前日光ヒノキガタア沢

増田 宏 

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ヒノキガタア沢概念図

 前日光の薬師岳・夕日岳周辺の大芦川上流には山域で沢登りの対象になる沢がいくつかある。最も代表的な沢がヒノキガタア沢で、1960年発行の案内書「尾瀬・日光」に鹿沼山岳会の熊倉盛男氏による案内が掲載されている。私は1996年に本沢を下降し、ヒノキガタア沢を遡行したことがある。当時は滝の巻き道に鎖が固定されており、初心者向きの易しい沢だった記憶がある。今回、16年ぶりに妻を伴って訪れたが、ヒノキガタア滝の高巻き以外は鎖が朽ちてなくなっていた。巻き道もはっきりせず、近年は訪れる人が殆どいないようだった。鎖がなくなり高巻きが難しくなったので、現在は初心者向きではなく、初級の難度である。
 大芦川下流から行くと桐生からは距離が遠くなるので前回同様に細尾峠から薬師岳に登って南側の支流(日陰沢)を下降してヒノキガタア沢を登り返すことにした。峠道の足尾側は道路が崩壊し通行止めになっていたが、崩壊地点に駐車して峠まで歩いて15分ほどだった。細尾側からは峠まで車が入っていた。薬師岳南の金剛堂石祠(掛合ノ宿)を過ぎ、1365b峰のすぐ南から沢に下る。崩れ易い源頭の急斜面は足場を慎重に選んで下降した。沢底は周囲から落ちて来た岩石が積み重なり、足元が不安定で歩き難い。過去の記録にはこの沢の途中で仕事道が横断してヒノキガタア沢下流に通じていると記載されていたので探しながら下ったが、見付からなかった。16年経っているので仕事道は消失してしまったようだ。このまま沢を下ったが、小さな滝や段差があった程度で特に困難な箇所はなかった。古い石積堰堤を過ぎるとすぐヒノキガタア沢の出合に着いた。合流点は棒滝とヒノキガタア滝の間で、すぐ下が棒滝の落口のようだ。
 ヒノキガタア滝はこの沢最大の滝で20b近い落差がある。古い鎖伝いに左の斜面を高巻いたが、古い鎖に体重を預けるのは不安であり、片手で立木や根を補助にして登った。登り着いた地点は落口よりかなり上でここから落口への下降は急斜面なのでザイル下降が無難だが、細引が固定されていたので立木と細引を半々ずつ手掛かりにして下った。この下りは長いのでザイル下降する場合は途中で掛け換える必要がある。次の三段の滝は水流沿いに直登したが、上段は飛沫に濡れながら水流の右を登った。この先に新しい堰堤ができていた。二段の滝8bと金剛滝5bは水流沿い又は水流脇を簡単に通過できる。左滝8bは右側の岩に設置されていた鎖が外れて落ちていたので右側を大きく高巻かなければならない。途中で岩場に阻まれたので、左寄りに立木を手掛かりに岩場を抜けて落口に下った。ここは大きな高巻きになり、手掛りになる立木が少なく、予想外に大変だった。この左滝とヒノキガタア滝の高巻きが遡行の核心部だと思う。
 薬師滝8bは落差が小さいものの、垂直に落ちる立派な滝である。ここは足場が悪いが、右を小さく巻いて落口にうまく下りられた。その後も小滝があり、気持ちのよい流れが続き、稜線近くまで水流がある。水がなくなった源頭で休憩し、沢溝を詰め最後の二俣を右に入った。その先で両沢の中間尾根に上がって低い笹を少し漕ぐと源頭から15分ほどで稜線の道に出た。
 なお、棒滝15bは今回通過しなかったが、前回は右を高巻いた。本沢の下降で下流にあるナル滝12bは右を高巻くかザイル下降する。沢と滝の名は前記案内書の名称を採用した。

 (2012年6月30日)
 道路崩壊地点(15分)細尾峠(1時間)下降点(1時間20分)ヒノキガタア沢出合(2時間)源頭(15分)稜線(10分)薬師岳(30分)細尾峠(10分)道路崩壊地点

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日陰沢のナメ滝 ヒノキガタア滝18m
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ヒノキガタア滝高巻きから落口への下降 三段の滝10m
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二段の滝8m 金剛滝5m
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左滝8m 薬師滝8m
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上流の小滝 上流の滝を越える

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