古峰ヶ原

桐生山野研究会 泙川

 前日光高原南部の古峰ヶ原峠から粕尾峠の間にかけて標高千三百m後の高原になっている。ここは中・古生層に中生代白亜紀、花崗岩が貫入してできた台地で、古峰信仰の行場になっていることから古峰ヶ原と呼ばれている。牧場になっている横根山の名をとって最近は横根高原ともいう。車道が通じているので近年は観光地として賑わっている。

 初めてここを訪れたのは三十数年前の中学生の時で、初冬に足尾線の足尾駅から都沢沿いの道を歩いて深山宿に至り、古峰ヶ原峠・三枚石を経て粕尾峠から車道を通洞駅まで歩いた。このときはまだ開拓農家が何軒か残っていた。殆ど人に会わなかったように記憶している。

 その後歩いて訪れたことはないが、近年は車で訪れ気軽な山歩きを楽しんでいる。都沢か粕尾峠を経由してまず深山宿(じんせんじゅく)に行く。ここは奈良時代、勝道上人が日光開山の前に修行した霊地で、祠のある森を沢が巴形に囲んで流れていることから深山巴の宿(じんせんともえのしゅく)とも呼ばれる。幽邃な森に囲まれて霊験な雰囲気がする。深山宿は古峰信仰の聖地となっており、古峰講の人が古峰神社から白装束姿で参拝するのによく出会う。ある時など秋刀魚・卵・握り飯に酒や米など夥しい量の供物が捧げられていて驚いたことがあった。どのような人が供物を捧げたのか興味を感じたとともに、そのまま腐らしてしまうのがもったいない気がした。信仰心のない者には理解できない行為だ。ここで参拝の一団と一緒になり、お神酒の相伴に預かったこともある。

 深山宿から車で古峰ヶ原峠まで行き、鳥居を潜って三枚石に向かう。道は首都圏自然歩道としてよく整備されている。大きな石が散在する天狗平を過ぎ、台地の上に出る。峠から三枚石までゆっくり歩いても一時間弱だ。三枚石は浸食に耐え残存した花崗岩で、節理で岩を三つ重ねたように見えることから名づけられた。出流山から中禅寺湖に至る禅頂行者道の要所で金剛童子が祀られ、神仏分離前には古峰神社の奥の院となっていた。修験者が修行した場所であることから三昧石ともいわれる。このすぐ西には花崗岩の巨岩の間から冷たい水が流れ出す金剛水がある。尾根付近に水が流れているのは不思議であり、霊泉と呼ぶに相応しい。

 横根山周辺は家族向きのハイキングコースに適当だ。横根山は粕尾峠から途中の分岐を右に向かう。牧場の駐車場から先は一般車の乗り入れができず、車道が遊歩道として利用されている。途中から歩道に入り、まずは井戸湿原を目指す。湿原の端にある小屋(湿原荘)は老朽化して荒れている。湿原の散策が済んだら元に戻って象の鼻展望台を訪ねる。ここは侵食を免れた花崗岩の残丘で西側が崖になっており、日光や足尾山塊の絶好の展望台だ。

 牧場内にある横根高原ロッジに泊まったことがある。ログハウスの快適な風呂があり、夕食はバーベキューで値段も手頃だった。牧場の静かな一夜を過ごし、翌日は三枚石を往復した。牧場から自然歩道を方塞山に向かった。電波反射版のある方塞山から先は首都圏自然歩道としてよく整備されている。つつじ平を過ぎ、歩き始めて四十分ほどで三枚石に着く。つつじ平から三枚石にかけては各種ツツジやズミの木が多く、植物の観察にいい。下山は往路を戻るか、北側に下りて古峰ヶ原峠から車道を歩いて元に戻ることもできる。桐生地域の山の範囲は粕尾峠以南であるが、隣接する古峰ヶ原は修験の霊地で全く雰囲気が違うので訪ねる価値がある。

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