黒檜山〜駒ヶ岳

*炎帝が最後の力を振り絞って宙空を舞い踊るような日、地上なんかに張り付いてたら気息奄々、溶けてしまうんじゃないかしら、なんてこぼしていたら山猫さんから救いのお誘い。大洞から黒檜山へ登り駒ヶ岳を下る周回コースを歩いてきました。

さすが日本百名山のひとつ、大洞の駐車場には最新スタイルの山ガールの一団。山猫、赤猫、本日初対面の斑猫(普段は遠い高い山ばかり歩いてらっしゃるのでその足取りの確かなこと、ずんずんずんと先導してくださる)の山ボーイ(!)猫軍団はいくらか浮き立ち、筆者もなんだかおじさまモードで一緒になって嬉しがります。赤城山、この頃若い登山者が増えてきたんじゃないかしら。桐生市最高峰が華やかになるのは喜ばしいことです。

黒檜の登山口まで大沼に沿う車道を水を渡る風に吹かれしばらく歩いてウォームアップ。左手の赤城神社のある小鳥ケ島は大正の初め頃平塚雷鳥がご夫君の奥村博史と初めて結ばれた場所。勿論今ほど交通は開けてはいませんが既に青木旅館はあったわけで、山上の大きな沼と鬱蒼とした樹林帯、水面を囲む峰々、昔から人を惹きつける景観は変わっていないのでしょう。
小さな稲荷社を過ぎて黒檜山の登山道が始まります。大きな石がごろごろした急登は両側に笹が茂り、筆者一行も後の山ガールたちもしばし無言で登ります。
稜線に出れば眼下には大沼が広がり地蔵岳がまだ夏の雲を背景に柔らかな曲線で延びて、けれども再び道は樹林の中に入り展望はなくなります。笹の勢いが良過ぎて花はキオンが所々に目立つ程度、鹿が剥いだ木肌が真っ赤なのが目をひくくらい。それでも頭上にはズミの実が赤く色づき、朽ち木の間に茸がまだ瑞々しい色で、ときどき流れるガスの冷たさと一緒に秋の気配を楽しみます。
もう一度展望が開ける場所があり、これが猫岩かしら。どちらも顕著な猫形の岩があるわけではなく、看板を見落とした筆者は後から口惜しがる。

浮き石の多い歩きにくい道がしっかりと踏まれた土の道になれば頂上への古い道標が立つ主尾根。左手に少し進むと三角点の待つ小広いピークです。1827,6m、いまのところ筆者の今年の最高峰。薄いガスに巻かれてほとんど展望はないので、腰を降ろしている先行者おふたりに挨拶してすぐに先に進みます。よく踏まれた笹原の道は山神さまの石祠で行き止まり、このそばのざれ場が好展望。大沼を隔てて先月登った鈴ケ岳がお椀を伏せたような形をくっきり見せ、鍬柄山からの急降下、急登を目で辿ります。谷川連峰はすっかり雲の中ですが、上州武尊はうっすらと姿が見え、利根川流域の町々や高速道路がきらりと陽光を反射して、黒檜山へ登る方々、ぜひこちらへ足を伸ばすべし。
岩陰にはもう盛りを過ぎた薄雪草や小さな苔の花が可憐で、無数の蜻蛉はすっかり茜色に染まり、舞い飛ぶ蝶もそれぞれに色鮮やかで、しばしの大休止は飽きることがありません。
たっぷりかいた汗が冷えて来たら三角点へ戻ります。老若男女のグループがいくつも腰を降ろしてらして、我が猫軍団、目敏くその中で山ガールご一行を見つけて先の展望地を教えてあげる。高い声でお礼など言われてでへへ、なんて、全くおじさまというものはなんと単純かつ純情!

道標まで戻り、駒ヶ岳への表示に従って進むとすぐにすっかり色の抜けた鳥居と御黒檜大神の岩のあるピーク。にわかに霧が湧き出してなかなか神韻縹渺たる景観、ホタルブクロやツリガネニンジンの紫色の花が似合います。
花見ケ原への判りにくい道標を過ぎ、道は関東ふれあいの道特有の木階段になり、まあ文句を言っても始まりませんがこの階段はやはり歩きにくい。階段の途中ですれ違う駒ヶ岳からの方はみな息を切らしていて、明るい雑木の中の道ですからもっと工夫があってもいいような気もします。
大きなマルバダケブキが鮮やかな大タルミを過ぎ、行手に駒ヶ岳がなだらかに見える笹原は広々として、風吹き渡り、やはりこの季節桐生の山を歩くなら赤城山に限るのかもしれません。

急な階段をひいこらひと登りで駒ヶ岳山頂。つい最近上げられた梵天の脇に山頂看板があるのですが、この向きがおかしい。標識のすぐ上の狭いピークの向こうから歩いてくるおふたりがいらして、はてこの先に道はあったかしらとお聞きすれば標識が大沼を指していると仰る。確かに大沼→は南を指していて、このおふたり暫く道を辿ったけれど獣道じみてきたので引き返して来たのだとか。賢明な判断で、なんといっても”裾野は広し赤城山”ですもの、とんでもない場所で二進も三進も行かなくなることだってあるかもしれません。標識だけを頼りにしちゃいけないと、これは自戒。標識を正しい位置に置き直して、さてここで昼食の大休止です。
若い薄が紅色の穂を靡かせて、目前には関東平野が広がり、鳴神山の山稜が墨色に霞むのを眺めながら桐生の山談義。もうすぐ桐生・みどり百名山がご紹介できるかも、なんて喋っていたら後から到着した方が大いに興味を示してくださって、みなさん結構地味な山を歩いていらっしゃる、鳴神以北の山の迷いやすさで話はどんどん盛り上がります。

黒檜山からの幾組ものパーティをやり過ごし、長々と寛いで、さてここからが代表幹事が赤城一だと言っていた山下り。残念ながらすぐそばの小沼さえ霞む日だったのですが、やはり視界の広い下りは気持ちがいい、短い距離ですが開放感に溢れて木の階段もさして嫌ではありません。今度は冬晴れの日にひとりで歩いてみようと心に誓います。
大洞への下山の広場からは柔らかな木陰に稜線上に道が続き、これも一度は辿ってみたいのですが、この道形はそのうち錯綜して判りにくくなるようで、赤猫さんも一度鳥居峠へ下るつもりで覚満渕に下り着き、鹿除けネットで大往生したそうで、代表幹事と会長がへろへろになりながら同じように歩いたときはまだネットがなかったのは幸いでした。
そんな目に遭わないように今回は大人しく鉄製の階段を使って大洞へ。
下界はひどく暑い日だったようですが、赤城山にはあちこちに秋の気配が満ち始めています。

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小さな稲荷社
石の多い急登
眼下に大沼が広がる
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雑木と笹の道
高度を上げて地蔵岳と長七郎
鹿に剥がれた樹木
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淡々と登る
主尾根の標識
ほのかに秋の色
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黒檜山三角点
少し先へと
谷川連峰は雲の中
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先月歩いた鈴ケ岳から鍬柄山
薄雪草はもう終わり
突き当たりの石祠
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黒檜大神のピーク
ホタルブクロがひっそりと
大タルミ
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笹原を縫う道
駒ヶ岳山頂
鳥居峠への踏み跡
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この広場もいい感じ
あとは階段を下ってゆく
ズミの実はもう赤い

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