川内経塚山〜平井愛宕山

*この地図を作るのがとても楽しかった。そうかこの町ってこんな風に山でつながってるのねなんてしみじみ眺め入って、まあ本来は歩く前にじっくり見なきゃいけないのですが。今回記事も長いし写真も多いです。ご覚悟召されよ。

JR桐生駅前でバスを待っているとけっこう山支度のひとが多く、みなさん鳴神山なんでしょう、バスの座席が全部塞がるのを初めて見ました。あたいなんか鳴神は昨日歩いたもんね、と故なく威張って赤城神社の前「むつみ橋入口」で本日ご同行いただくあにねこさんと下車。公的交通機関が少ない桐生の山はなかなか遠来の方にはお薦めしにくいのですが、川内からならいくつかルートが考えられ、この経塚山から天神町の奥に抜けるのは桐生百山を五つ結んで町の背骨の鳴神山脈を越える面白いコースだと自讃したいところです。

●30,31,32番を結ぶ
まずは赤城神社で道中の無事を祈って手を合わせます。この神社には赤く塗られた人体型の神さま(お地蔵さま?)が木のお堂にいくつかいらして、いつもどなたなのか不思議に思います。扁額には筆者には読めない文字。赤は疫病除けと聞きますので、ひょっとしたらコロリ除けなのかしら。素焼きの味のある狐が奉納されている石祠や赤鳥居の八坂さま、古そうな石殿も並び、吾妻山山稜の西側になる川内は赤城山とむき出して対面しているので、赤城神社はここ以外にもいくつもあります。
神社の右手からよく踏まれた気持ちのいい山道を緩やかに登ります。雑木の柔らかな緑の中に山つつじの鮮やかな濃いピンクや白いふわふわのアオダモの花、道脇には菫や小さな白い花が可愛らしく開き、途中左右に和田山、園田山への下りを岐けますが歩きいい迷うことのないしっかりした道です。
山頂手前で振り返れば吾妻山からの稜線の向こうに八王子丘陵がぺとんと延びて、真下には川内の家並が光り、ねっねっねいいでしょ、とここは初めて歩くというあにねこさんに威張ります。まあ確かに山猛者の方々にはなんということはない物足りない道でしょうが、この稜線筆者は大好き。

山ツツジの元にケルンが積まれた山頂は歩く方が多いのでしょう倒木を利用したベンチがあって、樹間を吹き上がってくる微風に吹かれながら平野部の眺めを楽しんで小休止。上がってきた斜面の緑はまだ若く渡良瀬川の土手も緑が萌えて、行手も輝く若葉緑に包まれ、この季節の里山歩きは心浮き立ちます。
ちょっとだけ急降下し、今までよりいくらか細くなった道を辿ると今度は大間々との境界の尾根の眺めが開けます。歩いた山を次々名指し、今年は山藤は当たり年なのかたっぷりした花房を愛で道に散り敷く花弁を喜び、しばらく進めば荒々しい岩肌のキレット。遠い昔に大崩落したのか、あるいは人為的なものなのか見るたびに不思議です。

右手が細い檜の植林地になりひとつピークを巻けば花柄峠。再び雑木の稜線をひと登りしたところが崇禅寺からの道を合わせる小倉山頂上。もさっとした展望もないピークですが、樹木が低いからか明るく、淡い黄色の小花がたくさん咲いていてなんだか落ち着ける場所です。ここでも果物など食べて小休止。山は休むために登るんですよ。
ここから左手笹久保山への道はますます細くなります。とはいえ薮ではないししっかりした道が続き、新緑の中に山ツツジの朱がかったピンクとアオダモやオトコヨウゾメ(か?)の白に見事に咲き誇る山藤の薄紫と目が楽しい。まだか細い檜の植林を抜けて空の青と新緑の中に躍り出れば無粋な柵の中にアンテナと石祠が鎮座する笹久保山の天辺です。
ハイトスさんの頂上標識がいい具合に古びてきましたが長居はせず、ここからすぐ下の霊符尊神の石塔まで、山頂からは再びよく踏まれたしっかりした道を楓の多い柔らかい新樹光に包まれてるるるんと下ります。

北斗七星の刻まれた穴から見えるのも晩春の明るい緑。筆者がここからななつ星を見ることはきっとないでしょうが、この石塔はここで願をかけたいにしえの人々の切ない物語をあれこれ想像させます。
この穴に肩まで手をさし入れて、あ、普段行いの悪い方はご用心、抜けなくなるかもしれません。筆者危ないところでした。

名久木坂を経て自然観察の森の最高点へと進みます。この辺りは檜の濃い緑に新緑が混じる落ち着いた雰囲気で、さて最高点の標識前でお昼の大休止。ここまでどなたとも会わず、ここにも誰も上がって来ず、昨日の鳴神の賑わいが嘘のような静かな時間が流れ、勿論どちらも甲乙つけ難い。ビールを忘れたのは痛恨ですがその分食料を詰め込んで、四方山話。悪天候の中外秩父を42kmも歩いたあにねこさんを改めて尊敬してしまいました。


軽くなったザックと重くなった身体で、ここから吾妻ー鳴神の主稜線へは関東ふれあいの道を歩くことになります。となると急場には例の階段が続出し、いえ、文句は言いません、言いませんがこの歩幅と合わない階段は厄介で、みなさんそうなのでしょうか、脇にしっかりした踏み跡ができているのでそちらを辿ります。この道は小さな花が多く、ヒトリシズカが群れをなし、イカリソウが俯いて微笑み、微妙に違うスミレたちが小首を傾げ、見上げれば重なる緑が濃淡の影を作り、ときどき樹間に覗く吾妻山はいつも見る形よりお兄さんじみて飽きることがありません。

●79,80番へ繋ぐ

緩やかに続く尾根がぽんと主稜線へぶつかって、ここでまた小休止。眩しい若葉の中壊れていた看板が新しくなって黒々と目立っています。本日初めて登山者の方と行き会い、その方が主稜線ではなく自然観察の森への道を下っていくのがなんだか嬉しい。静かないいルートですものもっと歩かれていいはずです。
今回は萱野山には寄らず踏み固められた稜線を鳳仙寺の頭へ下ります。標識を過ぎて暫く進むと左手の樹木に赤と黄色のテープと、彫りつけられた「キノコ研究所」への矢印。これは失われることはないでしょうが、文字の傷跡が膨らんで木が痛ましく可哀想です。

ここからは余りひとの歩かない薮じみた道になります。お嫌いな方はこのまま吾妻山を経由して駅へ戻る周回コースを。筆者はこういう道を歩くと嬉しくてアドレナリンが噴出する仕様なので勇んで下り始めます。
まだ檜が大きくならない植林地は明るく、落葉は深いですが鳥が囀る樹間にはテープや壊れかけた標識が散見され、きのこホテルがあった頃と比べればずいぶん荒れましたが、迷うことない小径が続きます。
物見山ときのこホテル跡地への尾根の分岐には小さな石祠。荒神山・愛宕山へは左手の尾根、雑木の中の笹薮の踏み跡を辿ります。標高はすっかり低くなりましたが緑はまだ若く、ふかふかの落葉の道は足に優しく、なんと筆者は今日は一度も山猛者連とご一緒するとき恒例の悲鳴を上げてはおりません。なんていい道たちなんでしょう。

行手に鋪装された駐車場が見えてきたら正面がきのこホテル跡地。舗装道の両側に植えられた樹木の向こうにぽかんと空が開けて、この景色の一種独特な寂しさ、明るさが大好き。強者どもだったかどうかは知りませんが昭和の夢の跡という気がします。
右手の秘密基地めいたきのこ研究所の関係者以外の車両は立入禁止になっていて、けれども山歩きで入るのを咎められたことはありません、平坦に均されたホテル跡地からしばし前仙人や菱の山の眺めを楽しみながらまた小休止。

愛宕山へは基本的に忠実に尾根を辿りますが、研究所の舗装道や山道や作業道、いろんな道が交錯して少し迷うかもしれません。迷ったら薄い薮に突入して高みを目指し、登り着くピークが荒神山。小さな祠が出迎えてくれます。
ここには三宝大荒神社からの道が葛籠折れに付けられていて、下から見るとたくさんの山藤が斜面を紫に染めて、楚巒の会是としての”ひと山ひと山丁寧に登る”を守りたい日には歩いてみたい道です。石祠前には梵天が高く奉納され、地元の方にいまも崇敬されているのが判ります。櫟の緑の重なる樹間には萱野山が遠く高くにくっきりとした山容を見せ、ふうむよく歩いたものだわ。

とまだ感慨に耽るのは早い。もう少し薮っぽい尾根を下って愛宕山へ進みましょう。一度下りきり、岩混じりの痩せ尾根をひと登りで山頂到着。166mの可愛い高まりですが三角点もあり、祠部分はずいぶん前に潰れた(11年の大地震以前から潰れていました)のですが立派な屋根をもつ愛宕さまの石祠が鎮座しています。桐生川の向こうのグランドから野球少年の声が響き、すぐ下の車道を走る車がよく見えるのですが、ちょっと山深い風情のある岩山です。
ここから稜線を戻って鞍部から下る道があるのですが、今回はえいやあと急峻な岩場を下ってみます。筆者の買物はこの下の商業施設が主、ご近所の方に見られるのが嫌で(なんでだろ?)今まで一度も辿ったことのない道でした。どなたも見てませんよーにと祈りながら急斜面を急いでひと下り。降り着く鳥居のお堂の後に出羽三山の石祠が枯葉に埋まっているのを発見し、いや、ほんとに道は歩いてみるものです。この下りの岩場で本日最初で最後の悲鳴は発しましたが、この下りはなかなか面白かった。

愛宕さまに手を合わせて山行の無事を感謝し、商業施設の自動販売機前で冷たいもので喉を潤します。なかなか楽しかったです、いやあよく歩きました、緑が綺麗でしたねえ、花たちも可愛かった、けっこういいルートでした、またどこか面白いコースを歩きましょう、とあにねこさんとエールを交しあって現地解散。両者とも徒歩で帰れる距離ですが、周回で駅へ行くのなら愛宕神社の下がバス停です。
ただし田舎のバス、おんぼろではありませんがなんといっても本数が少ない。バス利用で周回する場合には必ず時刻表の確認をしておくことをお薦めします。

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むつみ橋入口のバス停
よく踏まれた広い道
八王子丘陵が見える
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経塚山頂上
新緑が明るい稜線
アオダモがふわふわと白い
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キレット
吾妻山の稜線も新緑
可愛い白花も満開
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花柄峠
小倉山山頂
道はやや細くなる
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この植林地の上が笹久保山
霊符尊神が見えてくる
名久木坂の標識
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自然観察の森最高点
ふれあいの道の階段
吾妻山がこんな形に
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主稜線へ出る
愛宕山への道の分岐
尾根の分岐の石祠
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道はいくらか薮じみてくる
落葉の向こうに駐車場
ホテル跡地から前仙人岳
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荒神山の石祠
樹間に萱野山
愛宕山の石祠
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急な岩場を下る
落葉に埋もれた出羽三山の祠
愛宕山全景(可愛いでしょ)

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