大泊への観音道を岐けてすぐ、道の右側、山沿いに東屋と大吹峠への案内票があります。スズメバチ注意はともかく熊注意の貼紙もあって、筆者本日はしっかり山支度でザックには熊鈴がついたままで良かった〜。
国道からはほぼ一直線の石畳の登りに大汗をかき、息を切らせます。両側は竹薮で明るいのですが、こんな道をかつて着物に草蛙履きで登る女性がいたとは思えないほど急登です。信心深いとはいえ山道は心細くはなかったのでしょうか、筆者は充分心細い。
竹林が切れて、杉と羊歯の道になるといくらか傾斜は緩やかになり、熊野古道はたいてい石が敷いてありますが、ときどき苔に滑ってなかなか歩きにくくもあり、これは道の崩壊防止のためだったのかもしれません。
その石がいくらか小ぶりに歩きやすくなれば峠はすぐ。小広く開けた大吹峠は名の通り風の道なのか気持ちのいい涼しさです。
下りは緩やかな傾斜の石段道で、道の左側にはしっかりと組まれた石垣が続き、ここで本日初めて、台風で折れて飛ばされた枝を片付けながら登ってくるご老人とお会いしました。どの山道もこういう方々に支えられているのだとしみじみと。
世界遺産の熊野古道とはいえ地元の方の生活道路でもあるのでしょう、下るに従って道の両側にトタン屋根の山仕事の小屋が点在し始め、小さな畑も現われて、標識に従ってぽんと出る大泊海岸の舗装道。
ここからは暫く砂浜を歩きます。関西の砂は関東のものより白く青い海とのコントラストがいかにも美しい。この浜は海水浴場にもなっていて、もう泳ぐひとは見えませんがサーフボードで遊ぶ青年が三人。彼らの裸足に比べて登山靴はいかにも無骨で、砂の密度が濃くてちょっとダート馬の気分です。
砂浜から一度舗装道に上がり、橋を渡って標識に導かれて松本峠へと登ります。杉林の中の石畳の階段は真ん中がいくらか凹み、ここを歩いたひと達の長い歴史を感じさせます。
見上げる空がいくらか近づけば松本峠。かつてはここにお寺があり寺子屋があったそうで、確かに小さなお堂なら建てられそうな広さです。竹の明るい緑を背景に背の高いすらりとしたお地蔵さまがお出迎え。途中ジョギングの颯爽とした若い女性に会いました。
峠のすぐ先に展望台と鬼が城城址への道が分かれています。本日は松本峠を熊野市に下って花の窟まで歩くつもりだったのですが、計画なんてすぐ変更するのが筆者の悪い癖。鬼が城城址から鬼が城の遊歩道をぐるりと歩き海の青を楽しむのもいいじゃないか。道を左に曲り展望台を目指します。
杉林の中を、木の根の浮き出す山道を進めば木立の影は美しく、緑はきらきら輝いて鈴の音も軽やかです。あっという間に着く展望台から見下ろす七里御浜は空と海の青が透き通るようで、白波が打ち寄せる砂浜は目の届く限り弧を描き、眼下の熊野市外の屋根はくっきりと輝き、遠く新宮のあたりも那智の山までも見通せます。昔のひとはそのずっと先に補陀落があると信じたのでした。眼福。
しばらく山道のアップダウンを繰り返し幾本かの堀切跡を越えると草付きの広場があり、その先が花の窟神社のある有馬の地の有馬氏の隠居城だった鬼が城城址。上部は平らで眺めが開けていますが斜面は鬼が城の名に相応しいごつごつした岩塊で覆われ、現在はここから海岸遊歩道までは桜が綺麗だそうですが、かつては魁偉な山城だったに違いありません。
海の見える突端で、昨夜呑んだお店にお願いして作ってもらったおにぎりを頬張り、朝方ホテルで用意してもらったコーヒーを楽しんで一服。ちりちりと陽に灼かれながら長いこと呆けてしまいました。
広場からは東の海岸線へと九十九折に切られた木枠の階段を下ります。青い鏡面のような大泊の入江の向こうには越えてきた大吹峠が見えて、その向うに覗くのは筆者のあてにならない同定によると龍門山のはずです。
るるるんるんと降り立つ舗装道は鬼が城遊歩道の出発点鬼が城センターに続き、ここはこの八月にオープンしたばかりで冷たいものを飲む喫茶室は木の香りも新鮮です。
ところが、な、なんと、鬼が城の海岸遊歩道は一昨日の台風で手摺が壊れ道も大荒れで半分あたりで通行禁止なのだとか!う〜む。
結局登り返す根性のないまま、しかもその半分だけでも遊歩道を歩くという知恵も浮かばないまま、筆者はここからタクシーで花の窟へ向かうことになりました。
峠歩きと山道は充分楽しんだとはいえ、海の青さも空の青さもじっくりと賞味したとはいえ、どうぞ賢いみなさまは山は計画的に、歩く場所の下調べは必ず万全に。
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波田須の徐福宮 |
波田須の入江と向うに大吹峠 |
大吹峠入口 |
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竹林の中の急登 |
古い石畳の階段が続く |
峠の案内板 |
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下りも竹林の中 |
石垣のある道 | 大泊の海岸へ出る |
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う、海じゃ〜 |
砂浜の向うに松本峠 |
標識は判りやすい |
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石段は真中が凹んでいる |
峠のお地蔵さま |
展望台・鬼が城への岐路 |
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展望台から七里御浜 |
鬼が城城址への広場 |
大泊の入江・越えてきた大吹峠 |