村松峠〜吾妻山

*朝夕がすっかり涼しくなって、そりゃそうですうかうかと過ごしていればもう9月半ば、日中に残る暑さが今年はいささか長過ぎるのかもしれません。
わが会長の新登山靴のお披露目はやはり桐生の山じゃなくちゃと、代表幹事は渋い顔をするかもしれませんが”市民の山”吾妻山を目指す遅い出発の日曜日。すっかり不定期になってしまった楚巒山楽会の定例登山です。

宮本町の光明寺上の吾妻公園駐車場から、村松沢からの川に沿っての長い車道歩きですぐに吹き出す汗を拭いながら、桐生の古寺の多さやかつての繁栄について会長にレクチャー(!)しつつ八坂神社を過ぎます。舗装道の分岐を左に歩けば道は林道になり、暫く進めばやはり左に村松峠への可愛い看板。ここからが村松沢に沿う山道の始まりです。
陽当たりのいい場所は夏草に覆われ、蜘蛛の巣を払いながら歩けばすぐ右岸に苔むした山神さまの祠。道は細い檜の植林地の中を沢に絡んで踏まれていて判り易いのですが、一箇所黒い岩肌を沢中に辿る場所があり、筆者たちは右岸を巻きましたが少し滑るかもしれません。この道、代表幹事と歩いたときに得意そうに枕状溶岩を教えてくれたのですが、はて、どれがそれだったのか。ひとの話を上の空で聞いていると少しも賢くなれません。

薄い木漏れ日がだんだらの縞をつくる斜面はまだ茶色に緑の夏色ですが、立ち止まると微かに風が吹いてきて、なんといってっも楚巒の山歩きは座り込んでのお喋りがメイン、短いコースにもたっぷり時間をかけます。
沢が尽きると道は一挙に傾斜を増し、羊歯が柔らかな緑をあちこちに広げる傾斜を息を切らせながらどんよりした空へ向かって詰めてゆきます。植林地が雑木に変わればすぐに村松峠。しっかりした吾妻山〜鳴神山への縦走路の、朽ち始めたベンチ替りの木に腰かけて西側の川内の眺めを暫く楽しみましょう。生憎今日は薄曇りですが晴れた日なら赤城山が見えるはず。頭上の木の葉には気の早い黄葉がほんの一、二枚季節の変化を告げています。

右手には岩木戸山が可愛い三角錐。でもこの山、最近は”さいとうさん”と呼ぶ方が増え、どんな謂れがあるのか色んな方に聞いているのですが、いまひとつはっきりしません。今日は左手吾妻山方向へ。この道は自然観察の森と結んで関東ふれあいの道になっていて、お約束の木の階段がときどき現われ、もう木枠がすっかり露出してとても筆者の歩幅では登れない。横にしっかり踏まれた道を使って登ったり下ったり。
二つ目の小さなピークに桐生市基準点No.62が基部も露わにひょっこり立っていて、代表幹事はここを象頭山と呼んでいましたが、これも実ははっきりした謂れは判りません。だいたい象頭山と呼んでいたのは代表幹事ただひとりで、その点でもう”さいとうさん”の方が勝ってるわけで、いや、山名は勝ち負けではありませんが、ちょっと可哀想な、天辺と呼ぶには余りに地味で小さくてすっと通過してしまうピークです。
笹とか細い雑木の尾根道は少し風が渡り、下からお昼のサイレンが鳴って、幾人か縦走の方とすれ違いましたが、みなさんお年のわりに歩き慣れていて、背筋を伸ばして確かな足取りで、わが山楽会の方がいくらか若いのに少し恥ずかしい。

もう一度急な階段を登ればオレンジ色の電波反射板のある堂所山 483.7m(桐生市ことがら事典にもそうあります)。
代表幹事とかけに来た標識は跡形もなく、たぶん市の設置した案内標識なんでしょうが、「女山480m」とあって、これはおんなやまと読むのかしら、めやまなのかしら。吾妻山が市民の山、桐生市の象徴の山であることに異論はありませんが、そしてこちらは展望もなく確かに地味な山頂ではありますが、だから女とは失礼な。しかも吾妻山より高いはずなのに、と代表幹事に成り代わりちょっとぐちぐちと。
少し大きめのケルンができていて、きっとこちらへ足を伸ばす方達がこの山頂を憐れんで隣の山から石を持ち運んでくれているんじゃないかしら。
空模様が怪しくなり始めて赤城山は雲の中に隠れていますが、樹間には川内から大間々、黒保根方面の山並みが墨絵のように重なって、こんな日のこんな景色もなかなかいいものです。

一度下って、ひと登りの吾妻山山頂で細かな雨が落ちてきて、見下ろす市街はしっとりと霧を纏い、先行者は川内から登ったという女性おひとりだけの静けさ。この方、経塚山からの周回がお好きだそうで、いつもひとり歩きとか。もう筆者はひたすら尊敬してしまいます。
木の下でお昼を広げ、ここから見える東南の山は会長も筆者も全て代表幹事と歩いていて、あれこれと話は尽きない。長い時間を過ごして、名残を惜しみながら、吾妻公園へ下る道へ。

こちらを登りに使えば良かったと少し反省しながら、石だらけの急坂をよろよろと下り、筆者は一応ladyですので道が岐れるところは女坂を選んで、小さな山のお稲荷さまにも手を合わせます。
とんび岩の手前から、それまでの静寂を破って蝉が鳴き出し、空はいつの間にか高く晴れ渡り、再び市街を見下ろしながら風に吹かれ、早朝から鳴神往復だったという登山家の軽い足取りに見蕩れ、哲学の小道を哲学ならぬ雑学に耽りながら出発地へ戻りました。
吾妻公園の蓮池はまだ蕾がいくつもあって、会長は桐生に住んでいたらきっと毎朝この山へ登るのだと、すっかり気に入った模様。まあ今日は静かないい山でしたが。(代表幹事がきっと鼻で嗤ってることでしょう)

* * *
舗装道が終わる
標識は夏草の中
苔むした山神さま
* * *
名があってもいいような
沢が終われば急登
村松峠
* * *
桐生市基準点No.62
急階段や
尾根の道
* * *
堂所山山頂
吾妻山山頂が見えてくる
吾妻山三角点
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小雨の山頂から市街
トンビ岩ではもう快晴
女坂の小さな稲荷神

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