帝釈山脈東部 土倉山

増田 宏

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土倉山概念図

 土倉山(1560b)は帝釈山脈主稜線から北に派生する稜線の最高峰で、東は番屋川、西は鱒沢に囲まれている。周辺では荒海山に次ぐ高峰であるが、登山道はなく、地元の山好き以外には殆ど知られていない山である。地元舘岩地区では有名な大嵐山(1635b)の東側に鱒沢を隔てて聳えており、私は大嵐山からブナ林に覆われた端正な山容を見て地形図で土倉山であることを知った。無雪期は鱒沢沿いの林道から東に尾根を登るのが近いが、積雪期は林道が通行できないので番屋川沿いの番屋集落から登れることを以前泊まった民宿で聞いていた。
 今回、山仲間の大谷さんと早春の土倉山を目指した。前夜は水引の民宿に泊まり、翌朝、国道を戻って道の駅番屋に駐車した。付近の積雪は一bほどで道の反対側にある鳥居から尾根に取り付いた。積雪は締まっており、輪かんを着けると殆ど沈まない。歩きよい尾根が続き、南から西に直角に尾根が屈曲する地点からは入道頭のような黒峠山(1316b)が正面に望める。その後もしばらく歩き易い尾根が続いたが、標高千二百b付近から急な痩せ尾根になった。軟雪で足場が固まらないので木を手掛りにして這い登るが、手掛かりがない箇所はずり落ちて四苦八苦した。大谷さんの表現を借りればまるで蟻地獄のような雪面の苦しい登りだ。僅か標高差百bほどの登りに時間を費やし、膝を痛めている大谷さんはここで引き返すことにして私一人で山頂を目指した。
 この先も痩せ尾根が続くが、多少歩き易くなった。一箇所北側を小さく巻いて軟雪の痩せ尾根上を避けた。標高1350b付近から足場が良くなり、1479bの稜線上に出ると締まった快適な雪稜になり、行程も捗る。行く手には土倉山が初めて姿を現した。山頂の登りで傾斜が急になると雪が軟らかくなった。頂上直下は雪庇が張り出した軟雪の急斜面になっており、足場を固めながら慎重に登ってようやく山頂に立った。鱒沢の対岸には大嵐山が聳え、大嵐山から南に延びる尾根には帝釈山脈東部の最高峰枯木山が連なっている。積雪期の枯木山はその名のとおり雪の斜面に枯木が点在したように見え、どっしりとした雄大な山容だ。南に連なる稜線の先には厳つい山容の荒海山が聳えている。
 仲間が待っているのでゆっくしていられず、早々に頂を去る。向かう尾根の上には七ヶ岳の美しい山容が横たわっている。下りは踏跡があるのでずっと楽だが、急斜面を下って緩い尾根になると雪が緩んで沈み、脚の筋肉が痛くなってきた頃、ようやく番屋に帰り着いた。登路に採用した尾根は中間部が急な痩せ尾根になっており、軟雪で予想外に苦労した。積雪期の登路は緩くて広い尾根が理想であるが、土倉山は同じような尾根で囲まれており、他に容易な登路はないと思う。

 2012年3月4日
 番屋(4時間15分)土倉山(2時間10分)番屋

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尾根取付 稜線のブナ
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上部の緩い登り 1479b峰
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登路の尾根 稜線から土倉山
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土倉山の登り 山頂直下の急登
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枯木山遠望 荒海山遠望
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七ヶ岳遠望 山頂手前の緩い稜線
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黒峠山 大嵐山から土倉山

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