尾名沢から荷鞍山

増田 宏

*  尾瀬の南方に聳える荷鞍山(2024b)は顕著な山容をしている。特に雲間から姿を現した双耳峰は燧ヶ岳と紛うほどである。双耳峰の形が鞍のように見えることから荷鞍山と名付けられたのだろう。隣接する足尾山塊にも荷鞍(ニグラ)峠があり、鞍部の地形から名付けられたものと考えられる。「ぐんま百名山」に荷鞍山は入っていないが、すぐ近くの皿伏山が選定されている。山の形状・品格を比較すれば皿伏山ではなく、荷鞍山が選ばれてしかるべきだが、知名度が低いので見過ごされてしまったのだろう。荷鞍山はこれまで道がない山とされ、山登りの対象として一般的に考えられておらず、僅かに藪山志向の好事家によって登られるくらいだった。
 しかし、この山にはしっかりした道が付けられている。尾瀬の南側にある白尾山から山頂を経てフノウシロ沢出合付近に至る道である。この道は東京電力所有地の巡視道だと思われるが、周辺の国道端には立入禁止と記された東京電力の標柱が並んでいて入山を躊躇せざるを得ない雰囲気である。作業道からの入り口は表示がないのでまず判らない。白尾山からの分岐も藪に覆われて判らない。
地質的には新生代第四紀更新世の荷鞍火山で約百六十万年前に形成されたと考えられている。この山からは尾名沢、中ブドウ沢などいくつかの渓流を発しており、中でも山頂南面を流下する尾名沢は最も規模が大きく、期待を抱かされる。今回、山仲間の森田さんと尾名沢を遡行し山頂に初めて立ったが、期待に反し滝が一つあるだけの平凡な沢であった。流域は自然林で小さいながら深山の趣があるが、南面に位置するため、笹が繁茂し詰めの笹漕ぎが大変だった。
 出合から二つ堰堤を越えると取水口がある。この先も淵や滝は全くなく、沢伝いに行く。沢の中は直射日光が当たらないので真夏とはいえ暑さを感じない。標高1450b付近で右岸から顕著な枝沢が合流する。この先も変化がなく、水が少なくなってから唯一の滝が現れた。落差15bほどの階段状の滝で水流伝いに容易に越えられる。この先で雨が降り出したが、30分ほど様子を見ていたところ止んだので予定どおり稜線まで詰めることにした。地形図を見て北峰と南峰の鞍部に出るのが最も効率的と考えていたが、沢の詰めは北峰から東方に派生する尾根に向かっていた。沢溝を忠実に詰めると標高1750b付近で笹藪に突入し、標高1920b付近の鞍部に出た。稜線上も山頂(北峰)まで笹藪が続いていた。笹漕ぎでズボンは真っ黒、半袖だったので腕は傷だらけになってしまった。山頂に着いたとたん雷鳴がして再び雨が降り出したが、幸い本降りにならなかった。
山頂からはっきりした道が南北双方に付いていた。山頂の下りは予想外の急斜面である。南峰を越え稜線上の道を辿るとフノウシロ沢とウルシ沢間の尾根になる。尾根の末端近くは急斜面で道が電光形に付いている。一時道が不鮮明になったが、探しながら辿ると作業道に出た。登りの場合はこの分岐が判り難い。作業道を五百bほど辿ってフノウシロ沢出合のすぐ南側で国道に出た。ここから出発点の尾名沢出合まで2`ほどである。

 出合(1時間45分)右岸支流分岐(2時間)稜線(40分)山頂(3時間)国道(30分)尾名沢出合

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尾名沢下流
尾名沢の遡行
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尾名沢唯一の滝
尾名沢上流
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尾名沢の詰めから
荷鞍山南峰(左)と北峰(右)
荷鞍山山頂
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荷鞍山山頂(北峰)から南峰
荷鞍山北峰

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