鬼怒川上流黒沢流域 赤岩沢遡行魚ノ沢下降

増田 宏

 帝釈山脈西部の中心である黒岩山(2163㍍)の東面は鬼怒川上流水系になっている。水系は東から黒沢・コザ池沢・鬼怒川本流に大別されるが、その中で最も遡行価値が高いのは黒沢支流の赤岩沢である。赤岩沢は中流に大滝2本を擁しており、帝釈山脈西部を代表する名渓である。
 桐生から車で日光・霧降道路経由で女夫淵まで行く。ここから先の黒沢林道は通行止めになっており、女夫淵の駐車場から林道を歩く。同行者は足尾山塊で行をともにした林さんである。林道はすでに廃道になっており、車両の通行は不可能だ。魚ノ沢林道分岐点付近の河原で幕営するつもりだったが、水流沿いに幕営適地がなく、やむなく上流右岸支流合流点の旧林道上に幕営した。私にとって渓谷の遡行で何よりも楽しみなのは幕営であり、流れの脇で大きな焚火をして大自然に浸ることが目的の一つだったが、林道上では趣がないうえに焚火もできなかった。地形図にある魚ノ沢林道は崩壊しており、分岐点付近は跡形もなかった。
 翌朝、旧林道を辿り、堰堤上から工事用道路を下った所が赤岩沢出合である。意外なことに赤岩沢にも大きな堰堤があり、右岸を高巻いて越える。堰堤の上は巨岩がゴロゴロした荒れた沢になっている。ナメを2つ越えると待望の大滝が出現する。2段30㍍ほどだ。下段は容易であるが、上段が手こずりそうなので右岸から高巻いた。ここは下段を直登して中段から高巻いた方が面白かったようだ。この先は快適に直登できる滝が続く。やがて行く手に次の大滝40㍍が現れた。下段は難しそうだが、上段は容易である。直登した記録もあるが、私たちは確保して滝を登れるパーティではなかったので、高巻きを選択した。右の枝沢を登って左に斜面を横断してそのまま大滝の落口に降りた。踏跡は付いていないが、うまく高巻くことができた。この高巻きの仕方によっては遡行時間が大幅に変わってくるだろう。ナメと小滝を幾つか越えると傾斜が緩くなって源頭に達する。黒沼田代に向かうべく水流を離れて左の樹林に入ったが、少し登り過ぎたらしいので下り気味に樹林帯を行き黒沼田代に出た。ここが大滝の高巻きに次ぐ第2の重点個所である。黒沼田代は径百㍍ほどの楕円型の湿原で、訪れる人も稀な秘境だ。元に戻るため、魚ノ沢を下降路に選択した。
 田代の反対側から溝を下るとやがて黒いナメが現れ、木の枝と笹を手掛かりに脇を下る。この下で右からナメとなって本流が合流している。一つ滝を下ると下降不能な滝があり、右岸を小さく高巻いて下ったところが三俣だ。左俣が美しい滝になって合流している。この下はナメと小滝が続いている。6㍍滝は左岸を小さく巻く。大ナメ滝を直下降すると6㍍滝があり、左岸を高巻くと大岩の下が幽になっている。幽(岩屋)とはいってもここは滝の脇なので、泊まる気にはなれない。8㍍滝を右岸から高巻き、6㍍滝を下ると10㍍垂直の滝が現れた。落口に懸垂下降用の捨て縄があったが、6㍍滝上まで戻って魚ノ沢の旧林道を目指して左岸の斜面を登った。登っては見たものの旧林道に出ず、ネマガリダケの藪に突入してあちこち探したが、とうとう旧林道を見付けることはできなかった。諦めて沢に下ろうと再びネマガリダケに突入し斜面を下ると枝沢に出た。更にこの枝沢を下ると意外なことに旧林道に飛び出た。
 旧林道はところどころ崩壊しており、道を探しながら本流に戻った。魚ノ沢をそのまま下ればよかったのかもしれない。魚ノ沢を沢通しに下った場合は10㍍滝の下に函があることを後で知った。今回、ザイルは使用しなかったが、この函の通過にはザイルが必要らしい。

2008年9月14日〜15日
女夫淵(50分)幕営地(25分)赤岩沢出合(2時間)上の大滝落口(1時間)黒沼田代(50分)魚ノ沢三俣(2時間)旧林道(1時間50分)幕営地(50分)女夫淵


大滝下流

赤岩沢 大滝30㍍

赤岩沢を行く

赤岩沢の滝を登る

赤岩沢の滝を直登

上の大滝40㍍

黒沼湿原

魚ノ沢の滝を下る

魚ノ沢三俣 左俣の滝

魚ノ沢 大ナメ滝

魚ノ沢 岩幽のある6㍍滝

魚ノ沢 6㍍ナメ滝
下に垂直の十㍍滝

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