川手山

*いつも石仏のことで参考にさせていただいている扁平足さんの著書「里山の石仏巡礼」(山と渓谷社:田中英雄←扁平足さんのお名前)でひと目で心惹かれて、ずっと見たいと思い続けていた馬鳴菩薩像をやっと見てまいりました!
ついでに始まったばかりの紅葉と秋の山の味覚も満喫。いい山です。

赤城山をぐるっと回り、利根川に沿って北上するとたわわな林檎の紅い色づきが目立ってきて、正面に吾妻耶山のかっちりした稜線が見えてきたら左手山寄りに須川川を西に辿ります。両側をいかにも里山らしい山並に挟まれて、刈り取った稲の干してある小さな田を縫ううちに道はいきなり石だらけのダートになります。
少し前の台風のせいでしょうか、カーブしながら高度を上げるうちに道は抉れて荒れ放題になり、右側が進入禁止になった三叉路、少し広い場所で車を停めて、本来なら真直ぐ進むと四万温泉に抜ける林道なんだそうですが、とてもこれ以上は走れるとは思えないので川沿いの道を歩くことにします。
でもこれが大正解。自然林に覆われた須川川の音を左に聞いて進むと山栗が道一杯に落ちている場所が。どの毬にもふっくらした栗が三つみっちりと詰まっていて、本日遊んでくださる桐生みどりさんもあにねこさんも歓声を上げて三人暫く栗拾いに夢中になります。筆者は桐生の山を歩いてもたいてい空っぽの毬しか目にしたことはなく、もう嬉しくて素手で毬を掴んでも痛みさえ大して感じず、熊さんがどっか上の方から眺めてオレの食べる分は残しなさいと怒りそうな勢い。かなりな収穫はお昼の楽しみにすることにしてようやく先に進みます。

ぐらぐらする石を踏みながら林道を一時間ばかり歩くと草付きの広場に東屋がある川手山登山口。ここにはトイレや山の中の案内板も完備していて、たくさんある石窟を巡る登山道を整備した当初には多くの人が来たのかもしれません。道の右側登山道の入り口は細い竹で結界が作られており、ここが信仰の山であることを示しています。今回は見所が多いという右の沢沿いの道から周回。
積もる落葉と散らばる折れ枝の道はなかなか急登で、所々にある大岩には細い樹木が何本も根を巻き付けて、木枠で土止めされた階段には雑草が生い茂りいかにも山深い感じがします。
筆者久々の山登りであっという間に息が上がり汗まみれになり、陽射しはまだ夏、半袖にすれば良かっただのちょっと待ってくれだの、いつか黙々とかつ颯爽と山を歩けるときが来るのかしら。

谷が斜面に突き当たる場所にまず白い弊を捧げられた弥勒菩薩の岩窪。彫目がはっきりしていて新しそうにも見えますが、首が取れてしまっていて少しかわいそう。再びの急登で光苔があるという石窟があり、様々にライトを当てたりしたのですが残念ながら光るのはよく判りませんでした。
稜線に突き上がって右手少し下れば産泰神。赤ん坊を抱いた、お地蔵さまのような方が
結跏趺坐した像があります

稜線に戻ったすぐ上、ここが本日の目的の馬鳴菩薩の在す石窟。
この像が思っていた以上に大きくて綺麗。円形の光背を持つ菩薩がまず浮彫りにされていて、巻き付く羽衣(?)も六臂それぞれの養蚕に必要な持物も伏目の優しげな表情も見事です。そして菩薩が跨がる馬がまた前面に丸彫されて、馬体の柔らかな曲線や、乗る菩薩の膝の円やかさ、履く沓のそり返り、どれも美しい。かなり厚みのある石を丁寧に彫り上げた人馬一体の像は岩屋に守られて、いくらか苔むしてはいますが全く傷んだ様子はありません。
横の説明板には明治元年のものとあり、川手山を開いた月海法印の信者だった力士が麓から一夜で運んだとありますが、直径135cm、複雑に凹凸する石像を、担いだのか抱き上げたのか背負ったのか想像もつきません。
本で写真を見てから恋い焦がれた菩薩像なので前から見、横から見、何枚も写真を撮り、馬さんをちょっと撫でてもう筆者大満足、大汗をかいた甲斐がありました。

このまたすぐ上には石窟の奥深くに不動明王が鎮座し、その先には行者窟や妙石洞、屹立する大きな岩を後から巻いてなんだか招き猫めいた蔵王権現の岩屋を過ぎ、空が一気に開ければ見晴台です。
須川川を挟む無名峰の連なりを眺め、染まり始めた木の葉の赤が空に映えるのを見上げ、けっこう強い陽射しと爽やかな風のいかにも秋らしい好天を楽しみながらここで大休止。缶ビールを三人で分けあって乾杯した後早速拾った山栗を茹でます。
艶々した山栗は小さいけれど甘くて味が濃い。次々と剥いては口に入れお腹がくちくなれば出るのは幸せのため息ばかり。なんて素敵な日曜日。

大休止の後は二十二夜様を経て大日ヶ岩を右に見、石楠花の道を登って川手山頂上。少し先に紅白の大鉄塔がある山並を見られる場所がありますが、もさもさとした地味な天辺です。石楠花が咲く頃なら綺麗かしら。
稜線を左に、雑木林の中をかなり急な階段道を下ると正面に緑に覆われた石門が見えてきます。少し手前に十二山神の岩窪。
この石門はかなり大きく、妙義や庚申山のものと比べれば華はないかもしれませんが、岩の朽ち具合や真中を貫く階段の急傾斜がなかなか渋くて、周囲が紅葉しきる深い秋にはどんなに趣があるでしょう。軽い山とは思えないお薦めの景観です。

石門を過ぎれば緩やかな雑木の中の道になり、ほんの少し下ればこの山の開山者月海法印像と川手山の研究者の方の顕彰像。周回路、ほんとうにたくさんの石像や信仰物があり飽きません。どれにも御幣が上げられており、信仰はまだ続いているのだと思われます。
林床が笹原になって、風に眩しい陽の光をさわさわと波打たせて林はどこまでも続き、登りは少し急でしたが下りはゆったりした道が気持ちよく、この山は右側から周回した方が楽しいかもしれません。
だんだん道が広くなってぽんと出る出発地はいくらか影が長くなって、小さいけれどほんとうに見所満載の山でした。

この後、林道を戻っていたら今度はアケビの綺麗な紫色をたくさん発見。筆者自然のものを食べるのは初めてで、ぱっくり割れた果実のほの甘い芯をいくつも口に入れ、お行儀悪く種を撒き散らかし、この紫の部分は炒めるといいお酒の肴になるそうでビニール袋にしまい込み、今回は熊さんに怨まれる山行だったかもしれません。ごめんよ。

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車を置いて歩き出す林道
大きな岩の目立つ登山道
稜線に出る
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これが見たかった!馬鳴菩薩
石窟がたくさんある
見晴台から西側を見る
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見晴台から南を眺める
山栗!山栗!山栗!
見上げれば紅葉の始まり
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小さな頂上看板
判る?階段の途中に石門
潜って見上げる石門
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下りの雑木林
出発地に戻る
あけび!あけび!あけび!

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