兄倉山(御嶽山)

*雲の低い日曜日、まず前座のほたる山を歩いていつもの一行、あにねこさん、桐生みどりさんとこの日の真打ち兄倉山(御嶽山)を目指します。まだちらほらとしか咲いていない紅梅の向こうに鋭角を描く稜線。そんなに高い山ではないとはいえあの傾斜はきつそうです。

公園のすぐ右手の看板から山道へ入ってすぐ右に新しい石祠、その先の左手に文久の年号が刻まれた稲荷の石祠は尻尾の立派な駒狐を二匹従え、その狐が実に可愛い。特に阿の狐は頭巾をちょこんと冠ってもちろん狐目で笑っているよう、つい触りたくなります。
御嶽山の別名が示す通りこの山は御嶽講信仰の山で、まだ平坦な枯葉の道の先に御嶽神社の赤い鳥居、江戸期と明治の燈籠があってこれをくぐれば御嶽座王大権現を頂点に石像や石祠が建ち並んでいる一角へ。焔を背負うお不動さまは光背型の半浮き彫りですが、座王大権現、子安観音、普寛行者は丸彫りの大きなもので、往時の信仰の篤さが偲ばれます。

暫く石祠の文字を読んだり像容を確かめたりした後、廃屋じみた小屋の左手から杉の中につけられた道を登ります。すぐに傾斜は覚悟していた通りの急勾配となり、けれども山道のあちこちに三十六童子の名を刻んだ石碑が次々に現われて飽きることはありません。まだ杉の緑以外は枯茶一色で、時々振り返れば雲をなびかせた下仁田浅間山のとの間に町並みがどんどん小さくなって広がり、鍬柄岳や大桁山がその向こうに顔を覗かせて、曇り日の山歩きも捨てたものではない。
先行するおふたりがなにやら声を上げて、近づいてみると見事な火焔の不動明王立像。頭上の焔が鳥の形をしているのでこれは迦楼羅炎かしら。安政のものなのにちょっと前衛美術めいたなかなか現代的で素敵な焔です。

もうひと息登れば今度はお不動さまの坐像。こちらはいくらか朱が残り、降り注ぐような焔に包まれた、やはりなかなか味のある像容。
そのまた少し上に、実に実に見事な八海山大頭羅神王の大きな立像が!剣が折れているのが残念ですが、獅子の顔を頂く兜も軍靴も肩当てをつけた軍装も全く傷んでいない立派なもので、その力強い姿や表情に暫く見蕩れます。台座に文化三(1806)年とあり、脇に天狗の名がある石祠、これは文化財にすべきだ、もうこれを見ただけで本日上等、などと三人で口々に誉め、けれども右の稜線はまだまだ遠い。
それからも童子碑や壊れた石祠などを見ながらやっと稜線へ。よく踏まれた尾根をしばし急登して、ようやく大きな石垣に乗った祠と看板がある頂上へ到着です。

祠の右にいる怪しい動物像(猪か?)など拝見して、「足下注意」の看板に真黒なアスファルトのような広がりをよく見ると、なんとこれは羽虫の塊。寒い日なので固まって暖を取っているのか、まだここで卵から孵ったばかりなのか。飛び立たないよう細心の注意を払いながら休憩します。
ぽこんと聳えた狭い頂上に身を寄せ合い、コーヒーやおやつを出しても今にもその無数の羽虫がわらわらと飛び始めるような気がして落ち着かず、そそくさと荷を纏め、東に延びる尾根を進めば両側は切り立つ崖。たくさんの灌木が枝を広げているのでそんなに恐怖心はありませんが、どちらを見下ろしても軽い目眩がするほどの痩せ尾根、何カ所か動物の足跡が横切り、南側には今朝まで降っていたのか沢筋を雪で白くした稲含山から日影山への稜線が黒々と寒そうです。
鹿が角を擦り付けたのでしょうか、すっかり皮が剥がれて明るい色の内部を見せた樹木の先に三つの石祠のあるピーク。皆北側を向いて、ひとつはすっかり土に埋まり込んで、銘は全く読めませんが山神さまたちが並んでいるのかしら。

この先しばらく尾根を辿り、北側にひどく急な斜面を下ります。目印も道もありません。同行おふたりの地図読みに全てを委ね切って、こんなことだから筆者はいつまで経っても山歩きが上手にならないわけです。
斜面は手がかりの樹木がたくさんあって、落葉と柔らかな土で滑らないのがありがたい。そんなに長い時間ではありませんが、たっぷり汗をかいて杉の植林帯へ下り着きます。この植林帯がクリッペとの地層の境なのかここから道はなだらかに変化し、歩きやすい場所を選んで下るうちに広目の作業道に到着。
あとはその道を、三椏の固い蕾の白を愛でたりしながらゆっくりと西方向へ歩くうちに、ぎっしりと家の建ち並ぶ下仁田の町と、出発地のほたる山公園の管理棟の赤い屋根が見えてきます。

御嶽山というだけあって多様な像や石碑があり、石像ファンの方々に(果たしているのか、そんなひと)自信をもってお薦めです。これからきっと花も水も美しい季節、筆者は下仁田九峰制覇に燃えています。……でも川井山はなかなか手強そう。

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兄倉山の急角度
公園からの標識
可愛い駒狐
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始まりはなだらかな道
御嶽神社の鳥居と燈籠
御嶽座王大権現
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普寛行者像
急勾配の山道
九十九折にある壊れた祠
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見下ろす町と遠くの山
中腹の不動明王立像
左の稜線へ
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不動明王坐像
どっしりと八海山大頭羅神王
右の稜線へ
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尾根道も急峻
頂上祠と猪・山頂看板
痩尾根を辿る
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三基の石祠のあるピーク
もちろん下りも急
杉の向こうに下ってきた斜面
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植林帯を抜けて
作業道と合わさる
出発地が見えてくる

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