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*桜峠、素敵な名前、なんて少女趣味なことを思って出かけて敗退したのは09年の夏でした。猪除けの柵と生い茂る雑草で断念して、冬枯れの季節に再トライしようと決めていた峠道をやっと歩いて来ました。というか再び大彷徨して来ました。

登り始める前にまず山際の古いお堂で青面金剛を見つけ、これがなかなか立派なものでほくほくしながら山道へ入ります。琴平さまの新年のためでしょうか倒木や枯れた竹が道脇に片づけられ、猪除けの柵も取り払われ歩きいい小広い道。どうしてこれが判らなかったのか我ながら頓馬過ぎるとも思うのですが、でも夏には判らなかったんだもん。
げきさかさんの記事で読んだ柚の木が青空にくっきりとたくさんの実を鮮やかに浮かべて、ほんの少し進めば道の右側には赤い鳥居が見えて来ます。くぐって少し探してみましたがお宮の類いは見つからず、踏み跡らしきものが上に続いていたので、昨年始めにこの右の稜線を歩いたときに発見できなかった金比羅さまは山頂と鳥居の間のけっこう高い場所にいらっしゃるのか、それとも山そのものがもう神さまなのか。

細い杉林と雑木の斜面のあわいを通る道は明るくてなかなかいい感じ、拾った桜の枝を杖がわりに振り回してずんずんずんと進めば、朽ちきってもう踏むのが怖いような木橋が現われ、道はその向こうの小暗い杉林の中に入っていきます。橋が渡してあるのはごく細い沢で、今日は単独行、誰も見てないのをいいことにびゃんと飛び越えて両手を広げて着地して、へへん、なんていい気分になったのですが、実はこのあたりから道を間違えていたらしい。
沢に沿って最初は快適だった道はだんだん怪しくなり、急斜面にぶつかって、それでも下から見上げれば進めないこともない、木に掴まったり膝行したり杖にすがったりして高度を上げて、土は渇き切って崩れやすく何度か滑り落ちたりしているうちにとうとう篠竹の薮に突入です。危なっかしく樹に縋って振り向けば吾妻山の稜線が綺麗なカーブを描いて、川内側から見るこの山の姿は結構長い。

GPSを取り出せば(遅い!)どうやらひとつ西の谷を這い上がっているようで、いくらか東に進路を修正しても斜面はトラバースしようがない傾斜と柔らかさ、もう上は青空だらけでこれは薮を突っ切って稜線に出る方が早いのではないかしら。空に突き出す大きな檜を目標に薮を泳ぎます。口をつくのはみなさんご存知ないでしょうが、♪さちこのさちはどーこにあーる、なんて実に悲しい暗い歌で、だいたい筆者は幸子ではないのに。
手がかりだけは豊富な篠竹の斜面を登り着けば、これは少し稜線を外れているのか踏み跡さえ全くない一面の竹薮。それでもGPSの画面はこのすぐ下に林道があると主張し、密生する細い竹は優に筆者の背丈を越えて、ああ愚よ、愚よ、あたいはどうしよう。

高い木をほんの少しだけ登ればそれでもすぐ横に谷山らしい高まりが見え、峠はこの右側にあるのは間違いないのですがなんといっても見回す限りの笹薮で、しかたない機械のご託宣通りにまっすぐにかき分けて下ります。大間々方向のどこか遠くで銃声が谺し、こんな道でもなんでもない場所をがさがさ揺らしていたら猪と間違われてもおかしくない。足元にはその猪が竹の根を食べるために掘り返した深い穴がときどき出てくるし。再び幸子になって歌など歌い、こんな場所で帰れなくなったら頓馬どころじゃない、大馬鹿プラス無脳豚だわと己れを奮い立たせ、手や足に絡み付く小枝や竹をものともせず進みます。
頬や手の甲に小さな傷を増やしてなんとか未舗装の林道に到着。真正面に斜面を削り取られた山が見え、あれが396mピークかしら。時間にすればそんなに長くはないのだけどひたすら心細かった冒険の終了です。
計画ではこの林道を終点まで歩き445mピークからうちの古い地図に記載されている破線を下りるつもりだったのですが、もうそんな元気は消し飛んで大人しく桜峠へ向かいます。

林道が大きくカーブした場所から桜峠はすぐ。両側は切り立った急斜面で風花が舞い今日は赤城からの風がずいぶん冷たい。峠というより堀切と呼ぶのが相応しいようなたたずまいで、桐生側には杉林の中を緩やかに踏み跡が続きテープの白も所々に見えます。けれども登ってくる途中岐路なんかあったっけ、やはりあの木橋にがむしゃらにならないで、手前で周りを見回せば良かった。
こちらを辿ってみようかとも思いましたが、本日は峠越えの日、すっかり雲に覆われた黒檜山を見ながら林道を下ります。いくらも進まないうちに道は舗装道になり、何度かカーブを切るうちに左手に鍾乳洞公園の東屋が見えて来ます。

両側から迫る山を仰ぎ見ながら大間々が扇状地であることを実感しつつ、かつ路傍の石仏を探しながらあちらに寄りこちらに寄り上電の駅まで、筆者の本格的な初歩きはなかなか苦行じみた一日がかりのものでございました。きっとこれでお正月呑み過ぎたカロリーは消えてゆくことでしょう、と切なく願うのであります。

桜峠(もどき)
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あの切れ込みが桜峠
歩き出しの柚畑
琴平さまの鳥居
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明るい快適な道
朽ちた木橋を跳び越える
しばらくはいい道
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急斜面に突き当たる
吾妻山が長い
薮に突入し空を目指す
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登り着けば篠竹だらけ
やっと林道に辿り着く
大間々側からの桜峠
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桐生側から、いかにも峠
黒檜山は雲の中
鍾乳洞公園が広がる

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