男抱山〜半蔵山〜羽黒山

*宇都宮には男抱山・おただききやまという不思議な名の山があります。山の神さまは女性なので確かに男を抱くのではありましょうがなにもそんなにはっきり言わなくても、ねえ。ほんとうはおとだきやま・弟抱山、山頂の岩が小さな弟岩をを抱いているように見えるからという説もあります。既に名前がついてからですが、ここには地元のきし江さんと江戸から来た妻子ある甚九郎殿の悲恋の伝説もあって、なんにしろ筆者好みのなかなか艶っぽい名前です。
宇都宮ICを降りてすぐ、富屋地区にあり、登山口の小さな墓地の斜め前にはただおみ温泉があって帰りにここで汗を流す予定。

墓地の右側の標識に従って植林地の中を緩く登ります。明るい杉林で羊歯がよく茂り青木の緑も目立つ気持ちのいい道です。すぐに東峰(男抱山)と西峰(富士山)の分岐になり、まずは左の沢にかかる木橋を渡って富士山を目指します。
良く晴れた空から燦々と陽が注ぐ斜面は温々としていて、本日筆者は珍しくあにねこさんの先に立って上機嫌で元気がいい。しっかりと踏まれた道はしばし急登。尾根に着いてからは松と雑木の間を岩混じりの稜線歩きとなり、これがなかなか楽しい。振り返れば関東平野はいくらか霞んで、樹間左手には古賀志山の手前の山並がちらちらと眺められます。歩き出してまだ少ししか経っていないのにもうすっかりアルペン気分ですが、さすがに下からの車の音が近いのはしかたありません。

軽いアップダウンの後行手に大きな岩塊が聳えて、うお、どうやって登るのよこれ、と悩む勿れ。ちゃんと道が刻まれていて二組ほどハイカーの方が座っている富士山山頂。西には古賀志山の特徴のある山容が黒い影になり、南側は直下のロマンチック村や、ぽこぽこと小さな山の間の集落が光り、遠くには宇都宮市街、もっと向こうにはうっすらと筑波山が浮かんで、関東平野取っ付きの山は眺めがいい。一服しながら展望を満喫します。すぐ前にはこれから登る男抱山天辺のごつごつした大岩も見えてうふふのふ。
山頂からは東の岩場を急降下。すぐに鞍部になり東峰へ登り返します。露岩の間を木の根が這う登りは、もちろんちゃんと山をやっている方には箱庭みたいで鼻で嗤われるでしょうが素人の筆者はわくわくと面白くて、頂上直下は何本もトラロープが垂れていますがそんなの使わなくてへっちゃらだい、とか言いながら手がかり足がかりを決めて身体をずり上げていくのがとても楽しい。
このコースとても気に入りました!

男抱山は富士山よりもっと展望が良く、北には半蔵山がどっしりと構え、東北側に篠井富屋連峰(別名宇都宮アルプスですって!)、特に西の古賀志山稜の右端の急峻な三角錐がくっきりと空に映えて気になります。559m峰ではないかと天辺にいた方に教わりましたがここから見るよりは歩きやすい岩山とかで、う〜むそのうちやっつけに行きたいな。
頂上看板も大岩に白字で書かれた山頂名も鮮やかで、次々と到着する方で賑わい、ここはこの展望の良さと岩の面白さで人気がある山だそうです。
南側の登路を少し下ったところに弟だといわれる岩がにょきと突っ立ち、仙人ヶ岳のつなぎ石よりは小ぶりで安定していますが(ああ可哀想なつなぎ石!)それでも基部が細くなっていて見ているとくらくらしてきます。こちら側には祠もあり、やはり兄弟神なのかしら可愛い桃型の口が二つあってお賽銭がたくさん積まれていました。

眺めを惜しみながら岩場を下り、来た道を少し戻って鞍部から半蔵山への標識に従って北へと。折れ枝や倒木が目立つ道はこの季節なのに緑が濃く、青木や榊、椿の葉がつやつやと盛んで、気候が変化しているからかしら、北関東の冬の里山というよりちょっと九州っぽい感じがしますが静かで緩やかな登りです。
昔はここから石を切り出したのか、尾根の左右に作業道の痕跡が交錯しもう苔むしていますが大きな岩が所々に切り口を見せていたり、雑木の中に忘れ去られたような石祠が蔦を絡ませていたりしてちょっとジャングルの中の廃墟を歩くような不思議な道です。山歩きというより森の中を彷徨っている気分。途中から東電の巡視路と合流して山道っぽくなりますが、このコースには標識が要所要所にあって歩きやすい。
一箇所、道のすぐ右側に杉に挟まれて割れている大きな岩場があり、この山域は大谷石と同じ凝灰岩で加工しやすいけれど脆くもあるそうで、ほんとうに石より杉の方が強そうに見えます。
この石切場跡から先はいくらか傾斜が強まり暫く大人しくなって息を切らせます。

すぐに鋪装された林道に突き当たり、ここを右に少しだけ歩くと左に半蔵山への標識。林道の日陰には雪が凍り付いていて杉の上の方を音を立てて風が吹き渡り一気に気温が下がったのが判ります。笹の間を登る道にも薄く雪が残るようになりさっきまで九州などと浮かれていたのが嘘のような。やはり北関東なんだわ。
黙々と10分ほどで登り着く半蔵山は細い雑木に囲まれてほとんど展望はありません。樹の間から見える日光方面はすっぽりと雪雲に覆われて、あれじゃ猛吹雪ではないかしら。そちらから吹く冷たい風の中で三角点と頂上看板をカメラに収め、お腹はお昼ご飯を催促していますがとてもじっとしていられないほど寒いのでそそくさと先へ進みます。
西へ少し下った岩場に石祠があり福禄寿のような小さな石像と真っ白な徳利が供えられていましたが、まだ風は強くて冷たい。その先には北側に大きく突き出した露岩があって足元の小さな集落や日光方向へ眺めが展けますが、それだけに雪は消えても座り込むには寒過ぎます。

小さなピークを越えて急斜面を登り詰めると羽黒山山頂。それまでとは書体の違う縦書きの頂上看板を見るといかにも信仰の山というような気がします。ここも杉の木立に囲まれていて展望は全くありません。
この山頂のすぐ南に大谷石で組まれた驚くほど大きな石祠があります。屋根だけでも何枚もの大石が使われていて彫刻も施され、中には藤蔓の注連縄が巻かれた石柱が祀られていて、今は笹の中に危なっかしく立っていますがかつては盛んな山岳修験の場所だったのではないかしら。
ここは風が当たらず陽射しも暖かくて祠の脇でようやくお昼の大休止。暖かなコーヒーに身体が喜びます。風が冷たかったよ〜、冬山だったよ〜(500mしかないのにね)。

ものを食べると元気回復、お日さまを浴びて長々と休んだ後は南へと尾根を辿ります。山頂からは西への小道も続きこちらは池ノ鳥屋山を経て鞍掛峠へと続き、もうこの国には歩かれたことのない山道なんて存在しないんでしょうね。
南側へはけっこうな急降下。けれども色の鮮やかなテープがいい具合についていて、今回筆者はほとんど先に立って歩いているのでこの印がとても嬉しい。笹が被ってうるさい個所もありますが道はよく踏まれていてしっかりしています。かつては祠への参道だったのでしょう、途中にはもう壊れてしまっていますが大きな鳥居の残骸があり、石燈籠を従えた祠など石祠もいくつか、中でも見事なのは「男體山供養」と朱の入った石塔で、享和元年(1801)、建立の方々の名もたくさん側に書かれて日月の彫りも堂々と、いくら大谷石の本場とはいえこんな大きなものを運んだ時代を思い、書かれた文字が息づいているように生々しく感じました。羽黒山ではなく、山頂の背後彼方、日光の修験の山だったのでしょうか。かなり大がかりで盛んな信仰があったのだと偲ばれます。
その下の石切場跡にももう文字の読めない石柱があったりして、今日のコースは実に様々な表情の道を歩けて面白い。いつもより写真が多くて、当会今年一押しの道です。真夏は辛そうですが風通しの良い道なので初夏までなら大丈夫そう。機会があればみなさまぜひ。

傾斜が緩まると道も広くなり右手からはゴルフ場の声が聞こえて、すぐ下には林道があるようですがなるべく忠実に尾根を歩きましょう、せっかくの山道が消えてしまわないように。
一度舗装道も交じる墓地に突き当たり、そこを抜けてまだ山道は続きます。落葉がふかふかして、倒木がいくらかありますが固い蕾をつけた椿や青木でまた林の中を散策するような緩やかな下りです。道が平らになるあたりの左側に立派な庚申塔が二基、その後も林道の交差する十字路まで点々と庚申さまが続きます。このあたりの作法なんでしょう、どれも長方形の大きな大谷石に日月と文字が刻まれ、嘉永、大正、明治、万延、いろんな時間が印されて、見つける度に歓声を上げてしまいます。
その十字路を直進して暫し、杉林が切れてぽんと明るい畑地へ出ました。ここからは富士山・半蔵山・羽黒山のなだらかな山稜が一望できて、歩いた稜線を目で辿れるのも嬉しい。羽黒山がつんと突出して、なるほどこちらからならまずあの頂に祠を建てたくなるだろうと納得。いかにも里山らしいいい山並です。

大きな防風林に囲まれた歴史のありそうなお宅を眺めながら豆田川という小さな流れを渡り、畦道の面影を残すくねった車道を少し歩いて富士山線と表示のある林道へ再び入ります。杉林の中の静かな道で途中伐採工事のあたりで道を外さないよう注意して進めば、あら不思議、どんぴしゃりと駐車場所へと到着。何のためのGPSですかと笑われましたがやはり何かの魔法にかかったような気分で、幹線道路を全く歩くことなく楽しい周回が完成です。いやあ実に面白かった!
目の前のただおみ温泉のぬるめのお湯でじっくりと暖まり、腰に手を当ててフルーツ牛乳を飲んだら一路桐生へと。
やっぱり山は好き。今年はたくさん歩くんだ!(←と決意はしてるんですが…)

"
"
"
登山口看板
富士山との分岐
小沢の木橋を渡る
”
”
”
明るい斜面 稜線は岩混じり 富士山山頂の大岩
"
”
”
遠くに古賀志山 関東平野は霞んで
頂上看板
"
"
"
鞍部
岩と木の根の間を
山頂の大岩に北から回り込む
”
”
”
あの形にはそそられます
頂上看板と宇都宮アルプス(!)
弟岩
”
”
”
南側には祠がある
鞍部へ戻り半蔵山へ
緑の濃い道
”
”
”
よく踏まれた緩やかな道を歩く
薮の中に石祠が
石切場の跡
”
”
”
大きな露岩があちこちに
半蔵山の稜線が近づく
ちょっと急登
”
”
”
最後の登りには雪が残る
半蔵山は三角点も寒そうです
山頂西側の祠
”
”
”
日光側に眺めが展く岩場
羽黒山山頂
大きな石祠
”
”
”
雑木の尾根を下る
石燈籠も残っている
大きな石塔
”
”
”
薮っぽいが道はしっかりしている
道脇には庚申塔が次々と
右富士山・奥半蔵山・左羽黒山

* 楚巒山楽会トップへ * やまの町 桐生トップへ

inserted by FC2 system