熊鷹山

 桐生みどり

残馬山から野峰まで桐生川源流を巡る山を桐生市街地から望むことができる。それらの山の中で熊鷹山(1169m)は根本山に次ぐ高峰であるが、桐生では根本山の衛星峰のように考えられている。一方、旧田沼町(現佐野市)では熊鷹山は地域を代表する名山であり、別名安蘇富士山とも呼ばれていた。根本山が分水嶺を越えた桐生川源頭の山であるのに対し、熊鷹山は分水嶺の最高峰であり、足利・佐野方面から立派な山容を望むことができる。行政区画的には栃木県内の山であるが、桐生川と野上川の分水界が実質的な県境である。

桐生川流域の大半は人工林になっているが、野上川流域には広葉樹林が多く残っている。この広葉樹林は伐採後に形成された二次林であり、今まで無価値な雑木林とされてきたが、杉や檜の造林地に比べてずっと豊かな自然を残している。薄暗い杉・檜の造林地に対して雑木林には山歩きの楽しみがある。

熊鷹山の東面は野上地区と呼ばれており、明治の町村制施行(明治の合併)で安蘇郡の四箇村が合併してできた野上村の名前に基づく。その後、昭和の合併で野上村は田沼町に合併し、今回の合併で田沼町は葛生町とともに佐野市と合併して一郡一市となり、安蘇郡の名さえ消滅してしまった。

熊鷹山付近を源とする小戸川と氷室山付近を源とする大戸川が合流し、野上川となる。野上川は彦間川を合わせ、旗川と名を変える。地元の名称は野上川であるが、行政的には野上川・大戸川を含めて旗川と呼んでいる。渡良瀬川の本流であることから松木川を渡良瀬川と呼ぶのと同じだが、地元の呼称を否定して源流まで旗川とするのは賛成できない。ここでは昔からの呼び名である野上川を使用する。

熊鷹山に直接登る道は五つある。桐生川、小戸川、大戸川の西沢からそれぞれ整備された道が付けられている。大戸川の林道終点から白禿沢沿いと南の尾根にも道がある。この二つの道は整備された道ではないが、目印が付いている。

桐生口

以前は桐生側から直接、熊鷹山に登る道はなかったが、根羽沢沿いに山頂に登る道を登山愛好団体が整備した。この道はその団体の名前から「うすゆき新道」と呼ばれていたが、十二沢の林道が延びてから根羽沢沿いの道は利用されなくなり、林道が横切る地点から上部だけが利用されている。林道は車両通行止めなので林道歩きが大半を占め、山道を歩くのは三十分程度である。

不死熊橋から十二沢沿いに一時間近く歩くと林道は沢を離れて熊鷹山の西側中腹を巻き始める。十二沢を離れて二〇分ほどで熊鷹山登山口に着く。取付点には目印が付いている。林道は丸岩岳山頂付近で尾根を乗り越して奈良部山との鞍部まで達している。杉林の中、左に山腹を巻きながら登ると数分で尾根上に出る。尾根上は針葉樹の混じった気持ちの良い雑木林になっている。尾根の背を辿る道と南側に電光形に付けられた巻き道があるが、登りは巻き道の方が歩き易い。登り切ると丸岩岳方面の分岐になり、ここから左(東)に百mほど行くと鳥居に出る。左の山腹を行く道は根本山の旧参詣路で、熊鷹山頂を巻いている。

鳥居を潜るとすぐ熊鷹山の石祠がある。「大正元年十月七日建之」と刻まれ、祠の正面には「安蘇富士山 熊嶽山神」と記載されている。熊嶽は「くまたか」と読むと教わったが、「くまたけ」が「くまたか」になり、熊鷹と当て字されたのかもしれない。熊と鷹が多いとか、クマタカが棲息していたことから名付けられたとは考えられない。この石祠は野上の人々により祀られ、十一月三日がお祭りである。たまたまこの日に熊鷹山に登った時、ここで焚き火をして魚を焼いており、赤飯と秋刀魚をご馳走になったことがある。

ここから二〜三分で山頂に着く。二等三角点があり、木造の展望台が設置されている。ここに丸太の展望台が初めて造られたのは一九八十年代で、現在あるのはその後造り変えられたものだ。この展望台は目障りで、熊鷹山に相応しくない。このような人工物を山に造る必要はないと思う。

  不死熊橋(1時間20分)登山口(30分)熊鷹山(20分)登山口(1時間)不死熊橋

小戸口

小戸口登山道は小戸川の渓谷に沿う道で、熊鷹山に登る道で最も快適な登路である。昔は熊鷹山に登る唯一の道だった。現在、飛駒と野上を結ぶ近沢峠道が崩落して通れないので、桐生から野上まで行くのは大迂回になるが、渓谷の美しさは登山口までの労力を補って余りある。私は車の運転が苦手なので、野上側に行く時には桐生から熊鷹山越えで訪れている。小戸川沿いでは現在もワサビを栽培している。

小戸川林道の終点から歩き出すと、すぐ「まな板の滝」(約6m)が現れる。道は小戸川の左(右岸)に付いているが、ワサビ田が現れると右側(左岸)に渡る。階段状の小滝が連なる五段の滝は峡谷になっており、岩を削って道が付けられている。滝の上に出ると道端に洞窟がある。マンガン鉱山の鉱口だろう。すぐ仙の滝(約6m)が現れる。「11本の杉」を過ぎると道は左側(右岸)になる。再び沢を渡り返して右側(左岸)から「小坂の滝」を過ぎると小坂水源宮と刻まれた石碑がある。標識は水神宮となっているが、勘違いのようだ。この上は沢にワサビ田が連続している。「夫婦杉」を過ぎると道は右の支流沿いに登って行く。水がなくなると左に方向を転じ、山腹を斜上する。登り切ると熊鷹山の鳥居に出る。

  林道終点(1時間30分)熊鷹山(1時間10分)林道終点

小戸口から丸岩岳

仙の滝から十分ほど上流で丸岩岳に登る新道が分かれている。最近できた道で下りに使えば林道終点に周回できる。分岐から斜面に取り付き、右の山腹を辿ると尾根上に出る。この尾根を登ると標高九四〇m付近で丸岩岳から東に延びる主尾根に合流し、この尾根を登り切ると丸岩岳東肩にある石祠の五〇mほど東に出る。ここから丸岩岳山頂までは数分だ。

  林道終点(30分)丸岩登山道分岐(50分)丸岩岳東肩

西沢口

西沢口登山道は明瞭な道であるが、人工林の単調な尾根歩きで展望もない。登路としては面白くないので下降路として紹介する。

山頂から西沢への道標に従い南東に尾根を下る。十分ほど下ると道は左に曲がり、北東に派生する尾根に入る。分岐には道標がある。更に十分ほど下ると左に白禿沢を下る道を分岐する。そのすぐ先で白禿口に下る尾根道の分岐になる。西沢口に下る道は右(東)の尾根に付いている。雑木林の尾根道はやがて檜の人工林となる。檜林が杉林になり、標高七百mを過ぎると道は尾根を離れて山腹を南西に下っていく。分岐には道標がある。薄暗い杉林の中を下ると西沢に下り立ち、ワサビ田沿いに下るとすぐ林道終点(西沢口)に着く。

  熊鷹山(1時間10分)西沢口

大戸口(白禿沢)

大戸川林道終点の白禿口広場から白禿沢沿いに道が付いている。道は途中ではっきりしなくなるが、沢伝いに斜面を登り切ると西沢登山道に出る。単調なので登りよりも下り向きである。

西沢登山道を二〇分ほど下ると分岐になる。道標に従って左の沢に下る。はっきりした道はないが、木に目印が付いている。急な斜面を下ると白禿沢に下り立つ。歩き易そうな場所を選んで沢伝いに下ると左岸から沢が合流する。さらに下り、ワサビ田跡を過ぎると左岸から曲沢が合流する。この付近から左岸沿いに踏跡が現れる。やがて道は左岸の急斜面を横断するようになる。ここは足場が悪いので滑落しないよう注意が必要だ。急斜面が終わると三滝の分岐になる。ここから電光形に付けられた遊歩道を登れば二〇分ほどで三滝の展望台に着く。三滝の分岐から沢沿いの道を下り、白禿沢を渡って本流沿いの道を行けばすぐ白禿口広場に着く。

  熊鷹山(1時間20分)白禿口広場

大戸口(尾根)

白禿口広場から白禿沢の南の尾根に道が付いており、白禿沢分岐のすぐ東で西沢登山道に合流する。明瞭な道ではないが、目印が付いている。この道も登路としては面白くなく、下降路向きである。

分岐から西沢登山道に入らず、まっすぐ尾根を行く。はっきりした道はないが、木に付けられた目印を頼りに尾根を下る。尾根の末端近くなると道が分からなくなるので針路選定に注意が必要だ。下り切ると林道終点の白禿口広場に出る。古びた休憩舎とトイレがあり、ここが三滝の遊歩道起点になっている。

  熊鷹山(1時間10分)白禿口広場

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