秋葉山〜須花浅間山

*もう少しすれば里山は暑くて歩けなくなる季節、足利の名草に秋葉山ってえのがありますぜと聞いて、秋葉山なら火防の神さま、天狗が祀られているかもしれません。しかも二等三角点があるそうな。るんるんるんとあにねこさん、げきさかさんとご一緒に、滴る緑に染まりながら、昨年歩いた須花の浅間山までぐるりと回って征服(!)稜線を長く繋ぐ山行に出発です。

○秋葉山
桐生から白葉峠を越え須花のトンネルを潜り、名草のふるさと交流館でげきさかさんと合流。「名草里山の会」と書かれた看板のかかるプレハブ小屋があり、残念ながら閉まっていましたがきっと里山の整備などなさる会に違いない。地元の方に大事にされている里山なんて嬉しくなります。
ここに一台停め少し奥の登山口まで車で移動です。正面にてっぺんに濃い緑色の常緑樹が帽子のようにぽこんと被さった秋葉山が丸っこい山容を見せてきます。

登山口といっても看板や標識はありません。道をお聞きした民家の方に案内され、風に戦ぐ苗代の間を抜け、猪除けの扉を開いてもらって細い踏み跡へ入ります。つい最近熊が二匹獲れたから気をつけてねなんて言われて、ひえ〜静かな山間に洒落たお家が散らばってる山里なのにそんなことがあろうとは。早速鈴を鳴らして歩き始めます。
踏み跡は小さなお稲荷さんで行き止まり、方向を変えて歩けば崩れかけた上屋を持つ天神さまの祠。その側にも小さな狐の焼物が奉納された石祠があり、そこから先は道はありません。踏み跡らしきものを辿って薮っぽい尾根筋に取り付きます。

下から見れば小さな山も入ってみればなかなか深い。そんなに急登はありませんが尾根はくなくなとカーブを描いて、まだ下草は丈が短く柔らかく、櫟や楢の若葉から緑の光が散らばってこの季節の山は息する度に肺が若緑に染まりそうな気がします。時々景色が開ける場所からは名草川の向こう岸の山並みが緑に輝き、遠くには黒く深高山のシルエットが尖り、行手には秋葉山の特徴ある天辺ががいつまでも遠くに見える。緑の中に鮮やかな山ツツジの花が混じり出し、たまに赤いテープが巻かれた樹があって、ほんとにどんな山にも歩くひとがいる、と自分たちを棚に上げて感心してしまいます。

少し急な斜面の上にこんもりと濃い緑の塊が見え、その杉(檜?)の斜面で息を切らせて、ひょいと飛び出る小さな平坦地。祠が二つありますが、大きい方は古い倒木の下に屋根が落ちて、もうずいぶんこのままなのでしょう、倒木は虫に喰われぼろぼろと朽ちています。ここが秋葉山山頂。残念ながら祠に祀られているのは天狗ではなさそうですが、その祠の向こうに三角点が。細い常緑樹に囲まれた可愛い天辺です。樹間にこれから辿るピークがいくつも高まりを見せ、すぐ先の斜面いっぱいに今年は当たり年なのか山藤が咲き誇り、重そうな花房の薄い紫が岩に見まごうばかり。
倒木に腰を降ろしてしばらく休憩です。

○いくつものピークを辿る
少し高度を上げたからか、途中では散り始めていた山ツツジはまだ蕾が見えるようになり、陽当たりのいい斜面には下の方までピンクや朱色の花が帯のように続き、足元には小さな小さな白スミレやチゴユリの白い花があちこちに咲いて、風に吹かれてきた藤の花弁がたくさん散らばっている。
緩やかな尾根を花を楽しみながら辿れば、途中もう色の薄れた秋葉山への看板がかかる樹があり、その先が境界尾根・主稜線です。

尾根筋はいくらか固く広く、歩きやすくなり、小さなアップダウンを繰り返すうちに右手に今さっきいた秋葉山がどんどん遠くなります。ひとつかなり急な斜面があり喘ぎながら登ります。すぐ下にはどちらにも集落があるのですがしんと静かでときどきもうすっかり上手になった鶯や、小さな鳥の澄んださえずりが聞こえてなんだか深い山を歩いている気になります。時々露岩が現われると展望が開け、これが足利の山の醍醐味、400mほどの里山とは思えないアルペン気分。

なんて暢気に浮かれていたら目の前に急峻な岩場が!ええ〜ん、巻けないのか!灌木や木の根が張り出し、脆い岩とはいえ手がかり足がかりはたくさんあるのですが、それまでの緑に濡れながらの道とは全く様子が違い、げきさかさんはすいすいと登ってあっという間に見えなくなり、先も考えずつい左の緩やかな傾斜の方へ巻こうとすれば真直ぐですと後のあにねこさんに叱られる。しばらくの間きゃだのあれだの騒いで岩を攀じり続け、けれども登り着けば空の青と頭上の葉を透ける光に包まれた大展望。449mピークは当会おすすめです。できれば名前が欲しいところ。
ここでゆっくりとお昼です。あにねこさんが取り出したビールは岩場できっとぶつけたのでしょう、缶が破損していくらか噴き出て、この岩場、ゆめゆめ油断召されるな。

道は痩せ尾根になったり細い杉の中を通ったり、少し登ったり下ったりしながらだんだん高度を下げていきます。419mピークには亨保の年代の読める山神さまの祠があり、このあたりはツツジの花が見事で思わず声を上げてしまう。下った鞍部は峠のような様子で地図に破線はありますが、両側はかなりな傾斜で道の痕跡はあるようなないような。
鞍部の先は篠竹の薮に突入です。道型は全く消えて先を歩くげきさかさんは薮の海に全く見えなくなります。尾根は複雑に分岐して、踏み跡らしきものはないので地図を頼りに歩きいい場所を探し、それでも赤テープがときどきあるのですから、世に物好きの数は尽きないのでしょう。筆者ひとりならもう全く途方に暮れるしかない茫洋とした薮尾根ですが、だいたいひとりではここまで来れないわけですから悲観しても意味はないかも。

○須花浅間山から江保地坂を下る
薮の中を下った鞍部も地図に破線のある峠。こちらは両側に道型があり、今も歩かれているようです。ここからの尾根は今までとは打って変わって歩きやすい道になります。さわさわ緑の風に吹かれて登り切れば大きな岩がふたつ。ここが石割り桜と屏風岩。もう桜は散っていますが岩の向こうに彦間の町並みと遠くの山影の眺めが開けこれで昨年歩いた稜線と繋がりました。
浅間山まで足を延ばし、手書きの看板を従えた祠は地震のせいでしょうかすっかり崩れていて、手書き看板は茶色の標識の真中に移されていましたが一年ぶりの再会を果たしました。

しばらく山頂の様子を楽しんだ後遊歩道を江保地坂まで歩きます。途中の祠は健在で、これはそんなに古そうなものではありませんがやはり山道に石祠は似合う。日本の原風景のような気がします。

江保地坂、看板はありますが両方向全く道はありません。この須花側に代表幹事はサンダルで下ったのですからその蛮勇恐るべし。今日は反対側の江保地方向へぼさぼさの柔らかい斜面をえいやっと下り始める。沢筋に出るまでは、ほんの短い間ですが、枯れ枝を踏みつぶしたり柔らかな土をずずっと崩したりしながらの実に野蛮な下りです。手弱女がすることではないような。
沢筋になれば脚下照覧、最後の最後で転ぶ訳には参りません。

すぐに歩きやすい作業道に出会い、あとは最初の駐車場所までゆったりと田舎道を歩きます。このあたり山間なのに水田が多く明るい伸び伸びとしたした谷も足利らしい。出発のときには誰もいなかったふるさと交流館の側の川にはたくさんの子どもたちが引率されて水遊びをしていて、もう初夏といっていい一日、実に変化に富んだ面白い山稜でした。

帰り着いて地図を見れば両手では足りないほどのピークを辿るこのコース、最後の下りだけはあまりお薦めできませんが、浅間山から須花に下るか、名草山のピークを踏んで須花トンネルに下るかすれば里山満喫の一日になると思いますし、この向い側の山稜も非常に気になっています。もう一回暑くなる前に歩けるかしら。

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