積雪期の温泉ヶ岳

増田 宏 


 従来、帝釈山脈の範囲は山王峠から尾瀬沼までとされていたが、日本登山大系では黒岩山から南に鬼怒沼を経て燕巣山・四郎岳まで含めている。地域研究に先鞭を付けた市川学園山岳OB会の区分では更に尾瀬ヶ原西の笠ヶ岳まで及ぶ。水系から考えるとその方が適切であり、同様の考え方で私は燕巣山以南を温泉ヶ岳(2333㍍)まで延長すべきと考えている。足尾山塊の北端は金精峠であり、温泉ヶ岳を帝釈山脈の南端にすると二つの山域が隣接するので私にとって都合が良いこともある。黒岩山以南金精峠までの両毛国境の山は以前、日光又は奥鬼怒と区分されていたが、水系で区分し、表連峰を日光の山、奥鬼怒は帝釈山脈の一部とするのがいいと思う。
 温泉ヶ岳(ゆせんがたけ)は隣接する白根山と比べ標高・山容ともに見劣りする。特に山容が平凡で特徴がないため登山対象にされて来なかった。金精峠から根名草山を経て奥鬼怒に向かう縦走者が通るのみで、しかも道は山頂を通らず東側山腹を巻いている。近年になって縦走路から山頂まで踏跡が付けられたという不遇の山である。
 しかし、積雪期には山頂付近から東南に延びる尾根が登路となり、厳冬期でも湯元から日帰りできる。ここでは厳冬期と残雪期、二つの記録を紹介したい。

厳冬期

 湯元入口から冬期閉鎖されている金精道路を仲間と二人で歩き始め、切込湖入口を過ぎて橋を渡った所から尾根に取り付く。湯元の温泉神社から遊歩道を辿って切込湖入口に出てもいい。積雪は少なく、三十㌢ほどである。同行者はスノシュー、私は輪かんを着けた。雪がまだ軟らかいのでスノシューの後を行っても更に沈んでしまう。傾斜が緩ければ冬期はスノシューに軍配を上げざるをえない。ただし、スノシューは急斜面を直登できず、迂回しなければならない。
 標高二千㍍付近で尾根が緩くなる。 積雪は深くなるが、雪面が締まって却って歩き易くなった。ここから上部は輪かんで快適に歩ける。特に針葉樹林の疎林帯は歩き易く、気分が良い。密林では枝が邪魔になるうえ時々落ち込んで消耗した。上に登ると雪雲の中に入り、雷鳴がしてびっくりした。降雪になったのでヤッケを着て登る。主稜線に出ると針葉樹の密林になり、樹間を縫って山頂に立った。温泉ヶ岳山頂に登ったのはこれが初めてだった。登山道が東を巻いており、頂上に登る機会がなかったからである。山頂の積雪は七、八十㌢ほど。吹き晒しで視界もないので早々に下山した。尾根取付点が標高千六百㍍、山頂が二千三百㍍なので標高差八百㍍強、ほどよい雪山歩きだと思う。

2003年1月18日
湯元分岐(4時間)頂上(2時間)湯元分岐

残雪期

 一人で湯元の温泉神社から金精道路に登り、橋を渡った西から尾根に取り付いた。取付に雪は全くなく、踏跡もない笹の急斜面を登る。この登りは単調で面白みに欠ける。登るにつれて残雪が現れて雪面になったが、傾斜が急で歩き難い。尾根が緩くなれば歩き易くなると思っていたが、逆に軟雪になり、ラッセルで足が重い。頂上が見えてからが意外に遠く、残雪期の割に時間がかかった。主稜線に出てから頂上までオオシラビソの幼樹帯になっている。頂上は厳冬期と異なり、雪に覆われて幕営を楽しめそうだ。この辺りの山頂では快適な幕営地の一つだろう。

2009年4月5日
湯元(3時間30分)山頂(2時間)湯元


温泉ヶ岳山頂を望む

主稜線から温泉ヶ岳

温泉ヶ岳山頂

山頂から北の展望

四郎岳遠望

白根山遠望

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