残雪期の物見山・鬼怒沼

増田 宏 


 東岐沢から鬼怒沼への道が廃道になった現在、大清水から鬼怒沼へ至る唯一の登路が物見山新道である。大清水への道路が開通した直後の四月中旬、一人で残雪期の鬼怒沼を目指した。大清水から根羽沢林道に入るとまもなく林道が雪に覆われるようになった。道が湯沢を横断する地点は釣り人から聞いて判った。ここには何回か訪れていたが、残雪期は分かり難い場所だ。残雪で橋の位置が分からず、飛び石伝いに渡った。物見新道の登りは急勾配のうえ、軟雪で行程が捗らない。痩せた部分は雪が解けて地面が出ており、輪かんを着けずに歩いた。無雪期に比べるとずっと長く感じる。予想外の苦闘でやっと物見山(2113㍍)に立った。
 ここから鬼怒沼までは地形が複雑で、単純な尾根通しではないので針路選定が難しい。輪かんを着けて夏道沿いに鬼怒沼を目指した。物見山頂からはっきり鬼怒沼が見えたのにもかかわらず、途中で方向が分からなくなり、何回か軌道修正したものの、とうとう湿原に辿り着かなかった。周囲の地形から考えると湿原付近にいるはずだが、針葉樹林帯の中では現在位置が分からず、右往左往したが判らなかった。 今までにない不思議な経験だ。 雪の鬼怒沼を楽しむ計画は思わぬ結末となり、物見山でやめておけばよかったと後悔しながら往路の踏跡を戻った。
 物見山の下りは楽なはずだったが、軟雪に足を取られて思ったように歩けず、すっかり疲れてしまう。あげく湯沢の横断地点を見過ごし、何回も同じ所を行き来してやっと見付けた。残雪期の山は恐いとしみじみ思った。踏跡は全くなく、入山者はいなかった。残雪期の物見新道は体力的にきつく、魅力に欠ける面は否めないが、尾瀬と違って静かな山を楽しめる。

2007年4月15日
大清水(1時間10分)湯沢横断地点(2時間40)物見山(1時間)鬼怒沼付近を往復し物見山着(2時間50分)大清水


物見山・鬼怒沼概念図

物見山

物見新道から四郎岳と燕巣山

物見新道から四郎岳

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