三滝〜氷室山〜岩苔沢

*春に歩いた大戸川の源流の原生林(白岩山神社探訪)、秋の色もどんなに美しいだろうと歩くのを楽しみにしていたのですが、風邪っぴきで少し時期を逸して、もう落葉期になった明るい沢筋を滝を見ながら登り、前回見送った岩苔沢を下りました。

○三滝
赤い色の大きな樹木がいくらか残る山肌を愛でつつ、旗川源流水と呼ばれる水汲み場を過ぎ、舗装道の行き止まり熊穴の滝の駐車場から出発。熊穴の滝は落葉の積もった岩肌を二段に洗う水が白々と朝日に映える綺麗な滝。通行禁止の舗装道のすぐ左手を少し登ったところに撮影ポイントがあります。
白ハゲ口2.2kmの標識から急な林道を右手に流れる沢を見おろしながら登ります。舗装が荒れて大きな段差のついた道ですが、軽トラックなら入れるようで二台ほど褪めた赤の落葉の中に駐車してありました。ひとつは山葵田の持主の方で、もう水が冷たくて大変だとのこと。うわっバランスの悪いわたし、沢に落ちたらどうしましょう。

舗装の終わるところに相変わらず古びた看板のある白ハゲ口。山道に入るとすぐ苔むした木橋が続き、これが朝露に濡れて滑ること滑ること。足元ばかり見て、へっぴり腰の横歩きでなんとか進みます。春より水量が細くなった沢はすぐに二手に別れ、三滝への川コースと山のコースとの分岐点。今回は沢本流を直進する川コース、途中大きな岩を巻いて三滝の一番下の滝壷に向かいます。ここからは真上にこの最下段の滝だけしか見えません。両側から抉れた岩の迫る間を優美に落ちる水は白く、紅葉の盛りは鮮やかなコントラストだったろう落葉はもう枯葉色で、水音も周囲の静けさに吸い込まれていきます。
少し戻って登る道には三滝の展望台があり、こちらからは二番目の滝が細く長く山肌を伝い、ほとんど直角に続く一番上の滝の落ち口がなんとか見えて、三段の滝の全貌はなかなか掴めません。
この後道はこの長い滝を大きく巻いて登りになり、岩の露出する斜面を補助ロープなどを使って下れば、滝の上とは思えないほど静かで明るい沢筋が広がります。

○氷室山
もう朽ち始めた木の橋がかかる沢を、今日は水が少ないので橋を使わず幾度か徒渉して緩やかな踏み跡らしきものを辿ります。両側の緩斜面を高く低く進めばほとんどの木は葉を落とし、時々右の方から吹きおろす風に一斉に舞い上がる枯葉が陽光にきらきら光り、このコースはこのあたりの白眉の道だとあにねこさんが言う通り静かで美しい景色が続きます。主に左手から流れ込む支流もどれも明るくて登ってみたいような気になる。広葉樹なのにまだ緑の茂る木もあり、葉を透かして空は深い色で頭上に広がり、止せばいいのにコーヒータイムにほんの少し落としたウイスキーで、なんだか浮かれて千鳥足。沢を飛ぶのに失敗して派手に転んだり、どういうわけかザックを落としたり(不思議です)、思うほど足が上がらず落葉ともつれ合ったり、同行者に呆れられながら沢を詰めれば氷室山への小さな標識のある突き当たりに到着。

ここから右側に息を切らして一気の急登で越路館平(こーじやかただいら)。ほんとうに館の建てられそうなほど広く開けた場所で、すぐ正面に宝生山の山稜が近づきます。
再び急な道を登り、もう火口は失われていますが文政の年号が彫られた燈籠に出合えば、道は笹原の中をしっかり踏まれた葛生からの参拝道と合流し、両側に檜が高い稜線を左にしばらく歩けば、摩滅した丁目石や前回下った黒坂石への道を過ぎて氷室山神社に着きます。
相変わらずお花や供物がたくさん上がる山宮に手を合わせ、安蘇の赤部天狗が祀られているというここは、檜が茂り日陰なのでいくらか寒く、すこし裏側に回って風が当たらない場所でお昼です。いそいそと可愛いアルコールのストーブを取り出し、えへん、初めて持ったわたしの山道具、恐る恐るの火入れです。肌寒い山の空気に晒されて飲む暖かなスープやお茶の喜び、これでもう一人前と言いたいところですが、残念ながらコッヘルの類いは借り物。欲しいものは限りない。

食事を終えて氷室山の頂上探索。ネットを検索すると色んな場所が氷室山頂と呼ばれていますが、標高点は神社の北に延びる山稜の最高点。最初のピークに白い立派な「栃木百名山57番」の看板がふたつ付いていますが、そこは間違い、その先に高く見える山頂が本来の1123m地点で、こちらにも茶色の字が薄れ始めた看板がふたつ。どちらのピークも木立に囲まれてあまり展望はありません。

○岩苔沢
鬱蒼としたご神域を後に来た道を戻ります。黒坂石への降り口は袈裟丸山の特徴ある形がよく見えて、吹き付ける風は袈裟丸颪。冷たい北風がかなり強く、この時期は影が長いのでなんだかもう夕方のような気分で、登って来た分岐を過ぎ、石祠のピーク、宝生山を巻いて十二山方向に先を急ぎます。
左手にテープを巻かれた木はたくさんあるのですが、岩苔沢への下り始めにはっきりした目印はありません。地図上の短い尾根を伝って右側の谷方向へ斜面を下ります。道ももちろんないので、がさがさと盛大に枯葉を蹴散らし足まかせ。これは桐生みどりさんやあにねこさんと一緒でなければとても下れない沢で、地図を見ても、GPSを見てもわたしにはひとりで歩けそうにありません。

涸れ沢に水が見え始めれば、基本的には流れに沿って進みますが、何カ所か高く歩く場所もあり、落葉と一緒に少し滑り落ちたり、木の根や浮き石に足を取られたり。どうしてもおふたりから遅れてしまい、不器用な自分の身体を呪い、明日からは必ず筋トレをして甘いものを控えようと心に誓います。
沢は小沢を合わせながらだんだん水量を増やし、どこまでも透明で綺麗な水、沢が少し深くなるところでは岩魚の魚影も見て、雑木の山の恩恵は尽きることがない。どんな沢にも名があると聞きますが、いまやそれを呼ぶひとがどんどん少なくなり、このあたりも旗川源流とひとまとめにされているのは寂しいものです。

わたしだけが汗まみれでまた額や頬を塩辛くして、本流との合流点にようやく着いて振り返れば、ふむ、結構荒れた沢のようにも見えました。あとは往路を戻りますが、同じコースでも来た道と帰る道は眺めが違います。来るときには気づかなかった橋をふたつみつけ、影がますます長くなる沢下りは遊歩道という看板なんかがあるけれど、トラバースする個所は初心者ではうまくコース取りできないかもしれません。いつものことながらおふたりに感謝して、三滝との分岐点は山コースをジグザグに下ります。よく踏まれた道とはいえ杉の植林地帯に入ればもう薄暗く、楓の紅葉が夕陽に照らされて、確かに山コースの方が歩きいいかもしれませんが、間違いなく面白いのは三滝コースでしょう。
一息入れた白ハゲ口の広場から林道を下れば、なんだかひと恋しいような、胸痛いような夕暮れ。暗くなる前にと急げばもう駐車場に他の車は影もありません。

まだもう少しは日が短くなる季節、万全の準備と余裕あるスケジュールでぜひこのコース、たくさんの方に一度は歩いていただきたいお薦めの山歩きです。

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