極楽とんぼさんからメールを頂いたのは今年の2月のことでした。僅か一年に満たないおつき合いだったのですが。
“はじめまして、桐生に来て、やっと2年が過ぎようとしています。以前6年ほど住んでいて、その後東京に移り住み定年を迎え(60歳)、義父が一人で住んでいる桐生に妻と二人で再び帰ってきました。
ポンコツのこの体で今年は桐生をもっと知ろうと歩き始めました。根本山参詣の道標探し、菱町カルタ場所探し、そして貴会のページに出会い、このページに載っている山を順に訪ね歩き始めました。(中略)新しい情報よろしく、私も後を辿ってみたい。 桐生市平井町 極楽とんぼ”
極楽とんぼさんの作られているHPのご案内もあり、覗いてみると私など足元にも及ばないハードな山歩きをされています。「山は春満開でした」と題して“そのつもりは無かったが、梅田の化石採掘岩壁を見学に行って、ここから登れそうだと思い、谷筋を詰め尾根にとっつきひたすら高嶺目指して2時間ばかり、残馬山にたどり着きました。雲が重たい感じでしたが、まあまあの見晴らし、標高1000mあたりはいまアカヤシオが満開でした。緑が濃くなり山は春満開でした。帰りは尾根伝いの通常ルートでした。”
こんな山歩きは私にはできません。後を辿るどころか、遥か先を歩かれています。山の師略して山師のhisiyamaさんを紹介して、お二人の驥尾に付して、大形山、黒檜山などご一緒しました。

hisiyamaさんから極楽とんぼさん遭難の第一報が入ったのは、2007年12月12日の午後6時30分頃でした。「お昼頃戻るといって、名久木行きのバスに乗った極楽とんぼさんがまだ戻らない」。hisiyamaさんは、そのまま深夜まで捜索されたようです。
13日の朝から本格的な捜索が始まりました。柳原の奥にハイキング姿の男性が向かったという目撃情報や極楽とんぼさんのデスク周りにあった資料などで、萱野峠に向かう沢筋を重点に探すということで捜索隊は出発しました。11時から参加した私は、奥様から目前の丸山への登り口を尋ねられましたが、すぐそこから登れますよというと、主人は奥までいったようだから違うわね。ということで、生還の祈りを込めて鳴神山脈の東側、極楽とんぼさんが帰路にとったであろう道筋を歩きましたが、長年連れ添われたご夫婦の勘だったのでしょうか、極楽とんぼさんは丸山から鳴神山脈の大形山に向かう尾根筋で滑落していたのです。
村松峠に向かう道標の場所から右に入る広い道があります。荒れた道です。一部崩壊したり、倒木の墓場が道を塞いだりしていますが、道形ははっきりしています。道形が消える所で薮を突き抜けると物見山の尾根から登ってくる綺麗な踏み跡があります。左に辿ってゆくときのこ会館からの道に出合い、すぐに石祠があります。時折、オーイと声をかけながら、主に谷側を注視しながら、主尾根に出て、萱野峠に向かい柳原への下降点まで。主尾根に戻り西方寺沢の頭まで歩きました。本体のhisiyamaさんと連絡を取ると極楽とんぼさんはおりひめバスの運転手さんと釈迦堂(しゃかんど)の話をしていたということで、村松峠から川内側にくだり、峠に戻ったところでタイムアップになってしまい宮本町に下りました。
14日は、もっと遅れて参加が午後1時になってしまいました。極楽とんぼさんは帰路はバスは使わず、徒歩でお家まで戻ると思っていた私はフレッセイの天神店から平井町を左に見て、きのこ研究所を通り石祠に至りました。石祠から物見山の尾根に入れば、平井町は眼下です。昨日歩いてきた作業道跡を見送り、オリエンテーリングのポストを過ぎ、物見山の尾根に入ると薮で人の通った痕跡は皆無でした。途中hisiyamaさんに連絡を入れると赤萩丸山の先のカルスト地形に捜索範囲を変更するということでした。物見山の尾根を下り切ったところで、極楽とんぼさんのザック、ステッキ、眼鏡を発見したと知らされました。
15日。所持品を発見した場所から120m北の谷でご遺体が見つかりました。極楽とんぼさんの資料の中にも赤萩丸山の地図がありました。極楽とんぼの日々狂雲の11月30日の記事で“「桐生市基準点No134」梅田町津久原から、ヒヨ川をたどり大滝、金鉱探索跡を見て、県境にたどり着く。ヒヨ川は急流で上から下までまるで滝そのもの。県境を越したあたりから沢沿いを諦め、右手尾根にとりつく、これがまた急峻、尾根伝いに東へ少したどると、落ち葉の中に桐生市基準点No134があった。ここは野峰から南下する尾根の支尾根である。また、栃木県佐野市と群馬県桐生市との県境である。この桐生市基準点は旧桐生市の至る所にあり、真鍮製の立派なものだ。この基準点を辿るのも桐生の山歩きの楽しみである。今日はそのまま東に登り、野峰から南下する尾根の西側を北へトラバース、そして西に下る支尾根を見つけ下る。”とあります。こんな山歩きをされている方なので、丸山から大形山に出て主尾根を吾妻山方面に歩き帰宅するというルートだったことが、今になってわかります。13日にも思い浮かんでしかるべきでした。残念です。連絡をくださった皆様ありがとうございました。

追記 きのこピーク北側のきのこ会館を示す道標が白のテープでつぶされていますが、通行可能です。どんどん歩いてください。鳳仙寺、平井町に下山できます。綺麗な山道を失いたくないものです。萱野峠道はこの辺りで尾根に出ず東側を桐生倶楽部歩く会の道標あたりまでいっていたようです。物見山から桐生が岡公園駐車場に出る最後の人家あたりは篠薮の海になってしまいました。突っ切るには覚悟がいります。突っ切らないと世間に出れませんが。


笑顔の素敵な優しいおじさまでした。黒檜大神の前で。撮影者は奥様です。

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