梵天山

*おかぼ平から尾根を周回したときに知遇を得た小平サクラソウの会の会長さんにお世話になって梵天山へ登頂してまいりました!
山歩きから戻った代表幹事がその日のメインであった小夜戸山より熱をこめて話してくれた梵天山。それはそれは恐ろしく面白かったようで、その後も幾度か同じ話を繰り返し、大杉の側を通るときはあれが梵天山と、道路からは首を真直ぐ上げてもほんの少し天辺の緑が覗くだけの小さな高まり指さし、青面金剛脇の小径を見て「入り口はこうだけれど・・」と上の急峻なことを強調していた山でした。
会長のMさんにもっと楽な登路があると教わって出かける春の日。みどり市の”電話でバス”って駅起点ならけっこう便利。朝は電話が混んでいますが係の方がとても親切で帰りの時間の相談にも乗ってくださって、梅林が美しい山里を進む小さなバスに乗客が筆者ひとりなのが心苦しく、もっともっと利用者が増えればいいのに。

いつ見てもその大きさに畏敬を感じる大杉のたもとで下車。今年は寒かったせいか会長さんの庭の梅はまだ蕾です。ご挨拶の後、腰には山刀、肩にはロープ、テンガロンハットにゴム長のMさんとまずは茂木への舗装道を上がり、釣堀のあるうどん屋さんの前の墓地後から斜めに稜線へと登り始めます。2月のあの大雪と余りすぐれない体調でまだ踏み跡ですが、Mさんはここから梵天山へ道を造ろうと計画されていて、誰でも歩ける道になると仰いますがいやなかなかの急斜面です。
いくらか固かった踏み跡はすぐに小石のザレ場になり、筆者の歩き方はどう見ても危なっかしいらしい、ロープを張っていただいてそれに縋ってじりじりと高度を上げます。Mさんはロープのために余り手がかりのない急斜面を幾度も往復する羽目になり、もうひたすらに申し訳ない。膝の上げ方や足の置き方を教わりながら、稜線はすぐ向こうで空になるのですがなかなか行き着けません(恥)。見下ろせば落ち込むような急斜面のすぐ下に舗装道が見えて高度はいくらも稼いでないのにもう汗びっしょり。

手がかりの灌木が増えてやっとロープがいらなくなれば痩せ尾根へ到着です。杉の他はまだ芽吹きの始まらない木々の中にクロモジの黄色い花が鮮やか。左手に梵天山のある尾根の、もうひとつ手前の尾根を眺めながら、細い尾根を暫く登ります。
と下から微かに呼び声が。それに応えるMさんの大きな声。山男は美声が多い(当会調べ)といいますがほんとによく通る声で、こんな声を出せるのはどんなに気持ちがいいでしょう。
左手の杉林へ踏み込み崩れやすい斜面を次の尾根に向かっていると、その呼び声の主K氏が軽々と斜面を上がって来ました。Mさんのお宅で梵天山へ出かけたと聞いて後を追って来られたそうで、もう着いてるかと思いました、と言われてひたすら赤面。Kさんが来て心からほっとしたようなMさんの顔を見てまた赤面です。

斜面にぽかりと開いた炭焼窯の痕跡を見たり、おふたりのいかにも地元の山の主らしい話を聞きながら杉の林をトラバースし、岩の目立つ次の尾根に立ちます。目的地よりかなり高くにいるので梵天山は目視できませんが、小平川の向こうの稜線や、東に重なる尾根が樹間に見えます。
最後のトラバースは雑木の中の歩きやすい斜面です。とはいえやはり見ていて不安になるのでしょう、エッジの効かせ方、斜面との身体の角度なんかをMさんにご教示いただき、エッジは固茹で(違うってば)なんて心中思ってる筆者の情けないこと。
辿り着く梵天山への尾根は檜の若木でしょうか柔らかな緑が目立つ痩せ尾根です。この先に奥の院、なんてふたりは仰るけれどすぐに大きな岩場で、これを下るのは生まれ変わっても筆者には無理。少し戻って杉落葉の深い林を下ります。ここでMさん、両足跳びで下るという荒技を見せてくれました。いかにも楽しそうなのですが……試すのも恐ろしい。
先に立つKさんが岩の間で待っていてそのすぐ上に凛々しく石祠がひとつ。銘はありませんがいい具合に古びて、その向こうに連なる山稜と相俟っていかにも深山という風情です。その尖った頂のひとつ、「あてらの山」という楚巒好みの山名を教えていただきました。鋭く立ち上がる見晴らしが良さそうなピークで、この名前を書きたいばかりに今回の概念図は東に大きく取ってあります(実際はとても狭い山域なのでいつもより倍率が大きくもあります)。

ほんの少し下って木の根の間を登り返すと、じゃん!松の木に囲まれて六画・笠付きの立派な庚申塔。梵天山頂上です。ぐるりに小さな庚申石を従えた塔は丁寧な造りで、梵字は浮彫り、笠もはめ込みになっていて、山中には勿論下でも滅多に見ないしっかりしたものです。台座は四角で建立者の名が刻まれ、その中にはKさんのご先祖もあるそうで、う〜むそんな方と一緒にここに立てるとはありがたや。小平山正福寺の名もあって、これは代表幹事がここよりずっと下流の高倉山で紹介している石祠にもある名で、江戸時代の古刹の勢力を思わせます。
山頂のぐるりはすとんと切り立っており、この大きな塔も小さな庚申石たちもここに運び上げる過程を思うと、常のことではありますがその信仰心に頭が下がります。しかもそれが集落を主にする庚申塔であることが珍しい。ここへの道ができてたくさんの方の目に触れることを願って止みません。
代表幹事が撮れなかったこの塔を何枚も写真に収め、珍しい苔や穴のある石を教わり、歩いて来た斜面のある山並をしみじみ眺め、まさかここに立つことができるとは思わなかったので様々な感慨に耽ります。

帰りは来た道よりかなり下側の斜面をトラバースします。落葉の散る崩れやすい土肌を再びよろよろと進みます。杉林はどこまでも急で、すぐ下に大杉が見える場所もあるのですが岩がそそり立つ涸滝で、おふたりならきっとここをひょいひょいと下ってしまうだろうに、筆者どこまでも足手纏い。難しい場所では即席の階段を作っていただいたり、枯木に掴まり折れた枝ごと転落しそうになったり、挙句に手をひいてもらってようやく最初に登った稜線に到着。
ここからもザレ場を盛大に崩しては常にMさんに確保してもらって、もうほんとうにありがとうございました。
スタートの墓地に辿り着き、舗装道を下りながら今年こそもっと歩こうと(何度目だろうか)決意。実際は二時間ほどの山歩きだったのですが、もっと長く山中にいたような恥ずかしながらも実に楽しい経験でした。

バスを待つ間Mさんの奥さまにも大変良くしていただいてお土産まで貰って、もうもうどんなに感謝してもし足りませぬ。誠に勝手ながら、山、大好き。

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最初は踏み跡あり
ザレ場を過る
急斜面です
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尾根は見えているのに ロープを張っていただく
クロモジ満開
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最初の尾根到着 痩尾根を辿る 杉林の斜面へ
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炭焼窯の跡が残る
小平川対岸の山稜
ふたつ目の痩尾根
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けっこう土は崩れやすい
尾根突端は岩場 杉林に戻って下る
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岩場を横から(下れるとは思えず)
奥の院の岩場 奥の院の石祠
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登り返す梵天山
どっしりと庚申塔
周囲にはたくさんの庚申石
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歩いて来た斜面を振り返る 珍しい苔だそうだ
この真下が大杉
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左M氏・右K氏
最初の稜線へ戻る
下の沢そばで・菊咲一華

・文中のK氏はみどり市の観光ガイドをなさっています。市内だけではなく山岳ガイドもあるそうです。観光ガイドの詳細についてはみどり市観光課0277-76-1270へ。

・筆者、小平サクラソウの会の会員になっておりました(驚)。どなたさまも自然は大切に、珍しいものを見つけても採取なんかしてはなりません。何も引かない、何もつけ加えない、山とのつきあいの鉄則ですぞ。

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