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*今年の梅雨は毎晩雷は確かに鳴るけれど、しかも他所では大変なことになってるけれど当地では雨が少ない毎日で、きっと降られないだろうとの希望的観測で黒坂石側から根本山〜氷室山を歩いてきました。メンバーはおなじみのいつもお世話になりっぱなしのあにねこさんと桐生みどりさん。

●まずは十二山神社
沢入から黒坂石バンガローを過ぎて、未舗装の林道左手に現われる山神社前から出発です。沢の合流点なので風は冷気を含んでいて思ったほど暑くはありません。林道から右手の作業道に分かれる道には根本山登山口の看板が立っていて、この作業道は木いちごの道です。赤い実と黄色い実を鈴なりにつけた木が続き、まだ喉も乾かないしお腹も減ってはいませんが見る度に立ち止まって、こっちが甘いのいやこっちの方が美味しいだの口に入れる。これだけ生っているのは誰も取らないからでなんだか勿体ないのですが、まだ歩き始めたばかり、荷物は増やしたくありません。

沢沿いに歩けば風は快く空も青く、登山口を示す看板に従ってジグザグに作られた山道に入り支尾根を目指します。左手意外に近くにもう根本山の山頂が見えて、桐生側から見るよりなだらかな優しそうな山に見える。細い植林の間を少しの急登で主尾根に合流し、すぐ最初のピーク1041m。空気は水気を含んで確かに重い感じはありますが、たまに吹き抜ける風に吹かれればそれまでの汗もひいて、ギンリョウソウの不思議な姿や音符のように並ぶ小さなきのこ、薄い空色の花期真っ盛りのコアジサイを楽しみながら痩せ尾根を進むと、この登路一番の難所が現われます。
急斜面に張られたトラロープを確保して崩れかけた道を進めば鎖場。根本沢コースを思えば短い距離ですが湿った木の根や岩は滑りやすいので舐めてはいけません。
根本山へのこの尾根からの直登は岩場のある急登だとかで、今回は少し霧が出てきた明るい道を中尾根との十字路へ。

十字路からは山頂を巻いて十二山神社を目指します。昨年の根本山と今年の熊鷹山で歩き残した稜線です。山の向きの具合なのかしら、斜面は白い霧で包まれてゆったりとした道のすぐ下で鹿が警戒音を出し、きっと下は暑くてこの山は雲の中だと思えばちょっとした異界気分が味わえます。
山中とは思えないほど広く開けた場所に鎮座する大山祇命、上屋の中の石祠に手を合わせ、前面にはとても動かせない重さの石の鉞と、かつて本格的にあった神社が焼失したときに残ったものなのでしょう、唐獅子があしらわれた古そうな金属の部品、どうやって運んだのか大きな水盤などがあります。お供えの花が新しいのは最近お祭りでもあったのでしょうか。
右脇には屋根だけになった建物の残骸があってそのうしろに大きなやまなしの木が高く茂り、これは季節になると大量の実を落とすのだとか。宮沢賢治の作品の話などをしながらここでビールと昼食。酒類を持っての山行がすっかり慣例になってしまいました。

●次の目的氷室神社
大休止の後1142m分岐まで丁目石を辿ります。相変わらず十二山と書かれた看板がひとつあり、登ったからには名前が欲しい人間の性とはいえ困ったものです、と偉そうに言ってみる。
分岐から宝生山の方向に、笹の中を緩くカーブをしながら続くアップダウンの少ない道を辿ります。山域はもう栃木県に入ったからか、植林地は姿を消し、自然林の明るいはっきりした道が続き、霧が少し重たくなって雨の気配が濃くなったり、再び明るく晴れ渡ったり。こちらは氷室神社への丁目石なのでしょう、御影石が摩滅してもう文字が読めなくなった石柱を見つけながら、中沢下山口の分岐を過ぎ、気持ちよくずんずんずんと進めば、全ての樹木に一匹ずつとまっているに違いないと思えるほど春蝉の声がわたしたちを包み込む。

日曜なのにどなたにもお会いしなくて、この季節に地元の山を歩くのは酔狂なのかしら。あら珍しいこんなところに道祖神、あら蝉の抜け殻が光を透かして綺麗、なんて浮かれてスキップなどしていたら、どうやら宝生山を巻いてしまったようで、今回はきっちり三角点のある山には寄らないままになりました。
地図で見れば長い距離ですが、ほんとうに平坦と言ってもいいくらいの明るい気持ちのいい尾根歩きです。ここは展望を楽しむというよりは歩き心地を楽しむコースかも。

宝生山のすぐ次のピークには天明五年の年号がある石祠が苔むして、この山頂に氷室山と書かれた看板がいくつもかかっています。気持ちはよーくわかるのですが、氷室山という山名、もし名付けるならここではありません。
この先十九丁と書かれた丁目石の向う、丈高い樹木に囲まれて薄暗いご神域、氷室神社のすぐ後の古墳じみた高まりが当然氷室山の名に相応しい。少し湿っぽい陰気な雰囲気ですが、ちゃんと灯籠をふたつもった立派な氷室神社に到着です。

ただただ自然の溢れる高い山も好きですが、こうやって里から離れた高みに神を祀り、参拝するのはもちろん数少ないレクリエーションでもあったでしょうが、やはり現代よりは切実になにかを願い託した場所にどうしても心惹かれてしまうのは、もう年寄りの証なのかもしれません。信仰心はなくても積み重なった時間の襞が心に響きます。
神域なので伐られなかった樹木は高く空を指して、落ちてくる光に白く輝きながら雨が降り注ぎ、盛大な狐の嫁入りが始まりました。神さまに手を合わせて急いで下山します。

●スタート地点の山神社へ
先ほどの祠と看板があったピークとの鞍部に、みどり市が設置した黄色い看板があります。今年の日付がはいっているわりには古びた看板で、本格的に降り始めた雨に傘をさして歩き出せば、やはりこの季節、道に覆いかぶさった草は茂りに茂って、沢の水量も多くけっこう急降下です。

両側の草は濡れて、それをかき分けて進むので腰から下はびっしょりで、さした傘で上から覆いかぶさる枝を払い除ければ頭はずぶ濡れ、おまけに片手がふさがっているのでバランスが悪く、思わず近場の木を掴めばたいていが棘のある木いちごで思わず悲鳴をあげ悪態をつき、いつもの如く大騒ぎしながら下ります。
雨を集めて早くなった流れを幾度も徒渉し、橋があればいいのにと泣言を言うと、木でしっかり組まれた橋が出てくるのは神のご加護。なんて喜んではいられません。木製の橋は濡れてつるつる滑り、案外の高みに架けられた長い橋なので気分はもうサーカス少女(!)、綱渡りの心境です。それがまた何カ所もある。

落葉期や雪のあるときなら20分程度というコースを倍近く時間をかけてようやく林道に下り着けばぴたりと雨は止んで、山上の神社のどちらにもお賽銭をあげなかったせいではないかしら。やはり小銭は常に用意せねば。
ここからは小一時間、太陽に照らされて一気に暑くなった林道をてくてく歩き。日傘代わりに傘をさして、これは帽子より涼しいし直射日光も遮って、沢の下りでなかったら山の必需品にしても良さそうです。こちらの林道も木いちごがみっしり付いた木が斜面の上まで続いていて、掴むと痛いけれども食べれば美味しい、次に来るときは採集の用意をして来ましょう。

左手にたっぷりの水量で流れる川からは水蒸気が絶え間なく上がり、この道が車が入れる林道でなければ濡れたものを脱いで飛び込んで泳いでみたくなる淵が続出します。水浴びをする妖精に見えないかしらと問えば、顔を背けて水に浸かった砂掛け婆などと言われ、しかたがない、山神社と黒坂石の蚕影神社にお寄りした後、帰り道の草木ダムのほとりサンレイク草木で入浴して帰りました。桐生市民料金400円は安い。広々したお風呂、地元の方ではなくても500円、やはり安いです。

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