどんと巨大な岩に突き当たればここにも左右にもう壊れてしまった石祠が二基。右の屋根のない祠の側面に金峯山とかろうじて読めます。甲斐の金峰山なのか役行者の金峯山なのか、文字が薄れて判読しきれませんがどちらにしろ修験の神なのかもしれません。
ここで岩稜はほぼおしまい。あとは木漏れ日がひたすら明るい雑木の中の普通の稜線になります。一度作業道を横切って少し進めば観音山からの長い尾根と会わさり、ここが大久保。尾根が曖昧に分岐していて下りに使うとちょっと間違いやすいかもしれません。筆者はここで一度迷ったことがあります。

予定ではとうに仙人ヶ岳へ着いていていい頃なのに、唐沢尾根で筆者が余りにもたもたしていたでこの少し先の仙ヶ沢(前仙人ヶ岳)で大休止、昼食にいたします。ビールを取り出し、食料を取り出し、って今回は自分で持たないであにねこさんにお願いしてザックはかなり軽かったのですが、筆者もうへろへろで情けないこと。座り込んで長々と体力回復を待ちました。
頂上看板がいくらか増えていて、どこから引っぱり出した名でしょうか聞いたことがないような山名票もあって、でもここは桐生百山第34番、仙ケ沢647mであります。選定委員会があらゆる資料を網羅して調査したのですから、どなたさまも私的な名は心の中でだけ呼ぶように(でももっと桐生百山喧伝しなければいけないわ)。

●白葉峠へ下る
大樹の木陰には爽やかな風が渡って、幾重にも重なる緑を透かして光が降り注ぎ、お腹はくちくなって瞼がとろりとするような、時間が止まってしまったような素敵な刻を過ごして、ようやく重い腰を上げて東へしばらく進みます。ちょっと時間が足りなそうなので仙人ヶ岳は今日は勘弁してやることにして指導標が出てきたら右へ、白葉峠への稜線へと。
雲が薄くなったり厚くなったりはしますがどうやら雨は大丈夫そうな空が頭上に広がり、明るいよく踏まれた尾根が続きます。松が目立つ痩せ尾根で、今は木の葉が多くて余り展望には恵まれていませんがす歩きやすい。一度下り、少し息を切らせれば荒倉山。ここからは西の真向かいに仙人ヶ岳からここへの分岐までの稜線がよく見えます。

要所要所にかなり新しそうな標識が付けられて、小さなアップダウンを繰り返し桐生市標準点No.82を過ぎると左手は植林地になり、そこから涼しい風が上がってきます。すぐに代表幹事が異議を唱えていた鷹の巣(沢)。そういえば今朝お会いしたhisiyamaさんと三人で、ここへ作業道を使って直登したことがありました。う〜む、ほんとに脚が強くなったんだろうか、さっきから足裏がやたら攣るんだけど(余談:攣ると攀じるは似てる!)。
小友沢の頭への分岐を過ぎ東側に石尊山から深高山の稜線が近づいてくると道は突然薮じみてきます。少し前に広く伐採されたそうで、成長の早い草が一面緑を野放図に広げ、それまでしっかりしていた道は急に曖昧になり、薮を払うたびに赤い実を付け始めた木いちごの枝をつい掴んでしまって筆者一気に気力喪失。
え〜いこんなに痛くして食ってやるっ、とときどき木いちごを口に入れるのですが、もうあちらにもこちらにも赤い実が見えてとても復讐しきれない。ときどき落ちている大小の動物の糞にも木いちごの種がたくさん混じり、けっこう広範囲のこの伐採地は樹木が伸びるまでいい食料庫になるのでしょう。

再び雑木の稜線になれば道もまたしっかりして再び案内標識も目立ち出し、行手には高萩山とその向こうの姥穴山がはっきり目で辿れるようになります。
一度しっかりした鞍部に下り、そこからだらだらと長い登りが始まります。行手に空が広がるたびにここかしらと期待すること数度。周囲に焼け焦げた木が出てきて、これは五月の始めに続いた一連の山火事の跡で、あのとき白葉峠も燃えたのでした。途中けっこう倒木が多かったのも火事のせいだったのかもしれません。焦げてから水に浸かった焼け跡特有の臭いがまだ少し残っているようで、見下ろす斜面の一部は枯死した木が赤茶けて痛々しい。
最後の急登を喘ぎ喘ぎようやく到着した高萩山の天辺もぐるりが黒く焦げています。三角点と頂上看板がひとつのちょっと寂しい山頂でしばらく休憩し、ここで登って来られた方が本日初めてお会いした登山者。これからですか!と驚くといやちょっとこのあたりをうろうろと、なんて仰って軽々と下って行かれましたがいかにも山猛者風でした。
西側にはこれから越える山谷戸がはるか下に見えて、うわっ遠いよ〜。

高萩山は下りも急でしかもざれ場、そのうえ掴まる木が燃えていて、筆者いよいよへっぴり腰になりもう顔を上げる暇もない。ざりざりと小石を落としながら下って、これじゃあ砂礫の高い山なんかには
顰蹙をかって絶対に行けないと痛感しました。峠の取り付きのロープにも足場も考えずただぶら下がるだけで、ひえ〜ん、ふた月のブランクは思ったより大きい。

●山谷戸峠を越える
峠からは舗装道を下ります。道脇にはオカトラノオが群生し、野茨やドクダミの白い花も可憐で、ホタルブクロもふっくらと花をつけ、栗や椎の花もあちこちに。山中ではあまり花は見ませんでしたが里近くはなかなかの花盛り。沢の水音も涼しげに響きます。
白葉橋を渡り南にいくらか進んで今度は右手の竹林の道へ入ります。象牙色の竹の落葉が一面に敷き詰められた道は足に優しく、これが山谷戸(やまがいと)峠、でんべい山から仙人ヶ岳へ続く稜線の一番低い鞍部への道です。すぐ上の稜線に沿っていくらか北上し明るさに向かってえいっと登ればそこが小さな可愛い峠。かつては一色と小友を結ぶ主要な峠でした。
現在の一色側はいくらか薮じみたほの暗い道です。丈の高いアイスグリーンの草はたぶんタケニグサ、この草がたくさん茂り、途中大きなため池や真っ赤な帽子と涎掛けが鮮やかなお地蔵さまがいる墓地があり、まあ夜にはあまり歩きたくはないような。
道の出口(入口)にはすみれ山好き会さんの道標がありました。

さてこのあたりから筆者はべそをかきはじめ、舗装道へ出て黒川を渡ったところでとうとうギブアップ。あにねこさんおひとりが車まで戻ることになり、車道脇で裸足になって赤く腫れた足指をさすり、しばし座り込んで道ゆくひとたちに憐れまれ、棒でつんつんされ(嘘)、山靴を履くときは爪を切ることとあんなに言われていたのに怠ったこと、ふた月もちんたら過ごしていたことを深く深く反省いたしました。
従って今回の地図、周回できずなんだか空中に浮遊したように中途半端。あれこれ申し訳なし。
しかも白葉峠や山谷戸の入口の石祠も石塔も見ておりません。そのうちこのあたりだけてこてこと歩いてみます。

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一色山神宮
すぐに始まる岩稜
この左をすり抜ける
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岩上の石燈籠
唐沢神と根本神
見返る燈籠・絶景なり
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岩場は続く
石祠の跡あり
金峯山の石祠
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白葉峠への分岐案内
明るい稜線・正面荒倉山
荒倉山山頂
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仙人ヶ岳へと続く稜線
桐生市標準点No.82
左手が植林地になる
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鷹の巣
一色への分岐
石尊山と深高山が見えてくる
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行手に高萩山と姥穴山
空が開けるたびにピークかと期待
ようやく着く高萩山山頂看板
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三角点の周りは焦げた木
まだ焼け跡の臭い
オカトラオノが咲く
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竹林の道(あにねこさん撮影)
山谷戸峠
でんべい山と仙人ヶ岳への道標

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