織姫神社〜両崖山〜天狗山

*あなたの地図はよく判らないと色んな方から言われて、本人が全く地図が読めないのに描いてるのだからしかたないと言訳しつつ、足利は古くて戦災を受けなかった町、碁盤の目の道を書き入れているうちにとめどなくなってしまいますます判りにくい地図になってしまいました。この細い裏道には昔の色町の名残の建物が残っていたり、昭和の香る煙草屋さんや質屋さんのショーウインドウ、古い木造住宅に挟まる小さな神社、隣町とはいえ旅情をかき立てるものがたくさんあり、鑁阿寺と足利学校の周辺は類型的な観光地になってしまいましたが、この街の小道はいつも丁寧に歩いてみたくなります。
今回はほんとうに久々の楚巒山楽会定例登山、会長と東武足利市駅からの出発で、まず市街地へと中橋を渡ります。ひとつ上流が森高千里が歌った渡良瀬橋、「広い空と遠くの山々ふたりで歩いた街♪」なんて口遊みながら川沿いを歩いてこちらを渡るのもいいでしょう。通五丁目の交番から山へ向かうと赤い歩道橋と石の鳥居が見えます。すぐ前が歌の中の八雲神社でしょうか、本殿の彫刻が立派です。

長い石段を登り切ると社殿の赤が青空と緑に映えてこの季節にしては風が涼しい日、本日の山行の無事をお願いし、本殿裏から阿夫利神社への古い石段が遊歩道のスタートです。すぐに機神山古墳とレストランのあるピーク。三角点もあります。昨年の地震で古墳が崩れていくらか埋め戻したらしく唯一の登っていい鉄製の階段は立入禁止になっていました。
すぐ上の行基平山はやはり古墳なので今回は巻いてしまいますがどちらも織姫公園の一角、よく手入れされた道で代表幹事を継いで本日は登山サンダルの会長はしごく快調です。

緑の濃い広い山道を緩やかに登れば足利の山おなじみの茶色の大きな標識が両崖山まで要所に立ち、ざらつく砂まじりの白っぽい道に露岩が覗く歩きやすい登り。まだ本調子ではない右膝にも快適で、小さなピークに着く度に湿った空気に霞む関東平野の眺めを楽しみ、左手にまず可愛らしい助戸山脈、その後に重なる山の墨色を愛で、大坊山から大小山へ続く奥の稜線を(自信なく)名指し、塩坂から鳩の峯を懐かしみ、梅雨の晴間の高い空を仰いで全身で風を感じます。行き交うハイカーがたくさんいらっしゃって、足利市民の山として一番親しまれている道なのでしょう。
両崖山の手前にはやや大きな岩場があり、先行する方々とは違った自分のルートを探るのも楽しい。

大きな霊神碑、顕彰碑や赤い鳥居を過ぎて階段で登る両崖山山頂は高い落葉樹に囲まれて御岳神社や月読の三日月神社、天満宮のある神賑わう場所。木陰にはたくさんの方が寛いで足利城本丸跡と聞きますがいくらか狭い。筆者は幾度もここを訪れていますが、初めて意識して見る御岳神社両脇の、狛犬ならぬ狛行者の壊れた石像を写真に収めて天狗山との分岐の階段下まで戻ります。このあたりに残る石垣は平安時代のものとの案内板を読み、この頃石仏に目覚めたので三百年、四百年くらいの時間には驚かなくなりましたが、さすがに千年という時間の単位にはくらくらと目眩が。こうやって地方では城を築き、各勢力が伸長していた頃、王朝では政争と恋に明け暮れていたのですから、貴族政治が終わるのも宜なるかな。
東屋前のベンチで木陰の風に吹かれながら、時間は早いけれど約一月ぶりの山に勇んで早起きしすっかり空腹になった身体に食糧を詰め込み至福の時間を過ごします。天狗山方向から来た男性が途中の下山道で子連れの猪一家に遭遇し、その鼻息にそれ以上進めずに戻ったのだとのお話にふたりで顔を見合わせ、「足利百名山」の地図のいのくんのイラストを思い出し、けれども同じ場所にいつまでもいるわけではありますまい、思い切って天狗山へのコースを歩き始めます。

両崖山を巻く山道は緩やかにカーブを描き、今日はリョウブの花が盛りです。当会好みの顕著な傾斜のないだらだらした登りで、大岩への分岐を過ぎてすぐに紫山山頂。それにしても紫山、雅なような無個性なような微妙な名で、躑躅の季節こそ確かに赤紫に稜線が染まりますが、この季節には特筆するものがありません。ただ両崖山までとは違ってほとんど歩く方に行き会わない静かな山です。
稜線には珍しく松食い虫の被害を受けていないいい枝ぶりの松が混じりはじめ、大岩町への下り道を岐け、天狗山西々コースという饒舌な看板を過ぎれば天狗岩へのトラロープが張られた巻き道との分岐。ここはぜひロープを伝って天狗岩へがお薦めです。当会はなだらかな登りも愛好しますが危険の少なそうな里山の岩場も大好き。会長のサンダルでも特に問題はありませんが、帰ってからソックスを洗ってくれるひとがいない筆者のような立場の方は登山靴とはいいません、せめてスニーカーで。

岩場の先が天狗山山頂。大きな看板と三角点、山神さまの石祠。南側の樹間からは滲む関東平野と歩いてきた織姫山からの稜線が一望、西側には石尊山から深高山への稜線が望めます。冬晴れの日ならスカイツリーも見えることでしょうし、運のいい方は天狗さんのお札をいただけるかも。
小休憩の後かわら山・鶴山へ続く稜線を下ります。しっかりした道は木立を縫いいくらかアップダウンを繰り返し、緑の呼気を胸一杯に吸い込んで歩けば心弾んで膝の痛みも忘れる。このコース、道がいいので真夏でも歩けるような気がします。
どう下るか少し悩みましたが、会長が代表幹事と歩いた本経寺への九十九折の道へ。うん、確かに稜線とは違い草が茂って篠竹の群生もあり、いかにも猪がいそうな道。けれども代表幹事がいたくお気に入りだった招き猫も気になり、えいえいやーと進みます。短い山道を経て着く作業道の痕跡は緑に覆われ、茨の花が思いがけず丈高く、猪の掘り返した土の新たな色も見え、そうなんだよなあ、よほど整備されていないと稜線までの道がいつもネックで、筆者は猪より蛇に遭いたくありません。どこかに蛇除けのおまじないが落ちてないかしら。

なんて言ってるうちに作業道も終わりに近づき、くだんの招き猫は相変わらずチェシャ笑いを浮かべて健在でしたが、あの地震のせいか、それとも過日の台風のせいか猫の周囲の石塔は全て倒壊して、麗韻房茶屋さん、滅びてしまったのでしょうか。
左手すぐの舗装道を下れば本経寺。ここの副住職さんも手づくりの天狗山案内図をものしてらして、足利、手づくり好きの風雅な古い街。森高千里の歌の文句ではありませんが筆者もとても好きな街、できれば住んでみたい街です。

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織姫神社に手を合わせて出発
見下ろす関東平野は暑そう
当会伝統のサンダル
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整備された広い道
小さな岩場の上空は夏色
おなじみの道標
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楽しい岩場
鳥居の向こうが両崖山山頂
階段下から天狗山コース
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紫山山頂
天狗岩を登る
天狗山山頂
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歩いてきた稜線が見える
緑の中を
作業道は草茫々

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