石尊山〜深高山

*先週は余りに腑甲斐なく、やはり山はまめに歩かなきゃいけないと決意した筆者。とはいえもとからひとり歩きが苦手なうえにまだ梅雨最中、長期予報がいくらか外れてお天気がもちそうな日曜日に、ずいぶん昔に代表幹事と登ったのでなんとか歩けそうな小俣の石尊山にばたばたと出かけます。

叶花の石尊宮里宮でちょうど登りはじめられる方おふたりを見送り、しばし丁石を撮ったりお社の彩色された梁などを拝見して、杉木立の中のよく踏まれた道を右に沢音を聞きながら登り始めます。採石のため切り崩された稜線のガレ場に突き当たったところが八丁目、突然開ける白い空の明るさの中、火焔の右端が欠けてしまったお不動さまがおわします。
少しの登りで支尾根に乗ったところが女人禁制の大きな石柱のある十三丁で、こんなに麓に近かったのかと二十五年ほど昔の記憶との違いにちょっと驚きます。

ここから主稜線に向かって道はいくらか傾斜を増し、朝方雨が降ったのでしょうか少し滑りやすいけれど誰も聞いてるわけじゃない、おおっと とか ふんぬっ とか、筆者は案外独り言体質かもしれないな。途中お会いした下りの方は頂上のお宮の修理にボランティアで関わっているそうで、大きな資材を持ち危なげなく下ってゆかれました。
いくつか丁石を見て、周りが雑木になれば木製の土止めの階段になり登り切ったところが主尾根。ベンチがしつらえられ、階段の長さに息が上がってへたり込む筆者は寛いでいらっしゃった先行のおひとりに笑われます。

ここからがこの登りのハイライト。露岩の中を高度をあげる砂礫混じりの道は左手に桐生の山並が奥へ奥へと重なり、右手は眼下の砕石場の向こうに関東平野が広がり、冬の寒い日は富士山や八ヶ岳、東京の高層ビル群もよく見えるはずです。もっとも今日は曇天で赤城山さえ雲の中ですが先週歩いた県境尾根がすぐ横に延びて、もうそれだけで嬉しい。
二十五丁から六丁にかけての大岩場を越えれば特に左手が一望でき、袈裟丸の長い稜線、鳴神山から奥へ続く峰々、仙人ヶ岳からの複雑な稜線の各ピークを目で追ってしばし陶然と時間を忘れます。
すぐに石尊宮の屋根が見えてきて、もう屋根普請は終ったようで足場は解体されて木の香が香ってきそうです。このお宮の正面は急峻で秩父の山並が黒々と横たわるのが遮るものなく見えるのですが、八月の梵天祭りはここを上がるのかしら。とてもひとが登って来れそうには思えないけれど奇特な方がたまにはいるわけだし、一度はこのお祭りを見てみたくはありますが、なにしろ朝が早くて筆者にはとうてい不可能でしょう。

石尊さまに手を合わせ登り切った山頂は草原の広場になっていて、新しいベンチがいくつも増えています。ここで先ほどの先行の方とお喋りしながら大休止。頭上に青空が広がって木陰には気持ちのいい風が吹き、小俣駅を降りてからなんとか手に入れたコンビニのおにぎりが実においしいのは朝食抜きだからかもしれません。今日はこれで下るというその方の後姿を見ながら、ゆっくりと一服しコーヒーを飲み長々と山の時間を楽しんで、さて筆者は深高山まで足を伸ばすことにします。

県境尾根から眺めたときにも、この地図を作っているときにも、石尊山ー深高山の稜線はなんだか不思議で、北と南の尾根はやたら急峻なのに稜線だけがひたすら平たく、ここはトレイルランのコースになっているのですがほんとうに走りやすそう。展望はほとんどありませんが、色鮮やかな大茸が時々目立つ雑木の中の山道は広々として木の葉を透かす光が美しく、アップダウンも少ないので森の中を散歩する心地で歩けます。
次の高まりがみなさんに不評の石尊山山頂看板のある三角点ピーク。お宮の上のピークからは虫が多くて虫除けスプレーを忘れたのを悔いていたのですが、ここから大きな黒揚羽がずっと従いてきて、まあ科学的には筆者の汗の塩分のせいなのでしょうが、こんなときは代表幹事だと思うことにしているのでまたつい独り言。客観的にはけっこう怖いかもしれませんが、なあに誰もいないからへっちゃらだい。

少し露岩の目立つ小さな高まりを過ぎ、笹原の道に入ればトレイルランの真似事をして結局よろけたりしながら、途中先行のもうおひとりが戻ってくるのに出会い、あと少しと励ましていただいたらあら不思議、すぐに深高山の小さな石祠が見えてきました。
深高山山頂は鬱蒼と樹木に囲まれた、けれども静かな落ち着ける天辺で、朽ち始めた倒木に座ってまた長々とひと休み。ここにもとても食用にはなりそうにない妖しい色合いの茸が目立ちます。持ってきたコーヒーをここで空っぽにして深々と煙草を吸い、祠の前の大木が幾重にも重ねる緑の濃淡を愛でて、ではそろそろ来た道を戻りましょう。

帰り道はなぜか短いの鉄則通り、あちこち見回しながら鼻唄混じりで歩けば揚羽はいつの間にかいなくなってあっけなく三角点を過ぎ、再び石尊さまに楽しかった山道を感謝して手をあわせます。
ここからの下りで正面に見える山は綺麗な三角錐で、これは姥穴山、別名桐生富士とも呼ばれるそうですがその名が一番しっくりくる景観です。岩場での下りはいつもの如くきゃあきゃあ言いながらお尻をついたり次の足を降ろしあぐねたり、登りと同じくらい時間がかかったかもしれません。ここを上手に下りたいと思っていたのに、もういまさらバランスが良くなるなんてことはないのだとがっかり。
下り着いて里宮にも手を合わせ、少し下の春日神社にも手を合わせ、鶏足寺にもお寄りして本堂と不動堂に手を合わせ、ってほんとはちっとも敬虔ではないくせに形だけいい子ぶって、う〜む、足先は大丈夫だったけれど今回は脹脛がちと痛いのでありました。

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叶花石尊宮里宮入口
杉木立の中を歩きはじめる
丁石がたくさん残っている
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女人禁制の石柱
土止めの階段の上が主尾根
露岩の登り
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岩場を越える
左端姥穴山、白葉峠を挟んで高萩山
山宮は大きい
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お宮正面の眺望
山頂への道
石尊山山頂
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趣ある岩が立つ
三角点ピーク
広々とした稜線の道
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ときどき露岩
笹原の道
深高山山頂

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