白浜山

*昨年の12月根本沢の支沢から登って(熊糞山〜三境山)直前で諦めた白浜山へ、今回は旧東村の方から挑戦です。色んな地方で大雪が降ったという寒い寒い日、いつもの桐生みどりさん・あにねこさんに群馬百名山を完登されたハイトスさんもご一緒に地図の稜線を繋ぐ一日です。

国道122号を日光へ走り、草木ダムの上流沢入から黒坂石への林道へ。白浜山は草木ダムの左岸奥に茶色く山裾を伸ばしていて、車窓から見える麓の樹木は霜をつけて白く輝いています。最初の橋を渡れば荒れた道が続き、同行のみなさんこの道を歩いたはずなのですが、もっと綺麗な道だったと口を揃える。鋪装が下の土ごと水に流されたのか深い亀裂が走る道は急勾配で、山陰に入ると厚く凍結してそれ以上は進めません。広がった路肩に駐車して凍り付いた林道から登り始めます。

○白浜山へ
地図上では実線ですがとても車が走れるとは思えないほど荒れて土砂が被さり落葉が積もる林道はしばらく登ると黒坂石方向からの、やはりざれた林道と合わさり高度を上げます。細い杉の林には熊注意の新しい張り紙がしてあり、なにかの檻のようなものが見えて、ところどころ凍った個所を避け、熊鈴を響かせながら林道終点まで登ります。

はっきりした標識や目印はありませんが、終点からは沢の右岸沿いに林業の作業のためにつけられた道形があり、足を降ろすたびに土の下の長くしっかりした霜柱がざくざくと音を立てて崩れます。
右側に流れる沢には苔むした大石がごろごろと転がり、その隙間を水が可愛い音をたてて流れ、なかなか趣のある沢で、緩やかな傾斜が広がるあたりは高くなりだした陽射しが柔らかく降って、色んな形の大石が白く光って神さびた雰囲気、ちょっと赤城の大穴の景観に似ています。
朽ちた木橋を渡り杉の林をしばらく登れば植林帯は終わって雑木林が広がり、しっかりした踏み跡はここでおしまい、沢の源頭です。

沢筋に沿って暫く進めばそれまでにも増して巨きな石が集まっていて、人里から離れ過ぎているからか祠の類いはありませんが、なんだか神韻縹渺。すぐ上には既に空が広がり稜線はすぐそこ。崩れやすい砂礫を避けて、横の薮に突入します。
みなさんするすると難なく登って行くのですが、代行ひとり大汗の難行。掴む木は体重に耐えかねてあっさり折れるは、足元はすぐ崩れるは、身体を伸び上げた途端跳ね返る小枝に引っ叩かれるは、ひえ〜ん、ぎゃんっ、ぶぎゅっ、と不細工なことこの上ない。
ようやく登り着いた稜線は冷たい風が吹いていて、北側の山並みの向こうに真白な男体山が大きな山容を見せ、そこから皇海山への白い流れが続きます。けれども今自分が登ってきた斜面を見おろせば細い灌木がみっちり茂る急斜面、よく登ったと秘かに自分を誉めてしまいました。

ここからは東南方向に広葉樹の落葉を踏んで快適な稜線歩き。とはいえけっこう急ですぐに身体が暖まります。次の小ピークからは樹間に白浜山が見え始め心躍る。一度下り、次の緩斜面を登り出してすぐ、右側に大きな白い石が散らばっている斜面が広がります。落葉に埋もれながら近づくと背丈を優に超える石があちらにもこちらにも。その中のひとつが綺麗に真中から割れていて、たぶんこれが天狗の太刀割石。間に木が挟まっていまひとつ迫力には欠けますが奇観です。

枯葉を蹴散らしながら斜面を稜線に戻り、右手に開けてくる三境山方向の眺めを愛でながら急登すれば、白浜山山頂。広く開けたてっぺんにひっそりと三角点があり、立ち木にひもとテープが巻き付けてあるだけの静かな山頂です。
時々吹いてくる風は冷たいけれど、上には空が真っ青に広がりここで大午餐会(?)。あれこれ食料を引っ張り出し、暖かいヌードルを頂き、お湯が湧く優しい音に耳を傾けながらぽつぽつと喋るこの時間の楽しいこと!それにしてもみなさんこまめな脱いだり着たりで体温調節をされることに改めて感服。着たきりで、汗をかいたり震えてたりしていた代表幹事との里山歩きとはもう心構えも装備も全く違います。ハイトスさんのザックを持ち上げてみて、その余りの重さに三歩歩めず。

○恐怖の下り道
まずは空身ですぐ前に見える東峰に。食べ過ぎて重い身体を引きずって見た目よりきつい稜線を辿り懐かしの宮標石に再会です。頂上には新たに看板がかけられ、う〜むこのままこの色気のない名前が流通しちゃうのかしら、と少し心配。これを読んでくださってる方たちだけでも、どうかこのピーク、白浜山東峰とお呼びください。もうダムに沈んでしまったけれど、下の白浜集落からは綺麗な双耳峰で見えたそうで、地元の方はふたつ合わせて白浜山と呼んでいたそうです。
昨年ここまでは来たのにほんの少しの往復を諦めさせてしまったのは、代行の至らなさ、少しは進歩できたとの自負は白浜山に戻ってからの下り道で脆くも粉砕されてしまいます。

最初は快適な尾根歩きだったのですが、それでも山の北側は土の中が凍っているのか足を下ろせばすぐに崩れて、そもそもが痩せた尾根。少し急になるとみなさんより遅れてしまい、何度も待っていただいて、その間にも冷たい北風が吹き付ける。気は焦るのですがどうも下りに弱いのはバランスが悪いせいでしょう。
軽くなったザックを揺すり上げ必死で付いていくうちに突然、右手が大伐採地になります。男体山から日光の白い山並み、”わたしの”塔の峰、庚申山を経て真白に屹立する皇海山が一望です。手前の黒い山並みも陰翳をくっきりと際立たせ、遠望はそれはそれは絶景です。
けれども、立っている足元から真下の麓まで、土肌だけで覆われて全ての樹木が伐採された斜面は、荒々しい山の本質をむき出しに、落ちれば絶対無傷ではすまない急勾配で、目をやるたびに足が竦む。見るな、といわれてももう目が離せない。

尾根はなかなか急降下で、手がかりの木もまばらでは秘伝幹抱きつき降りも役には立ちません。そのうち左手も伐採地になり、この荒涼とした景観の中でぎくしゃく動いている自分が虫のような気になってくる。ある個所は細りに細っており、たまらずほとんど四つん這いで通過して、待っているお三方に笑われる。
振り返れば高度は確かに下がっているのですが、右手は下の林道まで遮るものなき急斜面、左手は伐採用の重機が置かれてやはりかなり下までなにもない。え〜ん、こわいよー、おうちへ帰りたいよー、とこれは心の中で繰り返し、ようやく尾根が尽きれば、ざらざらと崩れる急な斜面が眼下に広がる。

うわっ絶体絶命です。桐生みどりさんは軽々とましらの如く下ってしまい、あにねこさんは楽々と斜面をトラバース、ハイトスさんは手品の如くロープを取り出し、張って下さるロープに縋れば、代行の足元はもう疎かになり、ぐえ〜と叫びながら仰向けに滑り落ちてようように起き上がる。再びのロープではもう手だけでぶら下がって身体は下に流れてしまい、二進も三進もいきません。背中の下で土砂がばらばらと崩れて、え〜ん、神も仏もないものか。

ようやくトラバースの道に這い上がれば、ハイトスさんは鮮やかな懸垂下降で下り着いたらしいのですが、残念、見やる余裕もなく、あちこちしがみついてよろよろと平坦地を目指し、もう滑り落ちる恐怖で足は宙を踏んでいる気分。
下り着いてもなんでもない場所で石を踏み損なって、仕上げに一回転する派手な転び方をしてしまい、着衣はひとり泥だらけ、顔には小枝の引っ掻き傷、体重がかかった左脇腹はなんだか妙な具合に筋肉が伸びきって、けれども滅多にない経験でどこかハイになっているのでしょう、痛くはない。

水の流れはじめた谷をほんの少し下ればやっと黒坂石から延びる林道に辿り着き、幾度も待たされたお三方はきっと身体が冷えきっているはずですが、ひとり汗まみれで塩を吹き、ほんとうに申し訳ない。
あとは淡々と林道を西に歩き、登ってきた林道と合流すればすぐ駐車場所に到着です。懲りましたか、と聞かれましたが、さてどうなのか。こうやって無事に降りさえすればやはり山は楽しい。懲りたのは代行ではなく、足手纏いを連れてこんな寒い日に歩いてしまったお三方の方だと思います。
ほんとうにありがとうございました、という訳でこのコース、もし歩かれる方がいたら万全の準備と注意で、できれば単独ではなく、でも賑やかなだけで技術のないおばさん連れは避けて、お気をつけておいでください。

2010/12/30 桐生みどり氏より天狗岩には寄っていなかった、との情報をいただきました。う〜む、死ぬ気でまた行かなくちゃ。

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・あにねこ氏から三枚ほど写真をお借りしました

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