鞍掛山

*二月に男抱山から見た屹立する三角錐。ずっと気になっていたあの山へ柔らかな緑の中をいつもお世話になってるあにねこさんと登ってきました。
宇都宮森林公園の駐車場はこの日開かれているサイクルピクニック大会の方々と古賀志山登山のひとでけっこう混んでいて、早目の出発だったのが正解。来る道も既に自転車部隊がたくさん走っていて、流線型の自転車のヘルメットはなかなかかっこいい(と言っても坂道を自転車で登るなんて考えられないけれど)。

駐車場からすぐ、右手の斜面に付けられた階段道に。緩やかな傾斜に緩い階段で、両脇にはチゴユリがそろそろ草臥れかけた小さな白をたくさん俯かせて、木々の緑はもう新緑の最終段階です。前日は桐生の気温は30度を超えたそうで、本日も晴れて暑くなりそうなのに筆者はなぜか長袖で来てしまい登り出しから汗が流れます。
山ツツジが終りかけの色を散らす道は鳥の声が響き、一緒に右手のゴルフ場の声もすぐ近くで聞こえますが、空気はさらっと乾いてときどき抜ける風は爽やか。コアジサイはまだ薄緑の蕾ですが、ズミやオトコヨウゾメの小さな花が可憐です。
杉や檜の植林と雑木の入り交じる稜線をゆったりと登り着く頂上には、どういうわけか根元までむき出しの山標識と色褪せた長倉山の看板、360mです。

これでひと山登ったんだと喜びながら下る道は登りより急斜面になり、しかもなかなか長い。道もよく踏まれているけれど登りの遊歩道のような優しさがなくなっていかにも山道。登った以上に高度を下げているような気がして、こういう下りはなんだか損をしている気になるのはなぜかしら。下の方から電動鋸の音が間断なく聞こえてますます急勾配になると林道が見え出し、小沢を飛び越えて舗装道に渉ります。
小川に沿って林道を暫し右手に下ると墨痕鮮やかな鞍掛山登山口の標識が。三・四台なら駐車できるスペースがありますがもう満杯で、このあたり林道が縦横に走っているので山仕事の方やちょっとした山散歩の方の格好の起点なんでしょう。樹間には新緑を纏う鞍掛山がすぐ近くに見え、こんなに近いということは険しい登りということなんだわ。

標識に従って少し進むと古びた木の鳥居とまだ新しそうな案内板のある広場です。周囲は細い杉が林立しその中に場違いなほど立派な国有林払い下げの記念碑が建っています。鳥居を潜り、杉の間を縫う山道は固く踏まれていますが角のしっかりした石もごろごろして、右手の小沢が増水するときは道にも水が流れるのでしょう、所々に土止めの樹木が渡してあります。杉林のわりには明るくて、低い灌木に光が降り注ぎ、いつもながら栃木の沢筋は桐生より広々していると思います。
ほんの少し進むと沢の左岸の小さな岩の塊の下に二体の石像が見えてきます。ネットの記事では道祖神と書いたものもありますが、近づくとどうやらお顔のないお不動さまが並んでいるようで、頭部の替りに四角い石が乗せてあって寄り添うカップルに見えますが、石の種類も違うようなので一体はどこかから移したんじゃないのかなあ。けれども遠見には確かに仲の良い可愛らしい双体神に見えます。

杉林が途切れると参詣道のようだった道はだんだん沢より高くなり険しくなり、大きな石や倒木が目立ち始めていかにも山深くなってきて、あにねこさんは喜色満面ですが筆者は息切れが激しくなります。少し進むと鞍掛神社への標識。今回はこれも目的のひとつなのでガラガラした水の少ない沢を辿って大きな岩隗の方向へ登ってみます。
突き当たりには見上げる岩棚を落ちる細い滝。今日は水量が少ないですが雨上がりならけっこう迫力があるかもしれません。滝の左側に注連縄の結界があり、その奥のひと一人がやっと通れるような細い割目に架かる梯子。
先にすいすいと入り込んだあにねこさんの声に誘われて恐る恐る梯子を登りますが、割れ目の向こうは真っ暗で滑りそうな泥の斜面があり、ザックが邪魔をして(決して筆者の体型のせいではありません)登りにくいことこの上なし。
手さぐりでようやく登り着くと中は思いがけず天井も高く広さもあって、中央にきらきらと金色の紙垂の飾られた円形のご神体。銅鏡のようにも見えますが石のようでもあり、フラッシュを使っての写真でもよく判りませんが、お神酒が供えてあっていかにも神っぽく、長居するのはなんだか畏れ多い。足場を気にしつつ光の方へと岩の割れ目をよじり出ます。
帰ってからウィキを見るとご神体は、鞍掛山、その自然物である滝と洞窟そのものとかで、あれはやはり銅鏡というわけではなさそう。ちょっと不思議な空間でした。

標識に戻りもう少し登ると尾根コースと鎖コースの分岐点。鎖コースという言葉に惹かれながらも大岩への尾根コースを選びます。後でコースの合流点を見ましたが、鎖と言っても手すりのようでこれは尾根コースで正解だったかもしれません。滴るような緑の中を暫く急登。身体はともかくひたすら目が嬉しい。
尾根に登り着くと笹床にまだ蕾も残る山ツツジが華やかな色を見せるようになり、道はいくらか平坦になって、こういう道は大好き、花叢が現われる度歓声を上げます。
上の方で賑やかな声が聞こえ出し、緩いカーブを幾度か回りこんでぽんと出るのが大岩。何人もの方が休んでいる開けた場所で、東側には樹間に半蔵山や羽黒山の稜線、南には歩いて来た長倉山からの稜線、そして西には古賀志山の稜線が一望できいくらか霞んではいますが眼下には下界が広がって実に開放感のある眺めです。座り込んで見上げれば、木の葉は光に透けて幾重にも重なり、白の多様な木の花があちこちに咲いて少し早いですがお腹はぺこぺこ、ここでお昼にいたします。
まずはビールで乾杯し、あれこれお腹に詰めるうちに回りの人は次々と入れ替わり、どなたもこの山の常連さんさのでしょう、親しげな挨拶が頻繁に交わされてその言葉を聞いているだけで楽しい。そして、すぐ近くに座ったグループの方からは「古賀志山の花」なんていかにもローカルな、けれども立派な本を紹介されてびっくり。栃木百名山のひとつとしても、宇都宮市民の山としても愛されているのがこの山域なんでしょう。道々の丁寧な大きな標識も地元の愛好家のつけられたものだそうで頭が下がります。
たっぷりと食べ長々と寛いだら、身体がだらけきらない内にさてさて靴紐を締めて歩き出しましょう。短い梯子と岩をつたい下りて、あら、こちらから撮るとほんとうに大岩と呼ぶにふさわしい眺めです。

露岩の目立つ痩せ尾根を少し辿って次のピークが鞍掛山の三角点ですが、こちらは樹木に囲まれて全く展望はなく、頂上看板があるだけの地味な天辺。南側の尾根をちょっと下った所に鞍掛神社の奥宮があります。石の集まる場所にちんまりと石祠があって紙垂はまだ新しく、尾根にあるからでしょう、下の神社よりずっと明るくて伸びやかな感じがします。分岐する鎖コースはこのあたりに出る模様。
登り返して頂上からの西へ延びるのが、あの三角錐の天辺を通り古賀志山まで続く尾根です。
緑の中、いくらか急なアップダウンを繰り返し、岩の目立つ急斜面を息切らせてよじ登ると二月に歩いた男抱山から半蔵山や羽黒山が一望できる場所があり、ここからは篠井富屋連峰やその北側に点々とある小さな里山たちの眺めもいい。今このときに男抱山の頂上で、北西のこの山の形に驚いているひとがいると想像すると、そこに筆者は立っているわけで思わずえへんぷい、って我ながらどういう思考回路なんだか呆れますが。
このすぐ上が三角錐の狭い天辺で、すぐ真下には何本もの送電線と家々が光り、工場の音がよく聞こえてこの山の鋭さを実感します。ずっと鞍槍と(勝手に)思っていましたが、そばの木には「シゲト山 480m」の標識があってこれが正式名称かもしれません(鞍槍の方がかっこいいと思いません?)。

さてここからが泣きの下りです。短足には厳しい岩と根の段々の連続。非常に急傾斜です。何度もあにねこさんに待っていただいて筆者ひたすらへっぴり腰で青息吐息。緑はどこまでも美しく空は青いというのにそれを見ている余裕がない。こういう場所を軽々と下れるときが金輪際やって来ないと思うとただただ寂しいけれど、それが星の定めなのじゃ〜。とはいえ反対回りにコースを取るとこれを登るわけで、それはなおさら辛いし、第一面白くなさそうです。
ようやく杉の立ち並ぶ猪倉峠に到着してほっとひと息。いかにも里山の峠らしい静かな場所で、峠道を探ってるのかあるいは山菜採りの方のでしょうか、赤いザックがひとつ抛り出してあるのがとても印象的でした。

今の下りよりはずっと楽ですがまだまだアップダウンは続きます。
植林地の中や雑木の柔らかな緑の斜面を上へ下へ、色も形も様々な小さな菫や可憐な木の花に目をやる余裕を取り戻し、ときどき振り返って遠ざかるシゲト山の形を愛で、古賀志山への稜線を岐けてすぐ、山道は左側に崩れかけた林道のある伐採地へ突然飛び出します。
ここからは歩いて来た稜線のほとんどが目で追えて、これが嬉しい。あの谷を上がって、あれが鞍掛山で、こちらがシゲト山、ほらほらあの下りのあんなにすとんと落ちる稜線、なあんて幾度も指さし、下さえ見なきゃなかなか高山っぽいと無理矢理自讃し、伐採地特有の若い木の芽の色を誉め、おなじみの木苺の花を初めて見るようにつくづく眺め、風に吹かれて煙草を吹かし満足感に耽るのも歩いて来たご褒美のようなもので、唯一こちらから見るシゲト山が槍のようではなく、なんだか優しい形なのが物足りなくはありますが。

(たぶん)予定以上に長い時間を過ごして腰を上げ、あとは鳥の声を聞きながらなだらかな尾根を忠実に辿って、ゆるゆる下ると林道へ出ます。
古賀志山からの帰りでしょうか、賑やかな大グループの声が対岸に響いて林道は小さなダムを過ぎ、宇都宮森林公園の整えられた敷地に入って赤川ダムの畔へと。ちょうどサイクルピクニックの大会も終る時間ですれ違うひとも多くなり、ダムの堰堤で定番だといわれる湖水と古賀志山の姿を撮れば駐車地点はすぐそこで、あとはたっぷりとかいた汗をろまんちっく村の温泉で流して帰ります。

面白可笑しく一日遊んで、GWの出だしは上々。みなさまもどうぞよい山を。

"
"
"
明るい杉の中が登り口
緑はまだ若い
緩やかな道にツツジが残る
”
”
”
長倉山山頂 下りは意外に急 林道沿いの鞍掛山登山口標識
"
”
”
鞍掛山 二の鳥居 双体神といわれる石像
"
"
"
道は徐々に山道じみる
突き当たりが滝・すぐ左に洞窟
コース分岐点
"
"
"
頂上近くのツツジは蕾も混じる
眼下には歩いて来た稜線
古賀志山はけっこう近い
"
"
"
大岩・梯子を下る
尾根道愉し 鞍掛山山頂・地味です
"
"
"
奥宮
シゲト山への登り
北側の眺め
"
"
"
半蔵山・羽黒山がくっきりと
シゲト山山名票
下って見上げる・こんな斜面の連続
"
"
"
猪倉峠
シゲト山を振り返る
伐採地から・右鞍掛山、左シゲト山
"
"
"
最後はゆるゆると下る
古賀志山への木橋が見える
赤川ダムと古賀志山

* 楚巒山楽会トップへ * やまの町 桐生トップへ

inserted by FC2 system