浅間隠山

*今年は雪がよく降りました。里山で雪山だわと喜んだものの全く道形が判らなくなった斜面は手強くてずいぶん転んだり落ちたりしました。
どう歩くのか、山の先達に教わろうとアイゼン購入、ついでにスパッツも初入手。当会にしては珍しい投資と果敢な試みとして、(昔二度ほど歩いて酷い目に遭った覚えもあるような気もするし何年か前ほんの少し三枚石で踏んだけれどほぼ)初の雪山歩きに行って参りました。

浅間隠山はその名の通り浅間山を隠してしまうことから付けられたそうですが、それは中之条や吾妻村での話。反対の麓からは浅間山に隠れてしまうわけで、川浦富士とか矢筈山とも呼ばれていて見る場所によっては綺麗な富士山型になったり、頂上が二つに別れて矢筈になったり、ほんとうに山の名は難しい。
高崎から県道54号が高度を上げると両脇に雪が残り、空は真青、目的の頂は手前の山並の奥に三角錐や双峰に形を変えて期待通りしっかり白い色を纏っています、うふふのふ。

二度上峠の少し手前に車を停めいくらか戻ると雪に埋もれた登山口標識。ここでご教示いただきながらアイゼン装着。見た目はごついけれど思ったより簡単です。
くっきりとしたトレースは谷筋を緩やかに辿りながら少しづつ高度を上げ、これは固く締まったいい雪だそうで、かしかしと歩けば沈みもせず凍り付いてもいませんが、トレースの脇には時々ずぼんと深い靴跡があり、笹が頭を出す斜面の積雪は50センチ以上あるかしら。雪の山は基本的に歩きいい場所を拾って歩く、樹の様子で道は判るはず、とおふたりは言いますがもしトレースもなくひとりならやはり途方にくれそうな気がします。
最初の尾根に詰め上がる斜面は針葉樹林帯の急斜面で長靴の桐生みどりさん、がっしりしたアイゼンのあにねこさんはぐんぐん登って行きますが、筆者はときどき後に滑って、これは真直ぐに足を降ろさないからだとか。本人は真直ぐのつもりなのですがどうも歩き方とひとの性根は正比例してるようです。けれどもしっかりと雪が噛めて大きく滑りおちることはありません。アイゼン偉い!

乗り上げた緩やかな稜線を右に辿ると正面に浅間隠山が大きく見え、まだ鳥も鳴かない枯木を縫う道は雪が音を吸ってしまうからでしょうか森閑として、空と地の間に密度を濃くした無音が充ちているような、あとほんの少しの圧力であらゆる音が弾ける直前のような、とても張りつめた静けさを感じます。
足元の雪面には絶え間なく光が撥ねて煌めき、目を凝らせば朱や緑や青や紫、様々な色がちらちらと白の上を走り、見上げる空は黒いほど青い。雪目はひどく痛むのだとその怖さを教わって次はサングラスを用意しようと思いながらも、この鮮やかな光の乱舞はちょっと病みつきになりそうです。

笹の褪せた緑と先を歩くおふたりだけが彩りの道はときどき蛇行しながら徐々に傾斜を強め、登り出すときにみどりさんがここは雪の初心者コース、吾妻山より楽なはずと言ってたけどそんなに楽じゃありません。後から来る方に道を譲り、降りてくる方にしばし待っていただき、はあはあぜいぜい息を切らして一歩一歩、沈まないとはいえ雪の登りはいつもより足が疲れます。
枯木に掴まりながらよじ登る主稜線。一気に右手の眺めが展け、きゃあ〜高い!西上州特有のごつごつした山稜がどれも雪を纏って足下に広がりさすがに1700m超えは気分がいい。正面左には隠山の鋭角の稜線の陰に長く裾を伸ばす浅間山の端正な白い山容が覘いて、尾根は真直ぐに山頂へと輝き、急激な東斜面へ下りてゆく蹄の跡がひと筋。

見える魚は釣れないし見える天辺にはなかなか着かない。前を行くおふたりが小さくなり、あと少しあと少しと自分を励まして倒れ込むように着く山頂は期待通りの360度の展望です。雪の中に大きな山名板、三角点、ぐるりの眺めが刻まれた山名板、それに石祠が一基、確かめなかったけどきっと浅間さまでしょう。
あちらが皇海、こちらは岩菅、あっちが北岳、向こうは鹿島槍。指さされる方向はどこも眩し過ぎて暗く見え、涌き出す雲にいまひとつ判然とはしませんが、何といっても浅間が美しく、しかも不遜ながらそんなに高くなくて意味なくえへんぷい。小広い雪原に座り込んでお昼です。
荷物を軽くしたい一心の筆者は餡パンとコーヒーで済ましましたが、おふたりのザックから色んなものが飛び出してくるのに感嘆。特にあにねこさんのもやしには驚きました。あれこれお裾分けをいただき感謝。

のんびりと大休止したら来た道を戻ります。
下り初めの展望のなんと気持ちいいこと!周囲皆なにもかも低くて遠い。登るときの大変さはなんだったんでしょう、眼前の山襞の陰翳を楽しみながら大股でぐんぐん下ります。支稜線の急傾斜も雪なら歩きやすい。登りで踏み込まないよう注意した深みにも平気で足を降ろし、まあときどきよろけて転んだりもしますが、それも楽しくてくすくす笑いながら下りの苦手な筆者にしては異例のスピードです。先月近くの里山で滑るのを怖がりながら歩いたのとは大違い。
とはいえおふたりに時々待っていただきながら登山口到着。いや〜下りはとても面白かった〜。

装備を外し車に乗ればもう臀筋や腿の後が痛み出し、帰途で寄った相間川温泉の茶色のお湯で手足を伸ばすとぴりぴりと末端が解れてゆく快感。
同じく帰途手に入れた美味しいお酒を飲みながらここ幾晩か雪の光と静けさを懐かしんでいます。
もう一度だけ桐生の里山に春の雪が降ってくれないかしら。

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登山口
トレースはしっかりしている
最初の急登
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樹間に目指す山頂 ゆるやかな雪道 あそこまで
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道ははっきりしている
主稜線へは急登です
一気に東が展く
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尾根道を淡々と
なかなか着かない天辺
じゃん!1767m
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浅間を背に石祠も
浅間山 下りの大展望

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