湯殿山(彦谷)

*柄にもなく花を追って、掲示板で綺麗だと教わった葉鹿の彦谷湯殿山を歩いてきました。紆余と曲折の後、彦谷自治会館の大きなハイキングコース案内板からの出発です。地形図で見ると西登山口の方が傾斜が優しそうなので時計回りに周回します。

自治会館を背に右、舗装道を横断し緩く登ると経持坂(表示は慶路坂になっている)。金網で囲まれた何かの施設の脇に安永四(1775)年の銘のあるお地蔵さまや庚申石があり、湯殿山への→が目立つ標識があります。→に従って杉の並ぶ山道へ。固く踏まれた広い道はすぐ明るい新緑の雑木林の中を縫うようになり、少しずつ高度を上げます。
道脇の山つつじはもう花びらが傷んでいますが、だんだらの木漏れ日の中を歩くのは楽しい。すぐに最初の鉄塔の下を潜って、本日は空は真青、雲ひとつない上天気で鉄塔のパイプが輝いています。振り返ると木立の間に彦谷の集落は既に小さく、その向こうに八王子丘陵の東側の稜線がくっきりと陰翳を見せて、ゆるゆると登っているので自分の居る高さにちょっと驚きます。

尾根を左右に切りながら続く道はよく整備されていて一本で続き迷うところはありません。ふたつ目の鉄塔の小ピークを階段で越え、このあたりから緑に浮き立つつつじの花色は鮮やかになります。学校林上の標識を過ぎ、雑木と竹の柔らかな緑を抜けて、右手にほとんど手入れされていない細い檜の乱立する斜面が広がると登りは小石混じりに、いかにも山道じみてきて山つつじの花叢が増えてきます。実はここまで猪の掘り跡が多く、竹薮ががさと鳴るたびにどきどきしていたのですがそんなことは全く忘れ露岩と花色を追って、岩場の巻道の表示も鼻で嗤って進めや進め。
登り着く314mピークで展望が開け、八王子丘陵の長い稜線や金山を浮かべて関東平野は潤んでいます。樹間には桐生の山の長い尾根、その向こうに輪郭の溶けた赤城山。手前の県境尾根の、高くなるあたりから仙人ヶ岳は焼け焦げて色が変わっているのがはっきり見えます。地図で判っていたとはいえ石尊山の削られた斜面がすぐ目の前にあるのもなにか不思議。
つつじの峰まで続く小さなアップダウンは圧巻です。山つつじ、とひとまとめに呼ぶには申し訳ないくらい淡いピンクから濃い紅や朱色まで、色を違え大きさも様々な花は道脇だけではなく、特に南の斜面はずっと下まで華やかに染めて、筆者今までこの花を庭木の類いと軽んじていたのは浅慮でした。光を浴びる緑の濃淡と相俟って実に美しく、つつじの峰では時間を忘れ息を潜めるように見入ってしまいました。ここにひとりでいるのが贅沢過ぎて泣きたいくらい。来年もきっと来よう。

緑を抜ければすぐ、関東平野を見下ろす鳥居のある石祠の湯殿山山頂です。江戸末期に彦谷村と粟谷村の有志が出羽三山を祀ったのだそうで、松と岩の目立つ広々とした山頂は神のおわす場所として朝夕里から手を合わせるのに相応しい佇まいです。お祭りがあったばかりでしょうか真っ白な紙垂が鳥居に掛けられて、あれっ筆者この天辺は微かに記憶にある。帰って資料をひっかき回したらデジカメ以前の天辺記念写真を見つけ、きっと表参道を歩いたのでしょうが道の記憶が全くないのに我ながら驚きます。今となればなんと勿体ない、そしてひとりで歩いてみるとなんと知ることが多いことか、とまあ後の祭りではありますが。
木陰で久しぶりにお湯を沸かしてコーヒーとパンの食事、煙草も深々と吸って、大丈夫火はきっちり始末して、これから下る稜線とぼんやり霞む平野を眺め下ろしたら腰を上げます。
すっかり汗の乾いた帽子を再び被り幾度も振り返って頂上に別れを惜しんで、こちら側は岩が重なる急な下りがしばし続きます。いくつかの大きな岩の上には頂上のものとは向きを変えてそれぞれ神垂も新しく石祠が祀られ、左手には石尊山から深高山の起伏の少ない稜線が青空に映えて、石尊山の登りも面白いけどこの湯殿山の岩場もなかなか面白い。
三角点を踏んで、ここにはRKさんの高度だけの札があり、これがなんだか新しそうでちょっと嬉しい。

すぐ真下に見える鉄塔まで、幾度かあらぬ方向に突っ込んでは行きつ戻りつして(我ながら呆れます)、へへっほんの短い距離なのに結構時間がかかりましたがまあそれも愉し、と強がっておきましょう。
鉄塔を過ぎると道はそれまでの倍も広がってだらだらと下ります。陽射しの跳ねる緑と鳥の声が爽やかな階段の道は左に粟谷へ下る道を岐け、このコースは東電の巡視路が混じるからだけではなく、地元の方々が丁寧に整備されていて荒れたところがなく、的確に標識が設けられてもいるので方向音痴でも安心です。中山口へ下る道を右に岐けてからは幅は狭くなりますが、竹薮と雑木林が交互に入れ替わる道は固く踏まれ、登路よりつつじは少ないもののアップダウンがほとんどなくて、森を散歩しているような気分です。
もう一度右に表参道への標識を過ぎれば天池。かつて雨乞いが行われた池は濁ってはいますが本日は水量がたっぷりで、猪の楽園の別名通りヌタ場の様相を呈しています。池の脇の小平地にはテーブルと椅子があり、ここはつつじの花盛り、しばし猪がやってこないことを祈りながら微かな風と花色と静けさをじっくり味わいました。

緩やかにくねる道をだんだん濃くなる緑に包まれてしばらく進むとぽんと空が開けて、正面に二十丁山でしょうか、可愛く尖る高まりが見えてくれば道は赤土の作業道じみてきて、すぐに右手に歩き出しの彦谷集落が見えてきます。
単調な急傾斜を下りきると東登山口。見返れば湯殿山と西の高まりはなかなか立派で、ふふふ、あそこを歩いたのだわ、ほんの少し成長かもよ、と大満足でございます。

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小俣駅には仙人ヶ岳入山禁止貼紙
経持坂
広々とした道を行く
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振り返れば八王子丘陵
鉄塔への階段道
山ツツジはまだ鮮やか
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巻道なんか使わないぞ
石尊山はすぐ近く
赤城山はすっかり霞んで
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仙人ヶ岳への山腹は焼け焦げている
露岩の道
新緑に映える花
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つつじの峰は名の通り
花色は続く
湯殿山の鳥居と石祠
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これから歩く尾根と遠望
こちらの祠は東を向いている
石尊山から深高山の稜線
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明るい道を下る
三角点標識
これは新しそうなRK票
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岩場を急降下
鉄塔を潜る
岐路にはすべてに表示あり
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下りも花の道
天池(猪の楽園)
道は緩やかにくねりながら続く
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彦谷集落が近づいてくる
東登山口
えへん、湯殿山

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