日高 チロロ岳、ペンケヌーシ岳

増田 宏 

 チロロ岳(1880㍍)は日高山脈主稜線のルベシベ山から西に派生する尾根上にある孤高の峰で、主稜線から外れているため北日高の展望が良い。かつては容易に近づけない山だったが、パンケヌーシ川の林道が奥深く入り、登山道が整備されて日帰りで簡単に登れるようになった。東西2つの峰からなる双耳峰で、本峰は斑れい岩、西峰は超塩基性のカンラン岩からなり、アポイ岳や夕張岳と同じようなカンラン岩地帯特有の植物が生育している。チロロ岳は千呂露川源流に聳えることから川と同名の名が付けられた。チロロはアイヌ語起源だと思われるが、語源は不明である。チロロとは美しい響きであり、一度聞いたら忘れられない名前だ。
 チロロ岳が登山史に初めて登場したのは1934(昭和9)年8月のことで、北大山岳部によってパンケヌーシ川から登頂された。翌年3月にはピパイロ川からルベシベ山経由で稜線伝いに積雪期登頂がなされた。パンケヌーシ川支流の曲り沢と千呂露川三岐沢左股沢から主に登られていたが、近年、曲り沢の道が整備されて一般的になった。この道は沢沿いの踏跡を辿るもので、日高らしい山登りを楽しめる。
 私が初めてこの山を目指したのは芽室岳から幌尻岳に北日高を縦走した際のことで、札内村の日高山脈山岳センターで知り合った人からチロロ岳を往復するよう勧められたからだった。この時は悪天でルベシベ山を登っただけでチロロ岳往復を断念したが、今となっては一日停滞してもチロロ岳を登るべきだったと後悔している。ルベシベ山とチロロ岳を結ぶ稜線は高低差が少なく、残雪が豊富で快適そうな稜線だ。

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 パンケヌーシ川曲り沢からチロロ岳

 私がチロロ岳を登ったのは9月下旬のことである。知床の縦走で知り合った札幌の知人と千栄で合流し、その日はパンケヌーシ川沿いの林道を入り、曲り沢出合で車中泊した。林道には遮断器があり、あらかじめ日高北部森林管理署で入林許可を受け、鍵を借りる必要がある。
 翌早朝、一般車通行止めの曲り沢林道を歩いて五百㍍ほどで北海道電力の取水ダムに着いた。ここから沢伝いの登山道になる。初めは左岸を行き、途中から道は左右岸と変わる。曲り沢は小さな沢なので水に入るような箇所はなく、登山靴でも歩けるが、沢靴の方が濡れた岩や徒渉に有効だ。小さな滝や崖があるが、いずれも容易に巻いて通過できる。二俣が2ヶ所あったが、いずれも右に入る。涸沢を登り詰めて尾根を乗り越し、少し下ると反対側の二ノ沢だ。尾根の乗り越しにははっきりした道が付いている。沢の源流で尾根を乗り越し、隣接する沢の源流を詰めるのは日高らしい針路の取り方だと思う。
 二ノ沢はすぐ水がなくなって涸れ沢を詰める。源頭は夏季にはお花畑になるが、この時期には花は全くない。私だけ先行し、西峰(1848㍍)を往復した。明瞭な踏跡が付いている。カンラン岩からなる西峰は割愛する訳にはいかない。頂上の小さな岩片を持ち帰ったが、素人にはカンラン岩かよく分からなかった。本峰の登りで同行者に追い付き、一緒に頂上に立った。チロロ岳は稜線が痩せておらず、日高らしさに欠けるが、この頂は北日高の絶好の展望台であり、ピパイロ岳から幌尻までの眺望が素晴らしい。最高峰の幌尻岳はその名のとおりポロシリ(大きい山)で貫禄十分だ。登路を見下ろすと尾根の乗越付近は見事な紅葉だった。

2005年9月24日
曲り沢登山口(5時)下二股(6時5分)尾根乗越(7時5分)チロロ西峰(8時20分/8時25分)本峰(9時/9時35分)尾根乗越(10時55分/11時)曲り沢登山口(13時5分)

 ペンケヌーシ岳(1750㍍)はペケレベツ岳と芽室岳間の主稜線から西に派生する支稜上の山である。日高らしくない緩やかな山容のためか芽室岳に匹敵する高さを持ちながら余り注目されない山だった。山名はペンケヌーシ川の水源にあることに因る。ペンケは「上流」、ヌーシは「豊漁」を意味し、魚が多い豊かな川だったらしい。この下流にはパンケヌーシ川がある。パンケは「下流」を意味し、阿寒のペンケトーとパンケトーのようにペンケとパンケが対になっている。山頂はチロロ岳本峰と同じく斑れい岩からなり、日高山脈唯一のコマクサ自生地である。
 ペンケヌーシ川とパンケヌーシ川六ノ沢から主に登られていたが、近年、六ノ沢の道が整備され、日高山脈入門の山として一般的になった。登路は沢伝いを行くので日高らしい特徴を備えている。六ノ沢は規模が小さく、水量が少ないので容易である。

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 パンケヌーシ川六ノ沢からペンケヌーシ岳

 私は夏休みに当時小学校6年生だった子供と二人で登った。前日、日高北部森林管理署で入林許可を受け、鍵を借りた。翌朝、千栄からパンケヌーシ川沿いの道に車を走らせ、六ノ沢登山口に向かう。六ノ沢林道は荒れていたが、何とか登山口まで入ることができた。六ノ沢にかかる滝の上から林道を離れて踏跡伝いに対岸の沢に入る。踏跡を探しながら登ると作業道を横切る。ここは道を失わないよう注意が必要だ。踏跡を辿り、所によっては沢の中を登って詰め上げると水が細くなり、源頭のお花畑となる。エゾリュウキンカが一面に咲いていた。さらに細い流れを辿ると再びお花畑に出た。稜線まで3つのお花畑がある。1660㍍付近で稜線に出て、稜線上のお花畑を抜けて砂礫地を過ぎ、ハイマツの稜線を登り切ると山頂だ。山頂は広々としており、大きな標識が立っている。北日高の山波が一望できるが、周囲の山は広い稜線が連なっている。ほかには誰にも会わず、日高らしい静かな山だった。標高1100㍍地点から標高差六百五十㍍しかないので2時間で登り、1時間半で下る半日行程の山だった。

2007年8月1日
六ノ沢登山口(7時10分)ペンケヌーシ岳山頂(9時10分/9時40分)六ノ沢登山口(11時10分)


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春のチロロ岳 登路の曲り沢
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曲り沢源流
二ノ沢源流と曲り沢に乗り越す尾根(右)
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チロロ岳本峰(西峰から)
チロロ岳西峰(本峰から)
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チロロ岳山頂
チロロ岳から主稜線に連なる支稜
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チロロ岳から幌尻岳
パンケヌーシ川六ノ沢林道終点近くの滝
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ペンケヌーシ岳山頂の登り
ペンケヌーシ岳山頂
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ペンケヌーシ岳からチロロ岳方面南望
ペンケヌーシ岳からチロロ岳(右)、
ピパイロ岳(左奥)方面

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