山の紀行

花(直前)の鳴神山

*下界は桜が満開で春は爛漫、さて桐生の山はどんなものか。前回雪の鳴神の逆コースを、なかなか独り立ちできない上に花を知らないものですから、またもやこつなぎさんご夫婦におつきあいいただきました。
代表幹事は鳴神なんてメジャーなところは書かないのさっ、と申しておりましたが鳴神山だって桐生の山、歩いたところは全部書くのが代行のスタイルでございます。

こつなぎ橋の手前の大岩はまだ工事中、たぶんこれからの花の盛りも通行止めではないかと思われます。樹徳の山荘から歩きはじめ、大岩下の二体の聖観音像(一方は天保と読めます)、その上の如意輪観音と土に埋もれたどうも二面に見える石仏にそそくさとご挨拶。沢沿いの林道に入ります。最初は林道特有のまっすぐな急登が続きます。
水量の豊富な沢のそばにはあじさいが新芽を出し、白い小さな花が幾種類も可愛く開いています。3月の末に来た時より木には柔らかな芽吹きの緑、道の両側にもスミレやアザミや野草の新芽がそれぞれの緑を伸ばし目に嬉しい。
一度沢を渡ると正面に滝が。周りの岩や杉の根元が苔むして鮮やかな中、勢いよく流れ落ちる水が真っ白に、長く二段になりなかなかの眺めです。この上にも大岩を伝う飛沫が美しい小滝があり、山道は勾配もそんなに急ではなく、るんるんるんと気持ち良く歩けます。

二度ほど沢を渡ってしばらく歩けば、前方に明るく開けた山葵田の跡が。ヒイラギ草の若い葉は柔らかな緑で裏が紫色、ほんとうに柊の葉のような形です。
沢音が消え、正面に座間峠方面の大きな斜面が見えて来たら赤い紐を巻いてある杉のところで左へ進みます。しっとりした杉林の中を道は徐々に急になりカッコ草の植生地に入ります。こちら側の方が日当りがいいので毎年花は早いとか。枯れ葉の中から目が慣れると、かなりの数の浅緑の葉が出ているのが見え、これが全て花をつければなかなか豪奢ではないかとちょっとわくわくします。今月末あるいは来月始めにはもう一度来なければ。こつなぎさんご夫婦からナルカミスミレやイカリ草、フデリンドウなどの話を聞くと、今まで1mほど先ばかりしか見てこなかった山歩きをつらつら反省せねばなりません。

鳴神主脈に到着。苔むした屋根の石祠と道標がひっそりとある静かないいです。どの方向の道もよく踏まれた明るい道でここはそのうちぜひ右手の方へ歩いてみたい。
今日は左手仁田山岳への道を。雑木の緩やかな斜面を柔らかなカーブの道、こんな道ならずっと歩いていたいと喜ぶのも束の間、あっという間に木の根の張る急登に。登り着いた稜線から眺めれば右手には春霞の中に川内・大間々の山並みが煙り、その向こうの雲の上から、意外な高さにまだ雪筋が残る黒檜山がうっすら頭を出し、空気のきんとした日のくっきりした景色も嬉しいですが、こんな水墨画のような景色も趣があります。新しい展望案内看板のある場所からも吾妻山へ続く稜線が濃淡を描き、ほんとうに桐生は山だらけの町だと実感します。

仁田山岳のふたつの祠に手を合わせ、桐生岳へ向かう道には、イワカガミがびっしりと濃茶色に緑を交えてきらきら太陽を反射して、桐生岳頂上のツツジの蕾は先から柔らかそうなピンク色をのぞかせていました。
この頂上はいつ来ても風がなく暖かで、ぐるりの遠い山を撮ったり眺めたり、歩き回っていろんなアングルからここの姿を見上げてみたり、いつも長居して飽きることがありません。休日には凄い人だそうで、これからの花期、できることなら平日に来ようとこつなぎさんと約束します。

前回電池切れで撮り損なった山頂斜面の紀元二千六百年記念碑(1940)をカメラに収め、今回の第一目標だったカタクリをじっくり眺めます。斜面いっぱいに広がるカタクリは、まだ開ききっていない若い花達で莟も花も儚げです。作られたばかりの柔らかな急降下で大滝口へ下山。途中のこちらのカッコ草植生地は確かにまだ芽の育ちは遅いようでした。
ゆったりと山に遊んでもらった一日が暮れ、鳴神山の春爛漫、花爛漫はほんとうにもうすぐです。

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