八王子山〜高倉山(小平)

*呑んだくれて帰る土曜深夜、酔眼でメールを開けば日曜日の山のお誘い!わ、やったぜと一気に心はクリアになって化粧も落とさず山の支度を枕元に並べ目覚ましをセットします。

あにねこさん、桐生みどりさんと道々の満開の桜を眺めながら到着する大間々の鍾乳洞公園にも桜は咲き始めており、いくらか冷たい風に吹かれて歩き出せば石組みの間に可愛いお不動さまが。彫りはすっかり薄れていますが、小さな目を見開いて赤く彩色された羂索を振って(ちょっと嘘)見送ってくれます。まずは舗装道を三本木集落の方へ進んで八王子山の登り口へ。八王子山参拝道への道標の向こうには三角錐の山が青空に映えて、あれは三本木峠を過ぎてすぐの520mピーク、なかなかいい形で名前がないのが勿体ない。『山田郡誌』に400mという標高さえ記載されてなければあれこそ三本木山と呼びたいところです。

八王子神社の鳥居の脇には蓮の花を浮彫りにした手水石があり、宝永2(1706)年の文字が読め、そばにいい形の石燈籠が二基、鳥居の扁額は文字が薄れてかなり古いもののようです。わんぱくコースとほのぼのコースの分岐には木の祠がふたつ。勿論わんぱくコースを選びますが、これが見上げるほどの岩場。岩を掴んで登ってるうちに筆者はペットボトルを落としてしまい、ごろごろ転がる本日の水分はあっという間にはるか下方へ見えなくなってしまいました。なんてわんぱくなんだろう。筆者ここなら単独でもと秘かに思ってたのですがひとりじゃほのぼのコースの方が無難かもしれません、あるいはまだ酔っぱらってるのかも。
息急いて登り着く高みには折り重なる岩上に古びた本殿。振り返れば石切場の山の向こうに赤城山が雪を頂き、麓の集落が足下にもう小さくなっていて、代表幹事が力を込めてこの山をお薦めしていたのがよく理解できます。実に当会好みの山。
神社を後に少し稜線を進むと赤柵に囲まれて役行者と不動明王の石像が鎮座し、ほのぼのコースと合流する下山口になります。左手の樹間にこれから歩く駒見山と高倉山が見えて、空は青くてお天気はもちそうです。

ここから竹薮に突入し赤芝山稜主脈を目指します。例によって道はありません。細い竹と五月蝿い雑木に帽子を取られたりあちこち引っ掻かれたりして、薮が尽きれば植林帯と雑木帯に分かれる尾根はいくらか歩きやすくなりますがなかなか急です。周囲がすっかり植林地になりひと登り、いやふた登り、いやみ登りほどで着く450mピークには三本木山の山名票が掛かっていますが展望も特徴もない場所で、う〜むほんとにここが三本木山でいいんだろうか。地元の方のご意見がほしいところです。
細い杉林の中の縦走路を北にいくらか歩くと石祠と石段のある三本木峠。屋根を支える石柱が新しいものに変えられていて、これは川内側を向いていますのでそちらの集落が補修なさったのでしょう。そういえば前回ここを歩いたのはあの年の2月でまだ地震の前でしたっけ。
この三本木峠もこれから通る駒見峠もかつては物流や生活の主要な道で、小平のひとたちは大間々より機が盛んな川内へ出る方が多かったのだとみどり市の観光ガイドのK氏に伺ったのでした。確かに今でもこの長い山稜をぐるりと回るより山越えの方がうんと近い。まあ徒歩の場合には、ですが筆者はこの歳になって歩くのが楽しい。なんで体力のある若い頃にもっと歩かなかったのかと少しだけ悔やみます。

陽射しの暖かい雑木の間を選んで、尾根を緩やかに登れば右手にも正面にも鳴神への山並が長々と延びて、所々枯木の間に真っ白に、雪かと見紛うような満開の桜が見えます。道のない斜面をつい筆者はそちらへふらふら歩いてしまう。山で迷う人間ってきっとこうやって目先ばかり追う種族なのに違いない。
下からあんなにくっきりとした520mピークは歩いてみるとなんとなく通過してしまうような地味な天辺で、堀切跡を超えての510mも顕著な高まりではありませんが、それを下った広々とした鞍部の駒見峠はいかにもとうげとうげした峠です。西には幾重もの低い山並と赤城の稜線の向こうに榛名が複雑なかたちで霞み、赤城から吹いてくる風はいくらか冷たくて、東斜面へ少し降りて落葉に埋もれて早いお昼にしましょう。
風さえなければ春は爛漫。歩いてきた斜面には気の早い山ツツジが蕾を膨らませていました。缶詰を開けパンを齧りコーヒーを啜り、行程がもう少し長ければビールでも飲みたいところですが本日は我慢。山の気と紫煙をたっぷり吸い込みます。

大休止の後の歩き出しはけっこう辛い。ここからは長い登りがだらだらと続きます。尾根が少しずつ向きを変えるたびに開ける空に励まされて、登り着く駒見山には満開の黄色の花をつけたシロモジが幾本もあり、頂上看板が一枚増えて、空はますます青い。右手の山並の、あれは大形山、金沢峠、三峰山と数えしばし眺めを楽しみます。
少し戻って西に下れば三角点のある高倉山。本日唯一の三角点で傍らの木にある山名票と一緒に写真に収めます。ここまでは三年前に赤地山から縦走したときに歩いたのでした。
植林地の中をいくらか下ると前回見なかった三基の石祠。崩れていたのをみどりさんが奥さまと一緒に一度直したそうで、でもそのときよりまた整備されているようだとのこと。一番大きな真中が石尊さま、右に大天狗、左が一番小さな小天狗で、ここが先日教わった水神さまと共に折の内の方々が八月にささら(舞)を奉納していた石尊さまで、手を合わせたのでもうこれで今日は雨は降らないはずです。

さてここからはあるはずのお不動さまを探しながら下ります。
先日、Kさんにお不動さまはある、かつて正福寺から石尊さまへの参拝道がありその途中だった、今は植林地になっていて道はない、と教わったのでとりあえずお寺を目指しますがなにしろ道のない急斜面ではっきりした尾根もありません。
杉の枯枝をぱきぱき踏みながら、足元が柔らかいのと抱きつく杉が多いのが救い、目立つ岩を見るとその周辺を探しながらどんどん高度を下げます。
ときどきあにねこさんがGPSを見ながらだいたいの方向を決めるのですが、同じものを持っていながら筆者には猫に小判、自分がどこを歩いているのか実はさっぱり判らない。概念図のお不動さまの位置も当てにはならないのであにねこさんが記事を書かれるのが待遠しいというテイタラク。
杉林から雑木の目立つ歩きにくい斜面へ変化してすぐ先頭のみどりさんの”あった〜”という大声が響きます。急いで近づくと緑濃い常緑樹の傍らに大きな石碑のようなものが。これが背面で、前に回ろうとしてそこが大岩塊の上、ぎりぎり端っこに建っているのに思わず足が竦む、目は眩む。きっとかつての参拝者は真下から見上げて高くのこの像に手を合わせたのでしょう、お不動さまの前には全くスペースがありません。張り出す枝に掴まって代わる代わるカメラを構えましたが筆者が撮れたのは横顔のみ。吊り上がるくっきりとした眼差し、高い鼻、引き結ばれた唇に大きな福耳の正面からの画像は「桐生の不動明王」でご覧ください。
はっきりした当てがあっての探索ではなかったので偶然のように見つけたお不動さまに一同大興奮がなかなか醒めません。大岩塊の右手から下に回って樹影の濃い上を見上げたり、みどりさんはそちらから登ろうと試みたり、なかなか去り難い。

ここからも崩れやすい急斜面をひゃあひゃあきゃあきゃあ杉に抱きつきながら下り、小さな沢を渡ってどんぴしゃり正福寺の裏の墓地に降り着きました。GPS偉し、いやGPSをちゃんと使えるひと偉し!
お寺には古い鐘楼をバックに枝垂桜が咲き満ちて、大きな白木蓮もまだ一杯に咲き誇り、たくさんの花をつけた紅椿が春に耐えきれずに地も染めて、今年の春は常にも増して花の春です。
登り出しの小さな不動像、八王子山のお不動さま、そして高倉山の噂の大きな不動明王と本日は見事にお不動デイでした。

舗装道を鍾乳洞公園に戻るとばったりと小平サクラソウの会の会長Mさんと行き逢い、公園の所長さんに紹介していただいて周辺の山のことなど教わり、あにねこさんが見つけた新たな青面金剛を見たり美味しいお豆腐を買い込んだり、小平の里山に遊んでもらった春の一日。帰途振り返れば山は仄かに緑を帯びて空には羊の如く白い雲。

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八王子山道標
山頂の神社
見下ろす集落・赤城山は白い
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山頂のお不動さまと役行者像 竹薮突入 植林の尾根を登る
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三本木山山名票 桜が雪のように 樹間に右駒見山・左高倉山
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駒見峠から西側を・遠くに榛名
広々とした駒見峠・標識
登りが続く
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駒見山の山名票
高倉山三角点 小さな山名票がふたつ
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山頂を背に石尊さまと天狗たち
岩上の不動明王 下りは急斜面
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正福寺へ下り着く
プラチナに輝く満開の枝垂桜
振り返れば高倉山(奥)

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