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*お天気も良さそうだしどこかの山を歩きましょうよと11月の筆者はどういうわけか元気がいい、仕事が少しあるんですよーというあにねこさんに仕事なんか放り出してと無茶を言って、このところ老越路峠を通る度に気になっていた多高山へと。
ゴルフ場に駐車させていただいて、猪除けの柵を開いての出発です。

○新ルートを開拓しつつ登る(ということにしておこう)
この入口には小さな登山口を示す木製の標識があり、ゴルフ場の方は参道なんて仰っていたのだけれど、巾の広い作業道はふかふかで余り歩かれた様子がありません。谷を左手に見ながら、鮮やかな紅葉や厚く積もる落葉のいい匂いを楽しんでいると道はすぐに斜面に突き当たって行き止まり、黒く立ち枯れた雑草の中を通って細い杉の立ち並ぶ傾斜を登ります。夏ならきっとここは緑が茂って進めないでしょう。
どうやら本来なら左の谷を挟んだ稜線が正規のルートであるらしく、そういえば歩き出しは筆者が浮かれて周囲を眺めもせずに先に立ち、足の向くままこちらに進んだのでした。まあ途中に海があるわけはないので歩けばどこかに出るでしょうと山を畏れぬ素人は気楽なもの、正面の意外に近くに見える山頂を目指します。

杉林が終わるとまわりは一気に色づいてたぶん今日は紅葉最後の日曜日、一本一本の見事な色合いにいちいちカメラを向け、ふり仰いでは感嘆し、見下ろしては惜しみ。でも露岩が現われ出し勾配が増せばだんだんそんな余裕はなくなって、雑木は立ち腐れているものも多く、木の根や岩を手がかりに四足歩行に退行します。どうしてあにねこさんは直立して進めるのか、教わる足がかりにはどうしても足が届かず時には膝を使っての躄(いざり・壁に足とは言い得て妙!)歩行で、進む度に高度が上がるのが実感できます。
岩むき出しの小さな高まりをいくつか越えればもう右手すぐに多高山の天辺が見えて、振り返ればゴルフ場は足下にはるか小さく、右手にはかなり大きな岩壁が紅葉の樹間に白く輝いて(帰って地図を見ればちゃんと岩場として記載されていた)軽い目眩。息を切らせて汗みずくで、でもなんだろう、先がよく判らない進路はわくわくします。とはいえここは山の猛者がいるからこそ進めるわけで決してみなさんにお薦めはいたさない。

ひときわ赤い葉を茂らせた樹に歓声を上げて山標石のあるピークを過ぎれば本来の参道に合わさり、こちらはよく踏まれた気持ちよさそうな道が通っています。これを右に少し進むと、大きな岩の固まる場所にもう風化してお顔に亀裂が入りはじめたお不動さまが、背負う火焔もすっかり崩れて枯葉の中に鎮座しています。銘は全く判りませんがいかにもお不動さまに相応しい場所に思えるのは上がってきたルートの難行のせいかしら。
そしてこの先すぐに多高山のハイライトの大きな岩場。下から見上げればちょっと怖じ気づくような岩も取りつけば踏み跡もありロープも張られ、ひえ〜だのひゃあひゃあだの騒ぎながらなんとか通過。登るのはともかく下る自信がちょっとないほど岩にしがみついて進むスリル満点の個所です。

すぐ上の右手には火屋がなくなってしまった燈籠がある石祠。しっかりした石の扉までついた立派なもので江戸期のひとたちはほんとうに信心深い。ここにいるはずの神さまを毎日見上げて手を合わせたのでしょう。
このあたりからは薄日の逆光を受けて要谷山方向に低山が連なり、見下ろせば飛駒の盆地が柔らかな緑色に広がってなかなかいい眺めで、独立して立ち上がる山の視界の醍醐味です。

元の道に戻りひと登りで頂上。天明元年の銘が読める石燈籠の基部、石祠が失われた神さまの礎石、そして三角点があります。薄い枯葉の散らばる静かな山頂でゆっくりとお昼。10時にわが家を出発してたった2時間でこんな山の中で寛げるなんて、と自分ちがもう山間であることを棚に上げて感心しきり。見回せばどこもかしこも秋色で逝く秋を惜しみます。

○古い峠道を辿る(これが本来の飛駒田沼道?)
下りは老越路峠へ向けて笹の残る道を下ります。茶色の落葉を盛大に蹴散らして、綺麗につづらに折れた道は歩きやすい。雑木の山は色が豊かでほんとうに見飽きません。花の美しさばかりでなく葉の美しさももっともっと愛でてあげたい。蹴散らす枯葉のセシウム量をちょっと考えたりするのは野暮ですが、これは今年のこの辺りの山登りにはどうしてもついて回るのが玉に瑕。すぐ前の山から大きな銃声が響き、その余りの生々しさに立ち竦んだりするのはこの季節の里山の玉の瑕です。

道はなかなか快適でどんどん高度を下げます。代表幹事が誉めていたプラスチックの階段が現れ、これはもう風化を始めていて、でも足が飽きてしまわないうちに道は杉林の中に入りフェンスに突き当たります。登りの大変さに比べればあっけなく、とても600mの山を下ったような気になりませんが、それもそのはず老越路峠は高度380mだそうで実質の下りは200mほど。
この突き当たりは神さまの集合地点で根本山神の祠をはじめ馬頭観音や庚申石やもう文字の読めなくなった石碑やで賑やかです。きっと峠の道路造成に伴ってここに集められたのでしょう。神寂びたというよりは神さまの老朽団地っぽい少し荒れた雰囲気。

フェンスに沿ってもさもさと薄が伸び放題の踏み跡を辿れば小さな「多高山登山口」の看板がある車道です。正面にさっきまでいた多高山の頂上を眺めながら田沼方面へ戻れば彫りの薄れた古いお地蔵さまが二体。帽子と涎掛けが新しく、地元の方が大切になさっているのでしょう。

この先にいかにも歩かれたそうな道が左手に延びています。入ってすぐに楓の赤が鮮やかで、道は程よく踏まれています。地図に破線があるとのことで車道を歩くよりずっと楽しい、落葉と枯れ枝を音立てて踏みつつ進みます。等高線に沿ってつけられているのかほとんどアップダウンがありませんが、積もる落葉はだんだん深くなり、朽ちはじめた倒木が何本も横たわって、ざらざらと小石だらけで崩れた場所もあります。落葉の堆積の中を歩いた形跡は、これはほんものの四足動物。鹿の糞が積もる場所やぬた場らしいへこみが散見される。杉の木立に入るあたりからは時々道はあえかになり、それでも足裏に長年歩かれた道の持つしっかりした芯のような感触は伝わって、少しも崩れのない炭焼き釜がひとつ今すぐ使えそうに残っていたり、自然石の階段が作られた岩のそばに優しげな表情の観音さまがいたり、かつては生活道であったという飛駒田沼道のこれが面影ではないでしょうか。杉木立が切れれば再び雑木林に入り、古い大木が風もないのにいい色の葉を静かに静かに散らしていて、非常に趣のある、これは筆者は大好きな道。

だんだん車の音が聞こえてくればゴルフ場を囲う柵が現われ、跨ぎやすい場所で駐車場に戻ります。
まだまだ陽は高くそんなに時間はかからなかったのにお楽しみ袋のような、変化に飛んだ素敵な山の、実に面白い周回でした。とはいえ登りのルートはよほどの好事家ではない限り余りお薦めできませんが。

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足利CCからの入口
小さな登山口の標識
楓はまだ鮮やか
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向いの稜線下に大きな岩壁
急登が続く
風化が進むお不動さま
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この岩場を越えます。ひょえー
稜線がいい色で重なる
逆光に遠い山並
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岩場の上の山神さま
眼下に彦間盆地
天辺には石燈籠と石祠の礎石
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下りもなかなか急勾配
杉林を過ぎ
階段を下り
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いろんな神仏が集まっている場所へ
老越路峠の登山口標識
車道沿いにはお地蔵さま
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旧道に残る炭焼き釜
こんな山道を辿る
ひっそりと観音さまが残る

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