春の明神ヶ岳

増田 宏

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明神ヶ岳概念図

 明神ヶ岳(1595b)は帝釈山脈主稜から南に離れた独立した山塊であり、大きな渓谷に囲まれ、急峻な山肌になっている。未だにはっきりした道が整備されず、秘境的面影を残している。前回、初冬に西面の滝倉沢左岸尾根から頂上に登ったが、山域の全貌が掴めず、登った気がしないので次回は早春に東面から登ろうと機会を狙っていた。しかし、週末に好天が訪れず、機会を逸してしまった。4月後半になってやっと機会を得て訪れることができた。残雪を想定してストックと輪かんじきを持参したが、無用の長物になった。この山域は積雪量の少ない帝釈山脈東部の中でも内陸側にあるため特に積雪量が少なく、頂上稜線が雪稜になっていただけだった。
 湯西川ダムが完成し、前回辿った湯西川沿いの道は湖底に沈み、新しい道路がダム湖沿いにできていた。当初は一ツ石集落から尾根に取り付き、1192b標高点に登って湯西明神(1574b)を経由して山頂に登るつもりだったが、ダム湖沿いの付替道路の一ツ石バス停留所から斜面に取り付いた。同行者は山仲間のIさんである。
 急な山腹を登り詰めて尾根状の場所に出た。ここから先もはっきりした尾根ではなく、地形図から考えていたよりもずっと急な斜面で踏跡もない。1192b標高点近くなると灌木の藪が酷い。1192b標高点でようやくはっきりした尾根上に出ることができた。意外なことに尾根上には治山で運搬に使うレールが設置されていた。ここからレール沿いに尾根を辿る。尾根の植生は笹と灌木だが、傾斜が緩く歩き易い。1383b標高点付近からようやく残雪が現れたが、稜線上には殆ど残っていない。やがて行く手に雪を纏った明神ヶ岳の姿が現れた。湯西明神は残雪に覆われており、快適な雪稜歩きを楽しめたが、その先の稜線が痩せた箇所には殆ど雪は付いていない。湯西明神から山頂までは地形図で考えたよりも遠く感じる。山頂にも残雪は殆どなかった。田代山・帝釈山以西の帝釈山脈は豊富な残雪に覆われているが、東部の荒海山は僅かに山頂付近が白いだけであり、東部と西部の積雪量の違いが分る。明神ヶ岳は亜高山帯針葉樹林を欠き、山頂まで灌木と笹に覆われているので深山幽谷の雰囲気はないが、私たちの辿った尾根には目印は全く付いておらず、殆ど登山者は入っていないようだ。登山道は整備されていないが、前回私が辿った滝倉沢左岸尾根の登路が「栃木百名山」の本に紹介されており、この不遇の山に登山道が整備されるのは時間の問題だろう。
 下山は日向明神(1518b)を経由して周回するつもりだったが、下山した個所がトンネルになっていると道路に下り立つことができないので往路を戻った。帰りは湯西明神までは長く感じたが、さすがに下りは早く、急斜面の下降は思ったよりも楽だった。道の駅にある温泉で入浴してから帰宅した。

 2012年4月21日
 一ツ石バス停(3時間)湯西明神(40分)山頂(2時間45分)一ツ石バス停

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1192b標高点付近
治山運搬用のレール
湯西明神に連なる稜線
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湯西明神から山頂への稜線 山頂を望む
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湯西明神・山頂間の尾根 明神ヶ岳山頂

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