野峰行(山の神様から)

*昨年皆沢の奥から野峰を歩いてちゃんと天辺には立てたのですが、その前年、野峰のスタンダードコースを歩き損ねているのが心残りで、山猫さんとそのお友だちの赤猫さんにお付き合いいただいてリベンジして参りました。
普段は高い山ばかりで余り桐生の山は歩かないという赤猫さん、赤ちゃんと呼んでくれ、なんて仰るのですがどうもbabyっぽくて、ここは猫仲間として赤猫さんとお呼びします(謝)

野外活動センターが休館日だったので閉篭里の廃屋の先、大樹が並ぶご神域に車を停めさせていただきます。お正月のためだったのでしょう、幣束が新しく真っ白で、青面金剛も洗ってもらったのかきりりとした表情で、筆者はここの地名が好き。とづろうり、口に出してみるとなんだか雅な響きだし、いかにも山の最奥のひっそりとした、落ちのびて匿われているような文字の並び。もっとも明治9年までは閉入/へごうりで、それに今の漢字を当て、いつのまにか「とづろうり」になったと桐生地名考にあります。

野峰へのしっかりした標識に従っていくらか補強が施してある木橋を渡り、下草のないこの季節、風の強い日が続いたからか枯葉も少なく道は歩きやすい。雲が厚くて寒いのではないかと案じていましたが、曇り日に強風なしと言うらしく静かな日で、まずは御所平の山の神様までゆるゆるとお喋りしながら歩きます。直下だけロープが張られていくらか急ですが、よく踏まれた山道は足に嬉しい。
道が十文字にクロスする御所平、木の大きな祠には注連縄と御幣が上がっていて、周りにそれぞれを向いている石祠も枯れ色の中すっきりと目立ち、神寂びたというより明るい伸び伸びとしたご神域です。

一番大きな木のお社の後から野峰への道が始まります。細い杉の間を縫って最初だけが痩せ尾根、後は細かな杉の落葉でふかふかした道がだらだらと上へ、上へ。一昨年歩いたときはずいぶん急だと感じましたが、筆者もいくらか経験を積んで、おととい歩いた佐野の山に比べれば緩やかで明るい道、杉と檜とあすなろとさわら、それぞれの違いについて植物に詳しいおふたりからお聞きする余裕がある。といってもちっとも覚えてはいないのですが。
戦後すぐの町村合併で払い下げられたというこの植林地、材木として活用されているようには思えませんが、倒木は全くなくて荒れてもいず、伐採された個所もあり、下枝も手入れされていて、また林業が盛んになるときが来ればいいのになんて思いながら淡々と登ります。

周囲に雑木が目立ち出せば樹間に三境山や残馬山がくっきりと見えて、その後にいくらか白い皇海山や庚申山、袈裟丸山などが姿を浮かべ出せば植林帯はいよいよおしまい、道は一気になだらかになります。
すっかり葉を落とした雑木の間をしっかりした道が縫い、ここは迷う所はなさそうで、(蛇のいない)早春なら筆者ひとりでも歩けるかもしれません。冬枯れで茶とグレーの地味な景色の中、鹿が剥いだ木の内側の朱色と登山者のための桃色テープが鮮やかです。進行方向にいくつかピークが出て来て、その度にあれが野峰?と聞いてはまだまだ先と笑われ、どうも筆者の脳内地図の距離感は狂っているようで、へっへっへ、赤猫さんにそのうち地図読みの練習をしましょうなんて言われてしまいました。

斜面はだだ広く、歴然とした尾根歩きとはいえませんがふたつほど小高い高まりを巻いて、昨年下った尾根を分けてしばらく行けばこれがかつて池だったのではないかと山猫さんが推測する凹みが右側に見えて来ます。確かに水が溜まりそうな地形。今は全く水の気配はありませんがちょうど中央部だけが泥の色を見せてどうやらヌタ場になっているようです。野外活動センターのひとが掛けたという標識は見当たりませんが、もしここになみなみと水の色があったらほんとうに素敵なのに。筆者の友人の、生きていれば百歳をいくつも超えるお父上が若い頃には、綺麗な大きな池があったというのですから、なにかで底が抜けてしまったのでしょうか。幻になってしまってちょっと残念。

このあたりから道は笹床になり非常にいい感じ。山道すべてかくあるべし、と浮かれていたら東からの尾根に突き当たり、ここから頂上までは杉の間を縫っての短いけれど急登です。息を切らし、登り着けば正面に男体山。そこから山並みを目で辿れば日光白根も遠くに真っ白に見えて、葉が全て落ちた冬場のこの頂上はそれなりに展望がいい。そのうちあのどれかに登ることができればいいのだけれど。
ここで大休止の昼食タイムですが、風は全くないのにしんしんと冷え込む。100mで0.6℃温度が下がるのですから、1000mを少し超える頂上は登り出しより三、四度は低いわけで、こんなに寒いのはまあしかたありません。珍しく筆者が持って来たコンロでお湯を沸かし、三人で小さな火に手をかざして暖をとります。インスタントとはいえ熱いスープの美味なこと!お腹は一杯になり眺めも楽しみ、すっかり満足して、それでもやはり長居は無理。名残りを惜しみながら来た道を戻りました。

このコースで野峰というと詰まらないなんて言われますが、植林帯を我慢すればそれからの広々とした景色はなかなかのもの。山桜の大木がたくさんあったのでその頃が楽しみです。
山猫さんは次はここから熊鷹山への縦走を考えているそうで、多分野峰から丸岩岳まで一時間強、筆者がいたとしても三時間はかからないと思う。赤猫さんこと赤ちゃんに地元の山に開眼していただいて、花の季節にまたぜひご一緒できればいいな(願

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山道への看板
御所平 熊野神社か?
最初だけ痩せ尾根
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杉林の中を行く
道はよく整備されている
植林帯が終わる
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三境山や残馬山の稜線
ここがかつての池?
緩やかなアップダウン
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笹床の道
今回可愛いこのマークが目立った
東の尾根との合流点
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最後は急登
正面に男体山が
三角点と頂上看板

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