山の紀行

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*今回はこつなぎさんご夫妻が草津の本白根に行かれるのに、いつもながら 同行させていただいて、「花を見に行く」の第二弾、咲き残っているコマクサと咲き始めたというリンドウを見に行きます。
笹の道を歩いていると香る匂いが大好きなのですが、その爽やかな薄緑の香りに時々混じる甘いいい匂い、あれは何の匂いなのかしら。火山地帯特有の硫黄の匂 いと、その何ともいえず甘やかな香りの交互に繰り返される気持ちのいい道を、渡ってくる涼やかな風に吹かれて歩いてきました。

桐生を早く出て食料などを買い込み、話題の八ッ場ダムの橋桁を眺め、昔吾妻渓谷や六合村の山をよく歩いたのを懐かしみながら、草津を経て志賀高原へ の道へ。夏休みの最終日曜で混むのではないか、と予想していた白根山のお釜の下の駐車場にはまだ空きがあるので、少し先にある日本の国道の最高地点へ寄り ます。
見渡す下界は夏の雲が厚く真白で、白砂山の方角に薄く山並みが見えますが、もっと空気が澄んだ日は見えるというアルプスなどの遠い山は雲の中。ぴかぴかの オートバイが並び記念撮影をするひとたちがたくさんいて、道の反対側の山肌にはまっ黄色のハンゴンソウとヤマハハコがびっしりと。イタドリも柔らかな花が 満開で、高度のせいか茂り方が控えめ、赤城山で出会うより初々しく可愛げがあります。

お釜の西斜面から白い火山ガスが噴き出しているのを写真に収めて駐車場に戻ればあっという間に車は増えており、お釜への登路はもうひとが並んで登っ ています。昔立入禁止の柵を越えて代表幹事がぐるっと歩いたことなど思い出し、今日は反対側の本白根へ向かいます。
逢ノ峰への階段脇からもうリンドウがあちらにもこちらにも。色の少し薄めなのや濃い瑠璃色の蕾が朝日にほんの少し綻んで、写真を撮り始めればなかなか先へ 進めません。すぐ下には蓬莱岩を水面に映す弓池と花野。リンドウの下にはつんつんと緑の葉と真黒な実のガンコウラン。さすがに高い山はすっかり秋の彩りで す。

逢ノ峰までは木の階段が整備され、さて歩きやすいのかどうか。歩幅が合わずたまに一段飛ばすと隙間に落ち込みそうにもなるので、真白なヤマハハコに 見とれてばかりはいられない。
山頂には東屋があり、あの白緑のお釜が覗き込めないかとテーブルに乗ってみましたが、残念、白茶けた山肌だけしか見えません。下りの長い階段を辿って、ヤ ナギランとオミナエシの花野に着けば次の登りはリフトを使います。

一気に高度を上げて到着するすすきの原には、リンドウと色んな種類の草の実が赤く色づき、すすきを分ける風に吹かれて木道を歩けば、いよいよコマク サの群生する場所。もう盛りは過ぎていますが咲き残りの可愛い花が。地元の生徒さんが毎年手入れされているとかで、濃いピンクは移植されたもの、薄いピン クは天然のものだとか。山稜に上がったところからぐるっと昔の火口を巡る斜面に植えてあるので、盛りの時はそれはそれは美しいに違いない。
他の植物がない薄茶色一色の中に緑の繊細な葉を広げて点々と咲くコマクサを眺め、緑の茂る旧火口に広がる一面の草の花の中に姿よくすっきりと咲くキリンソ ウを眺め、足元に小さなレースのようなイブキボウフウを見つけ、この遊歩道の最高点まで飽きることなく歩きます。
こつなぎさんも奥さまも花や実に詳しく、あれがゴゼンタチバナ 、これはコケモモ、そちらはウスユキソウ、これがマイヅルソウ。次々と指差して教えていただくのですが、オウムのように繰り返すものの、さて全てを覚えき れるのか。

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本白根の山頂は登山禁止になっており、それより少し低いとはいえ2154mの最高点。真上には秋の雲が広がっていますが、地平線に近づけば夏のもく もくした雲に変わり、形が余りに違うので驚きますよ、と言われていた浅間山はすっかり雲の中、長い裾野の一部が時々見えるだけ。かろうじて見える遠い山頂 を教えていただいて、岩菅山や四阿山や白砂山や浅間隠山、さてこちらも記憶できるか覚束ない。
昼食を広げて大休止する間にも、次々とひとが到着するピークにはまだ夏の名残の陽射しが燦々と照りつけ、一気に日に焼けていくのがわかるほどです。
まだいくらか冷たい果物やパンなどでお腹がくちくなったところで、少し道の先を探検。万座温泉に下る道のとば口からは横手山と、笠が岳に連なる山々がくっ きりと見えました。

さて、眼下に長野原の町を遠く望みながら、来た道を途中まで戻りロープウェイの山頂駅を目指します。真下に草津のホテル街が玩具のように見え出す と、山の裏側に入り、道は笹原の中になります。今まで見なかったオレンジや赤の大小の茸、うす黄色いホウキダケがツルリンドウや真っ赤な草の実の間に混じ りだし、淡く紅葉し始めた草や、木の葉を楽しみながら下ると右手に鏡池が見えてきます。
本来ならもっと大きな池が満々と水をたたえているはずですが、今年は猛暑で雨が少ない、ほんの小さな池になってしまって少し残念。秋がたけなわになる頃に は山肌も赤く染まり、もっと水が増えている美しい景色を想像して、長い木道に向かいます。

こちらは灌木が茂り、岩肌にはぴかぴか光るイワカガミがびっしりとついており、花の季節は一面華やかになりそう。複雑に影を落とす木漏れ日の中ゆっ たりとした下り道ですが、時々風の加減か硫黄の臭いがして、また笹の香りに戻り、その中に冒頭書いた甘いいい匂いが混じります。この匂いの正体が知りたく て幾度も笹の中に顔を突っ込んでみましたが、山で特別な香りだと聞くササユリも咲いてはおらず、さて何の香りなのか。昨年備前楯山でも嗅いだ覚えがあり、 もどかしいような気になるいい匂いです。

遠くにリフト乗り場の古い建物が見え出すと、道はまた花野の中を進み、斜面から吹き上がってくる風に一面の草の穂が揺れて、ヤナギランが咲き誇る中 にコオニユリや色褪せ始めたツリガネニンジン、これから色濃くなるワレモコウ、ゴマナにキリンソウ、さわさわと風の音がするだけの静かな初秋の野原です。
ロープウェイの駅まで歩きシャトルバスで弓池まで戻れば、高くなったお日さまにリンドウは朝よりずっと大きく開き、池はきらきらと陽を反射して、数えきれ ないほどの花を見た満足感で思わず大きなため息をつきます。
これから草紅葉は本格的になり、斜面が赤くなればますますこの山は美しさを増し、そんなに遠くないのに日常とは全く違った景色が見られる、お薦めの山で す。

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ハンゴンソウ イタドリ ガンコウラン
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リンドウ ヤマハハコ群生 ゴゼンタチバナ
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タケシマラン ツルリンドウ コマクサ(天然)
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キリンソウ ウスユキソウ 草の穂に風が
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イブキボウフウ コキンレイカ・花の終わった直後 コケモモ
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シロモノ? コマクサ ツリガネニンジン
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コオニユリ ヤナギラン ゴマナ

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