小平〜十二山〜高鳥屋山

*「桐生の山紹介」のページにずっとリンクが張れずに気にかかっていた十二山と高鳥屋山、近頃大間々の山を丁寧に歩いてらっしゃるあにねこさんと、山ならどこでもの桐生みどりさんにくっついて歩いて来てきました。新緑を、今年はどこも鮮やかに彩るつつじの花と共にたっぷり一日楽しんでまいりました。山、美しいっす。

出発は小平の里の少し上、川内へ抜ける林道駒形大間々戦への分岐の赤い鳥居の前から。大杉への道を進むと右手の木立の中、急斜面に真直ぐな長い階段が見えます。昔のひとって足が小さかったのかしら、狭い段が急角度で続き高さもまちまち、古びているので段によっては下向きに傾いて、筆者かつて小松山の石段を落ちたことがあってそのときの激痛を思い出します。あれよりうんと長くて急で下を見ると目眩。ここは下りませんよねと幾度も確認して、前を行くおふたりはなんでもなく上がってるけど、既に手を使って情けないったらありゃしない。
やっと階段が尽きると小さく開けており、石祠がひとつお正月の飾りをつけて鎮座しています。愛宕さまだそうですが、祠の後の大岩を見るとこれは火伏の神というより安産の神として祀られたんじゃないかしら。酒瓶も転がっているけどここにお詣りしてほろ酔いでこの階段を下るなんて考えられません。筆者なら間違いなく滑り落ちてたぶん打ち所も悪いような気がします。

大岩の後から尾根に乗りますが、深い落葉の中に蠢く蝮を発見!早朝には雨が降り、前日より温度が下がって肌寒いせいか、毒を持ってるので怖いものなしのせいなのかとぐろを巻いて微動だにせず、誰も踏みつけなくて良かった。おふたりはあーでもないこーでもないと長々と眺め回していますけどそんな気にはなれず、その後暫く長い枯木を見るとびくっとしたりして、この生理的な嫌悪感は一種の防衛本能ではないでしょうか。
若い緑を纏う尾根には道はありませんがまだ草がないので歩きやすいし、傾斜も地形図で心配していたほど急ではなく快適な登りで、樹間に右手に覗く三角形の高まりは駒見山かな。空は重く垂れ込めて鈍色に広がり、連休最終日の天気予報はどうやら外れたようです。

439mピーク(ちんまりした高まりで名前がないのが惜しい。ご存知の方がいればいいな)からはそれまで登った高度の大半を下ってるのではと思うような急降下が続き、やっと登りにかかれば道は緩やかになって雑木帯から植林地をかすめ、再び雑木林に入ると緑はますます柔らかく赤の勝った花色が飛び飛びに迎えてくれます。ほんとうに今年のつつじは良いつつじ。見るたびにカメラを構えて、この春の筆者のアルバムはどこへ行っても花ばかりです。
尾根はだんだんに東へと回り込みながらアップダウンを繰り返して高度を上げます。立ち並ぶ木々は細いけれど高く、ときどき赤柴山稜のピークたちが見えるくらいで展望はありませんが、なんと言ってもこの季節の緑の重なりと花の色は美しい。長い登りにもさして息が切れず、おふたりに大きく遅れることなく歩けるのも嬉しい(帰りにお聞きしたら今日はとてもスローペースだったとのこと、ちぇっ)。
岩の目立つ個所や大きなぬた場を過ぎて尾根がだんだん痩せてくると左には小友川の向こう、小夜戸山から丸山を結ぶ稜線も見えて、道は尾根の西側に一段降りた場所を縫い始めます。狸原の石切場の上部に当たるのでしょう、作業道のような道の右に岩壁が続き、左側も急激に落ちて周りには背の低い松が枝を伸ばし、かき分けかき分け進みます。歩きにくいったらありません。

やっと抜けて尾根に戻ると右側は暗い植林地になり、この辺りは松や杉の倒木が目立ちます。松の大木が横倒しになっているのは如何にも勿体ないけれど、浅い根の張り方を見れば春先の大雪には耐えられなかったのもしかたないかも。
空が近づいて乗り上げるのは700mピーク。ここであにねこさんから進路はどっちだ?の出題。自信満々で右側を指さし、勿論概念図を見ればお判りの通り間違いなんですが、尾根の様子と体感はどうしても右の尾根だと主張します。前日に地図を見、文明の利器も眺めながら歩いているのになぜ間違うのか、筆者の遭難型猫頭。
植林地が終っての登りには足元に小さな小さな白菫がたくさん咲き乱れ、アオダモのふわふわした白花も見えて、つつじ以外の花がやっと目につきだします。ゆったりと登る尾根が向きを変えればどうやら正面に見えるのが十二山のようで、このあたりからは紫がかったミツバツツジが山ツツジの赤に混じり始め一歩ごとにその華やかさに歓声を上げます。でも左手に覗く稜線はじわりと水蒸気を纏って重たそう。

本日初めて赤テープを巻いた樹木に合えば赤柴山脈主稜線。左にひと登りで十二山山頂です。三角点とハイトスさんが架け替えたばかりの山名票と咲き誇るミツバツツジ。時間はまだまだお昼前ですが、もうどうしてもここに腰を落ち着けなくてはいられません。お天気はいまいちでも雨が降り出す気配はなく、しんと静まった気持ちのいい天辺で、いくらか寒いのであれこれ着込んで大午餐会を始めます。
燦々と陽を受ける新緑もいいですが、灰色の空にも緑や花の色はしっとりと映えて、ひと口ずつのビールも背負ってきた食料も山ならではの美味しさ。早いなんて言ってたのに全てお腹に入れてしまいました。
軽くなったザックと重くなった身体を上げてミツバツツジに別れを告げ、向かうのは主稜線。緑を縫って登路よりずっと固い踏み跡をずんずんと下ります。下から、山菜採りの方かしら、人声が聞こえて、尾根を右に少し逸れた階段を見つけ林道に降り立ちます。

左手桐生側に少し進んで右、高鳥屋山への稜線はなだらかな登りで楢や櫟の若葉が瑞々しい。団栗の殻をつけたまま顔を出した芽は可愛らしく、実生という美しい言葉を教わりました。筆者、目指すは父母未生以前のつもりですが実生たちほど可愛くはない。
やっと陽射しが出て明るい斜面、輝く緑の奥の空を目指して緩やかに登り着く山頂には三角点と高度を記したRK票。なぜかこの標識が好きで、ここのものも新しそうなのが嬉しい。いつかどこかのピークでRKさんご本人が掛けている現場に出会いたいものです。
高鳥屋山は小平側では小舟と呼ばれていると山野研究会さんの”赤柴山脈縦走記”にあって、一度小平の方に聞いてみたのですがその方はご存知なかった。山名がだんだんに失われていくのはこんなに生活環境が変化したのだからしかたないとも思いますがやはり残念です。下で見るより大きな山で実の生る樹木が多く、確かにここならどんなにたくさん鳥がいても大丈夫な気もします。こちらも静かで落ち着いた雰囲気の素敵な山頂でした。

往路をそのまま林道へ戻り、駐車場所へ長い林道を下ります。途中巨岩のそばの水神さまにお寄りして、かつて折ノ内集落の方がお祭りしたそうですが、この林道ができるまでは沢沿いに登ったのだとか。林道からの谷は深くその頃の地形や道筋がもう想像できません。
道脇にタラの木は散見できますが芽は取り尽くされていて、みどりさんはほんの少しの蕨を手に入れ、満開の藤の花を嗅いだり開きはじめの桐の花を眺めたり、長い林道歩きもお喋りをしながらだと余り苦にならず駐車場所へと戻りました。
来月になれば草に隠され茂る葉に邪魔され陽射しに炒られて敬遠したくなるコースでしょう。いい時期に歩けて良かった。楽しい一日でした。

"
"
"
山神さまの前から出発
長い長い階段
愛宕さまと大岩
”
”
”
わさわさと尾根へ(蝮注意!) 花色が混じる 尾根はしっかりしている
"
”
”
この先から幼松の薮になる ここも倒木が多い ゆるゆると登り続ける
"
"
"
曇天でも鮮やかな赤
主稜線に出る
最後の登り
"
"
"
十二山三角点
ハイトスさんの看板 豪華な色あい
"
"
"
小友川対岸の山稜
よく踏まれた尾根道 ときどき花叢
"
"
"
緑も美しい
林道への階段
桐生側へ少し下る
"
"
"
けっこう大きな山です
RKさんの高度票
高鳥屋山三角点
"
"
"
林道の標識(水神さまより上でした)
水神さまの周りはもう葉が茂って
正面に駒見山や高倉山が見えてくる

* 楚巒山楽会トップへ * やまの町 桐生トップへ

inserted by FC2 system