桐生山野研究会

石倉山と大萱山

桐生みどり 

 石倉山(1113㍍)は地蔵岳(1274㍍)から西に延びる県境稜線の足尾側にあり、これといって特徴のない地味な山である。県境稜線から石倉山にかけて流紋岩質溶結凝灰岩が分布している。この溶結凝灰岩は新世代第三紀の一千万年前頃に形成されたもので地蔵岳溶結凝灰岩と呼ばれており、ほかに地蔵岳及び三境山に分布している。大規模な火山活動で吹き上げられた火山灰が厚く堆積し、熱で再び溶けて再固結した岩石で硬く侵食に強いため侵食に耐えて残ったものである。
 大萱山(1154㍍)は県境稜線西端にある山でこの山を最後に稜線は渡良瀬川に急激に高度を下げている。渡良瀬川沿いに国道122号を走ると袈裟丸山の東に意外に立派な山容を望むことができる。2つの山とも地元の地誌に記載なく、知名度も低い。近年まで藪山好きの好事家以外に訪れる人は殆どいなかったが、近年山歩きの本や電脳空間にその名を散見するようになった。いずれも整備された道はないが、黒坂石の林道終点から容易に登れる。

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黒坂石川概念図

 石倉山

 ここでは林道奥小屋線から登った1月の記録を紹介する。沢入駅南の見沢向橋から黒坂石川の林道を行き、キャンプ場の先で左に分岐する林道奥小屋線に入る。道が悪いので分岐のすぐ先に駐車して林道を歩いた。途中で左に入奥小屋沢沿いの道を分岐するが、そのまま終点まで行く。踏み跡がないので沢伝いに登る。二俣は歩き易そうな左の沢を登り、稜線まで詰め上げた。稜線には踏跡があり、東に向かう。1106㍍の三角点を越えた先で北に派生する稜線に入る。十㌢ほどの積雪があり、急斜面では足元が滑るので慎重に下った。1109㍍の四等三角点から東寄りに向きを変えて稜線を行くと石倉山の山頂だ。展望は良くないが、樹間から白銀に輝く袈裟丸連峰が見えた。
元に戻って稜線を西に大萱山を目指すが、時間が遅くなったので途中から下ることにした。地形図上の道表示のあるすぐ北側から南東に派生する稜線を下り、入奥小屋沢の林道に下り立った。急な尾根だが、山仕事用の踏跡が付いていた。

 林道奥小屋線分岐(1時間)林道終点(1時間20分)山頂(1時間)入奥小屋沢の林道(1時間)林道奥小屋線分岐

 大萱山

 萱の名が付く山は草刈場(秣場)として利用されていた山が多い。大萱山は山頂の東になだらかな斜面があり、この一帯が萱の原だったのかもしれない。最も近い登路は尾沢の林道終点から県境稜線に登り、稜線伝いに山頂に行くものである。尾沢の林道は入山禁止の表示があり、林道を歩いていたら土地(民有地)の管理人に立ち入り禁止を告げられたと聞いたことがあるので立ち入りには注意が必要である。入奥小屋沢の林道を登って稜線伝いに山頂を目指すこともできる。ここでは尾沢の林道から往復した記録を紹介する。
 尾沢の林道入口には遮断器があり、通常はここに駐車して林道を歩くことになる。最近は遮断器が開いていることが多いが、立ち入り禁止であることに変わりないので無用の軋轢を避けるため車の通行は自粛した方がいい。林道の上部には害獣(シカ)防護網が張ってあり、開けて通行したら元通り閉めておかねばならない。林道は県境稜線まで達しており、林道から稜線に出るのに防護網を越えるのが一苦労だ。稜線は気持ちの良い雑木林になっている。尾沢以東は杉の造林地が多いが、以西の稜線は雑木林が続いている。
 1095㍍標高点を越えた西鞍部付近の赤松の根元に石祠があり、「安永八(1779)巳亥冬吉良□□□原村」と刻まれている。文字は行書体で□は判読できない。尾沢からこの鞍部を越えて雉ノ沢沿いに黒坂石と原を結ぶ道(峠)があったのかもしれない。1130㍍の尾根分岐点では南に延びる尾根を県境稜線と勘違いし易い。この先の稜線の痩せている箇所に針葉樹の天然林がある。岩が露出している部分もあり、多少深山の趣がある。針葉樹は栂か樅のようだ。山頂付近に電話の中継塔があり、景観を損ねているのが残念だ。そのすぐ先が山頂で三等三角点と古い主三角点が並んでいる。もっと広い山頂を想像していたが、狭くて展望のない頂である。下山は往路を戻る。

 林道入口(1時間30分)稜線(1時間)山頂(2時間)林道入口

 地蔵岳から大萱山まで県境稜線を縦走することもできる。地蔵岳には粕尾峠から近年整備された立派な道が付いている。峠の足尾側(県道の44番曲線)から旧峠道を辿って地蔵平(旧粕尾峠)経由で地蔵岳に登る道もある。地蔵岳から先の県境稜線には踏跡が付いているが、地蔵岳南峰(小地蔵岳の表示あり)から氷室山方面に下らないようにしたい。以前、通洞駅から粕尾峠手前までタクシーで行き、旧粕尾峠道から地蔵岳に登って大萱山方面に縦走し、入奥小屋沢経由で沢入駅に下ったことがある。わたらせ渓谷鉄道を利用して縦走すれば山旅の気分を一層楽しむことができる。また、入奥小屋沢の林道から石倉山と大萱山を1日で往復することも十分可能である。

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奥小屋線終点から稜線に沢を詰める 石倉山へ稜線を行く
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石倉山に向かう稜線から袈裟丸連峰遠望 石倉山の四等三角点
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山頂の登り 石倉山山頂
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大萱山東方石祠 大萱山東方 針葉樹の頂
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大萱山東方稜線の針葉樹 大萱山三角点

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