鳴神山〜金沢峠

*今週はなぜかやる気です。コーヒーをたっぷり淹れてテルモスに詰め降り立つのは吹上バス停。ここから歩くのは筆者の他もうおひと方ですが、駒形登山口の駐車場は既に一杯で、今年はどこもアカヤシオがいいらしく鳴神山はなんといっても人気の山、ほとんどが県外ナンバーです。

前回の八王子丘陵歩きで計画はみだりに変更しない、という教訓を得た筆者は本日は金沢峠を下りに予定しているので赤柴の登山口目指して林道を歩きます。椚田から仁田山岳への斜面のアカヤシオを見なければここへ来る甲斐はありません。
元気よくストックを振り回し沢の水音や若い緑に目をやって歩いていたのですが、この林道は長い。振り返れば駒形山がぽこんと見えるあたりからもう既に汗みずく、朝食を抜いてしまったので飴玉で誤摩化しながらふうふうはあはあ息が上がります。バスが一緒だった方は駒形口から登ったらしく筆者ひとりで、緩やかな登りなのにザックの鈴がやたら五月蝿い。どうも真直ぐ歩いていないようです。

登山口が見える手前で既に下って来る方とすれ違い、”今日はいいですよー”の声に期待は膨らみます。山道に入ってからも何組か降りてらして、どなたもにこにこと花の良さを仰って、のんびり歩くつもりでも気が逸りますが、道脇に残るカタクリや、太陽に目を瞠っているような猫目草や、生まれたてのトラノオのような小花も見逃せません。
林道歩きが長かったからか、煙るような緑の芽吹の中をほんの少しで椚田到着。もうすっかりお馴染みになった石祠に手を合わせます。赤城山はすっかり霞んで空の色は柔らかく無風。いい日です。

椚田からの登りは最初は枯木の多い斜面ですが、ぽつぽつと淡いピンクの花が浮かび出し、登るにつれて花は増えて、半ばあたりからはもうもう一歩ごとにカメラを構え、歓声を上げ、見上げ見下ろし、ちっとも先へ進めません。
と、上から鈴の音がして黒犬を連れた方が下りてきて、あ、この犬さんは知ってます、カッコ草見回り隊の隊長さんだ!飼主はこの季節、アカヤシオを見に訪れるひとにカッコ草保護のチラシを渡すため毎日登ってらっしゃる梅田のH氏で、昨日は50人、一昨日は70人ほどの団体さんが頂上にいたそうです。今日は10人弱、静かだということですが、明日からはまたどっとひとが出るのではないかしら。有志の方はカッコ草だけではなくこの斜面の階段の補強などもしているそうで、ほんとうに地元の方の尽力には頭が下がります。
犬さんの写真を撮ってお別れしてからもまた一歩ずつ感嘆しながらたっぷりと時間をかけて第二展望台、石祠を経て仁田山岳へ。

上下左右を埋める花は、開いてまだ時間が経っていないのか全く傷みはなくて初々しく、しばらく放心。筆者はこの季節に何度かここへ登っていますが今日が一番です。
後続の方に場所を譲ってロープと鎖が新しくなった桐生岳。北には白い嶺と黒い山影が幻のように仄かに浮かび、南の稜線は吾妻山さえすっかり霞んで、この季節には展望がない分仁田山岳がピンクに覆われて豪華な眺めです。まだ少し早いですが次々に到着する方の片隅で軽い食事とコーヒーを楽しんだ後は、花に別れを告げて岳神社へ。ここでも両方向から続々とひとが登ってきます。

主稜線のよく踏まれた道は杉の林を抜け、右手が雑木になれば明るく緩やかにアップダウンを繰り返し、左手の杉林が切れて雑木林の中を縫うようになります。芽吹いたばかりの新緑が目に嬉しい。すぐ石と灌木の登りになり、登り切ったところが湯山沢の頭でしょうか。「高畑・聖観」とのみ読める朽ちた標識が大きな樹にくくり付けてあります。
稜線に入ってからは鳴神山頂や神社のあたりの賑やかさは全くなく、聞こえるのは下の方で囀る鳥の声と、遠くを飛ぶヘリの音、それに筆者の枯葉を踏む音だけ。道に迷うような所はありませんが、あんまり静かなのでちょっとだけ心細い、かな。
こんないい日、どなたか歩いてないのかしら、と思ってしばらく歩いていると前から少年が。

おばさんの図々しさで、これから鳴神?と聞けば、少年、困ったような笑顔で自分がどこを歩いているか判らないと言います。えっ!ええ〜!吾妻山から歩いて来たそうで、下る場所が判らないまま真直ぐに進んで来たとのこと。
ー鳴神まで歩いても下れるけど大丈夫?
ーどこでもいいです、下れるならば。
ーお地蔵さまみたいな像のある山があったでしょ、あの先で梅田に下るんだけど。
ーあ、それでお願いします。
ということで急遽できる旅の道連れです。すぐに急登になって三角点のある花台沢の頭。
さっきから筆者はすっかり説教婆になっていて、道が判らなくなったら元へ戻りなさいだの、地図は持って歩きなさいだの、いつか誰かに言われたことの受け売りを並べ、少年は今年高校生だそうで、ということは先月まで中学生。冒険したいお年頃かもしれません。でも桐生の山で名を知ってるのは城山と吾妻山、茶臼山くらいじゃあいかにも危なっかしい。

微妙に小ピークを巻く山道はなだらかに続き、ちょっと林の中を散歩している感じで、若葉を透ける陽は美しく、筆者は保護すべき存在をみつけたのでなんだか一気に元気です。元気じゃなくて現金というのかな。
三峰山でひと休みして、ここからは何度も歩いた道、自信を持って歩きますが下りで蹌踉けたりして、気だての良い少年に大丈夫ですかと心配もされます。標高が低くなれば新緑は輝きを増し、山ツツジの蕾の濃い紅が映えて見飽きません。これはフデリンドウ、さっきの祠が三峰さま、って代表幹事が山でやたらあれこれ教えたがった気分がちょっと判りました。聞いてる方はちっとも覚えなかったけど。
左に杉の暗い林が見えて急降下で金沢峠。ここでやっと大形山から下って来る山菜採りの方とすれ違いました。

これは鏡石と言ってね、と相変わらず受け売りの文句を並べながら林道へと下っていると後から「乗ってくか?」と神の声。今すれ違ったばかりの方で、山菜採りにすぐ下まで車で入った、バス通りまでなら乗せてくよと。少年と筆者、即座にお願いしますと声を揃えました。いや、筆者ひとりなら歩いてもよかったのですが少年が(見栄)。
ほんとうに車は山道ぎりぎりに停めてあって、乗り込むと車内には山椒のいい香り。毎年同じ頃に同じ場所で収穫するそうで、しかもそういう場所があちこちにあるのだとか。お喋りをしているうちになぜかふたりとも自宅そばまで送っていただくことになって、すみれ会のおとうさん、ほんとうにありがとうございました。

という訳で、当初の計画よりうんと楽をしましたが今回の山行無事完遂いたしました。
アカヤシオも新緑も、山道も、山で出会う方々も、なにもかも良い一日でした。

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吹上バス停から歩き始める
駒形口
赤柴林道も新緑
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振り返って駒形山 まだ杉の倒木あり 山道へ
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明るい沢沿いを行く 椚田はすぐ ちらほらとアカヤシオ
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遠景はみな春霞の中
カッコ草見回り隊
登るほど花は増す
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もうもう…
仁田山岳手前の祠 吾妻山は霞んでいる
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花、花、花
桐生岳石祠 爛漫!
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主稜線へ
ゆるやかに登る
登り切れば湯山沢の頭
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花台沢の頭三角点
山名票(沢が抜けてますぞ)
新緑の中をずんずん歩く
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三峰山山頂
新緑に山ツツジの蕾が映える
下りきれば金沢峠

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