大黒尾根〜三峰山

*昨年から金沢峠〜兼宮神社の間の林道の、主に(登路の)右側に岐れる何本もの道が気になっています。ほとんどは地図に載ることもない作業道、どこかに行き着ける道として作られてはいないとしてもどれもしっかりした巾広い道、きっと歩けばその迂遠さや勾配、部分鋪装の歩きにくさなどに文句を言うに決まってるのになにか気にかかる。そのくせひとりじゃ歩きたくはない。ぐじぐじ。
なんて言ってたら世界はときどき筆者に優しい、大黒尾根を歩いてみてもいいと猫さま御一行。山猫さんご夫妻と赤猫さん総勢4名で大冒険の始まりです。

金沢林道最後の人家すぐ先、石祠が4基散らばる大杉のある場所の少し手前、右の稜線に向けて山道が延びています。例年5月には大黒さまのお祭りが今でも続いているそうでこれが大黒尾根。背伸びすれば稜線上に緑の固まる場所があり、きっとそこに違いない。よく踏まれた細いつづら道を二、三度曲がればいい色に白んだ鳥居と壊れかけの小屋、そして三本の幣束が上げられた大黒さまが鎮座するお宮です。
桐生市史や梅田の民俗資料を見てもこの大黒さまに触れたものが見当たらず、台座には「供養塔」と彫られていて、さてどんな謂れがあるのか。五月のお祭りは最初に金沢峠から三峰さまに参り、その後この大黒さまだそうで、一度お邪魔して色々聞きたくなりました。ちなみにこの辺りの三本の小さな尾根は中尾根・海老尾根・大黒尾根とそれぞれ名を持ち、「大形山と筬沢山の間の尾根」と桐生市地名考にあり、筬沢山(おさざわやま)がどれなのかも気になります。

さて大黒さまの裏から鳴神・吾妻主稜線方向めざしてがさがさ枯薮に分け入ります。道型も目印も全くなく、下草が枯れきっているこの季節だからこそ歩ける斜面ですがすぐ上には伐採された部分もあり、雑木と植林帯の分かれ目に山神さまの石祠が南を向いてぽつんとあって、山歩きのひとはともかく林業関係の方は歩いている雰囲気です。

杉林に入ると稜線もしっかりして出足好調。すぐに簡易舗装の林道を横切り、この林道はどうやら地図に記載されている阿陀窪の林道と繋がっているようです。そのまま杉の中を突進すれば傾斜はだんだん急になり、足元は枯れた杉の枝と細かな杉落葉で、ばりばりざくざく、埋まり込まず固過ぎずけっこう歩きやすい。
いつもこんな山登りなんですかなんて赤猫さんに驚かれて、はい(えへん)と見栄を張っていたのも548mピークくらいまで。
ここからは稜線上は岩塊が目立ち出し、右に逃げたり左に巻いたりして小さなアップダウンをやり過ごします。これは桐生の瑞牆山、とはかなりオーバーにしても結構峩々たる風景で、ほんとうに山は下から見上げるときと入ったときとでは大きさも深さも様相も違う。それでも周囲はずっと植林帯で下枝などが払ってあり、林業の大変さをしみじみ実感。

すぐ上に主稜線が見えてからの傾斜はそれはそれは急勾配で、このコースは冬期でなければ絶対歩きたくないような、いえ歩けないような。つい直登するのを山猫さんに窘められながら息を切らしてジグザグに空を目指します。赤猫さんと山猫奥さまはこの道なき登りにすっかり呆れて、右側の稜線へのコース取り。もちろんそちらにも道はなく、静かな杉林にお互いかけ合う声だけが時々響いて、寒さが戻った冷たい日ですがじんわりと汗が滲みます。
途中で拾った木の枝に縋ってへろへろよたよたとようやく主稜線に到着すれば、三峰さまの朱色の残る小さな石祠のすぐ側で、やはりひどく急傾斜だったという右コースからのお二人と合流し、打って変わって歩きやすい縦走路を右にもうひと登りで三峰山頂。切れ長の目の御嶽座王大権現がうっすら微笑んでお待ちかね。風は冷たいけれど陽射しの中に座り込んで午餐会です。

今回は赤猫さんが魔法のザックからコンロや鍋やフライパンや大量の水、お皿や卵やハムやお茶、手品のようにあれこれ取り出し、山猫奥さまはサラダや酢漬けを取り分けてくださって筆者はひたすらご馳走になるばかり。すっかり満腹して幸せでもう少し暖かければここの子になってもいい気分。どうもご馳走さまでした(って、山猫さんご夫婦はこれを読んではくれないのですが)

最初の予定ではここから梅田忠霊塔への尾根を下るつもりだったのですが、頂上から忠霊塔への尾根の赤ペンキが真下に続くのを眺めて、ここを下るのはひょっとしたら登って来た斜面より大変ではないかと一同意見が一致。本日はこのくらいで勘弁してあげましょう、と大権現に勝利(!)宣言して金沢峠へ向かいます。
川内側の日陰にはつい先日の雪が真っ白に残る場所もあり、雪を纏った赤城山が見える場所は冷たい強風がもろに当たり震え上がります。それでも赤城山が見えない陽だまりはもう春の暖かさ。枯葉を蹴散らし、植物の名や特徴や食べ方やあれやこれやを教わり、中天高い日光を受けてきらきら光る鏡石を撫でたり擦ったりと堪能して、一同無事に出発点の兼宮神社へ帰着しました。

この全く道がない稜線歩き、猫さま御一行がまた付き合ってくださるかどうか、どうも筆者には自信がありません。今度はちゃんと道のあるコースを考えるべきかしら。

* "
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出発地:兼宮神社
大黒尾根登り口
大黒さまが鎮座する
* * *
すぐ上には山神さま
杉の稜線を登る
岩塊の尾根筋
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主稜線が見える
鳴神縦走路に合流
三峰山頂上
* * *
わーい、ハムエッグだー
微笑む御嶽座王大権現
金沢峠の三猫さま

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