巡礼擬(秩父2)

”家の周りばかり歩いているのもつまらない、たまには違う形の山でも見たいなあと思っていたら、うふふのふ、いくらか暇になったのか我が会長から夏の続きの秩父路でも歩きましょうとメールが来ました。今年は紅葉の赤が綺麗でもう嬉しいったらありゃしません。

秩父鉄道影森駅には急行が停まります。けれども駅には売店はありませんし駅前にコンビニもありません。錦色の低い山並に囲まれた秩父盆地はからんと明るくて里山日和、線路を渡り道標に導かれ突き当たりの山裾の道を左に辿ってまずは26番円融寺のお庭拝見。
奥社岩井堂を目指し、来た道を戻り大きな工場の敷地を抜ければ行手に琴平神社の鳥居が見えてきます。神社の石段を登るのも良さそうですが右手の太子堂の紅葉に誘われて山道を選びました。こちらが江戸時代からの巡礼道で、「みぎ二十六番道」と刻まれた小さな丸い標石には元禄時代のものだと説明板がついています。すぐに羊歯の斜面の両側を丈高い檜に囲まれた巾の狭い急階段となり、本によれば二百段、上を見ないで足許を見て登れ、なんて書いてありますが石段の中央には金属の手摺が設けられ、何箇所か馬頭観音やお地蔵さまのおわす開けた場所があるので思ったより楽に登れます。

登り切って稜線左手に進めば切り立った巨大な岩の間にいい具合に古びた赤い社殿が見えて、これが秩父観音巡りの中でも珍しい懸崖造りの岩井堂。宝暦年間の建立と言われていますがぐるりの回廊はしっかりしており、手摺から見下ろせばくらっとくる高度感。後の巨岩の隙間には石仏が何体もおわし、どなたも涎掛けをつけていて、巡礼道で会う石仏に裸(?)の方はひとりとしておらず大事にされているのがわかります。岩の間の小道を登ればすぐに斉所山山頂で修験道のお堂があり大きな聖観音像があるそうですが、残念ながら例によって帰ってから知るわけで、今回はそのまま戻って稜線を西へ辿りました。

よく踏まれた山道は櫟や楢の黄金に覆われて緩やかなアップダウンを繰り返し、小鳥の声が高く響く気持ちのいい道です。陽射しに透ける黄葉の豊かな色の変化に歓声をあげ、四方山話に耽りながら座り込み、楚巒山楽会恒例のゆったりした時間を楽しみます。一箇所可愛らしい岩場があって、すれ違う家族連れの小さなお嬢さんがロープにすがり着いて下るのが微笑ましい。
巡礼道を逸れるそのすぐ先の小ピークには大護国観音の立像があり、このコースでは唯一展望が開ける場所で、荒川を挟んだ向いの長尾根の奥に両神山と二子山の嶮岨な形が浮かび上がり、ヘリがずっとホバリングしているのは事故でもあったからかしら。
ここの観音立像はまだ新しそうな白い大きなもので、時間の波に洗われていない神仏は筆者はちょっと苦手でなんとなく正視できず遠くばかり見てしまいます。

大石と笹薮を踏んで元のしっかりした山道へ戻り、鞍部から右斜面へ九十九折れの道を下ると鮮やかな深紅の楓を背景に27番の月影堂。山裾のしっとりと落ち着いたお堂でなかなか趣があります。周りには何体かお不動さまがあって、秩父巡礼道は庶民に広がるまでは修験者の道であったと納得。
札所本堂前には影森用水の史跡碑と、黄八丈を着せられた等身大のお地蔵さまがあります。

ここからは舗装道を歩いて次の橋立堂を目指すのですが、そろそろお昼時、駅前で食料が調達できなかったのでガイドブックにあるレストランを探してしばしうろうろ。古いお屋敷を使ったお店には行き着けたのですが完全予約制だとかで、しかたないいまいち計画性に欠けるわが会は空きっ腹を抱えて埃っぽい車道を登ります。
道標に導かれ着く橋立堂の背後は70mを越す石灰岩の断崖、すぐ左手にはかつて修行の場だった鍾乳洞があり善男善女で賑わっています。奥のお蕎麦屋さんではちょうどアンデス音楽のコンサートが開かれていて、ギターやチャランゴの軽快な音を楽しみながら食べるお蕎麦はこしがあって実に美味しい。
それよりも尚、橋立堂の真ん前の珈琲店を声を大にしてお薦めします(ってまるで食べ歩きの記事になってしまいますが)。少し待たされましたがそれを補ってまだまだ余る、筆者の長〜い人生で一二を争うコーヒーでした。また行くんだ。
ここの観音さまは秩父札所では数少ない馬頭観音で、鎌倉時代の作品らしく来年の午年御開帳の楽しみのひとつではないでしょうか。

お堂から浦山口駅へも、鋪装はされていますが車の通らない落ち着いた道が続き、晩秋の楽しい一日でした。

* * *
からんと秩父盆地
途中の楓の大樹
巡礼道標識
* * *
山際を歩く
太子堂の紅葉
長い石段
* * *
稜線分岐
岩井堂
山道を辿る
* * *
明るい黄葉
二子山遠望
道はよく整備されている
”
”
”
月影堂
橋立堂
背後の断崖

* 楚巒山楽会トップへ * やまの町 桐生トップへ

inserted by FC2 system