ポンポン山(関西篇)

*桐生の子どもが一度は登るのが仙人ヶ岳だとしたら(そんなこともないのかな?)、北摂の子どもは一度はこのポンポン山に登ってるのではないかしら。高さの割りには長い稜線を四方に伸ばし、色んなルートが楽しめるのも仙人ヶ岳に似ています。天辺で四股を踏むとぽんぽんと音がする、空洞がある、財宝が埋められている、などと子どもたちは言ったものです。本来の名は加茂勢山(かもせやま)、と今回初めて知りました。でも老若男女、昔からみなポンポン山と呼んでいます。

よく晴れた高槻市街からたった15分で降り立つ原立石の牛地蔵には風花が舞って、あ〜なんで一月なんかに旅する気分に罹っちゃったのか、寒いじゃないか。
鋪装された東海自然道(!)の、たくさんの樒がぶら下がる勧請掛をくぐりまずは神峯山寺へご挨拶。途中早足で登る方幾人にも追い抜かれ、みなさんほぼ毎日歩いているそうでこのお寺を開いた役行者の末裔たちは足が速い。
うっすらと雪が残る境内までの間には小さなお堂や丁目石、大きな石燈籠が残り鋪装道とはいえ飽きません。

道中の無事をお願いするのは毘沙門天、境内には堂宇が散らばり結界の張られた九頭龍瀧もありゆうに千年を越える歴史の山岳信仰のお寺で、森厳な佇まいにしばらく時を過ごします。
筆者実はここから山道を辿るつもりだったのですが途中お会いした地元の方にも、そしてここの朗々たる声のお坊さんにも、雪がある、荒れている、迷いやすい、と止められて(余りにへらへらしてるので無理だと判断されたらしい。昨日のこともお見通しなのかも)ここから奥の院の本山寺まで長い舗装道を登ります(こちらが自然遊歩道です)。
杉や雑木の中そんなに急勾配でもなく、眺めは展けませんが途中には丁目石やお地蔵さま、小さな石仏たちが祀られ、特に途中まであった「桜葬」という墓地の案内板の言葉には、白い骨に絡みついた地中の桜の根や、桜の養分になる己れの骨という美しいイメージを喚起されて楽しんだのですが、如何せん、山支度の方が運転する車にときどき抜かれるのがなんとも口惜しい。とはいえ本山寺の駐車場までタクシーというのも味気ないので、もし次があるならやはりひとつ西の尾根を辿る山道を歩きたいものです。

二丁の丁石あたりから道は突然傾斜を強め、駐車場からは山道になります。道の分岐を左に、本山寺の勧請掛を潜り山門を通り、長い石段を上って豊臣秀頼が再建したという鐘楼を過ぎ、役行者開基、桓武天皇の兄上(昨日竜王山で修行なさってた方だ!)が最初に建てたという本堂に手を合わせます。下の神峯山寺に劣らず境内は広い。
ここからは薄い雪と霜柱をさくさく快い音をたてながら杉林の中を稜線へ。木枠の階段道を登るとすぐに石祠の祀られた夫婦杉。注連縄で結ばれた太い幹の片一方には洞ができていて小さな赤鳥居がありました。

真っ白な道は杉の植林帯の中を柔らかなカーブを幾度も描き、ほとんど急登はないのですがゆっくり高度を上げるうちにストックが刺さらなくなり、筆者の体重をかけても雪が崩れなくなります。ぎゃ!凍ってるんだわ!なるべく凍結が脆そうな場所を選んで、俄然スピードが落ちて何組か後続のパーティに追い抜かれます。両側は急ではありませんが細い尾根道で、今季初めての雪に目は嬉しい、心も弾む気持ちのいい道なのですがときどき滑るのが困りものです。
小さなアップダウンを数えきれないほど繰り返し、雑木林に入れば落葉のおかげか凍り付いた場所がなくなってますます山深い景観が続き、深呼吸をすればどんどん肺が洗われるよう。

そのうち現われる少し急な段々道を登り切ると山頂への標識が。緑の向こうの空を目指して木枠の階段を勢いよく一段飛ばし。
ぽかんと開ける広い頂上はこんなにと驚くほどたくさんのひとが休んでいて、予定通りちょうどお昼、やったぜあたし678.9m。
三角点と山名板を写真に収め、ちょいと飛び跳ねてみたのですが、朝凍った土が沢山の登山者に踏まれて溶けて、ポンポンではなくグチャグチャと濁った音で残念。北側には低く雪雲が垂れこんでいますが、東南方向に京都盆地が眺められその向こうの山も頂が白い。南はうらうらと霞んで、風当たりの弱い一段低くなったベンチを薦められるのですが、なかなかそこへ降りる気分になりません。山道を歩くのが好きだと思ってたけど、やっぱり天辺も好き!

眺めを堪能し風の当たらぬ場所へ移動して宿で用意してもらったコーヒーとサンドイッチで大休止。次々に入れ替わる周りの方に、どちらから、群馬から、えーっ群馬、なんて驚かれるのも楽しい。群馬は山だらけでしょうに、と言われればまあ確かにそうなんですが。
長々と休んだ後ようやく山頂と別れて、このときのちょっと切ない気分は旅行地であればいや増します。釈迦岳方面へ何度も振り返りながら歩き、杉谷への分岐を下ります。

稜線近くは薄い雪がついていますが、登って来た道よりずっと傾斜が急とはいえ落葉が深いので滑ることはありません。くっきりと歩きやすい道を足に任せてぐんぐん高度を下げれば雪も消え、途中一箇所岩混じりの急降下で少し手こずりましたが、まだ陽射しは暖かく非常に気分がいい。
そのうちに周りが緑の多い雑木から杉に替り、右手の沢に水が流れるようになると、よく手入れされた杉林に明るい光が斜めに差し込みその光が実に美しい。名前通りの杉の谷の光と影に何度も立ち止まっては眺め回してため息をつきます。
あっという間に下り着く広場にはうっすらと雪が残り、小さな集落には古い石仏や道標がいくつもあって、竹林はさやさやと鳴り、この辺りも時代の波とは離れているようです。この集落を通り、善峰寺と光明寺と柳谷観音を結ぶ山麓を巡る道は西山古道と呼ばれて、そう筆者既に京都に足を踏み入れているわけです。

さて、ここから善峰寺への下りはかなり急な鋪装道が九十九折れに続きます。カーブの度に歩調を緩めないとつんのめってしまうほどで、これが山道だったらいいのに、と思ってしまうのは山襞で暮らしているひとにとってはとんでもなく無神経なのかもしれませんが。
ようやく辿り着く善峰寺は西国礼所第二十番。山門からしてもう立派で、千手観音がおわします。筆者は拝観料を吝嗇って中は拝見しませんでしたが、有名な古松があり、桜や紅葉の名所でもあります。
で、その吝嗇が祟ったのかガイドブックにあったここからのバスが現在は運行休止になっていて、ああ後2キロほどてくてくと下らねば…。と、登路の毘沙門天のご加護、休憩がてらここの蕪漬けを買いに来た(とても美味しいのだとか)というタクシーが売店に停まっていて、足が悲鳴を上げる前に首尾よく向日町の駅まで帰り着けました。
毘沙門天さまありがとう。いやきっと哀れんでくれた千手観音さまもありがとう。わくわくと楽しかったポンポン山もありがとう。

" "
"
登り出し
牛地蔵
神峯山寺は薄い雪
”
”
”
東海自然歩道を登る 丁目石が残る 本山寺本堂
"
”
”
山道には雪が残る 稜線への階段道 展望はないが気持ちのいい道
"
"
"
夫婦杉
このあたりから雪は凍り付いている
緩やかに高度を上げる(時々滑る)
"
"
"
頂上への標識
足よあそこが天辺だ 見下ろす京都盆地
"
"
"
北側には雪雲
三角点と山名板 下り始めはシャーベット
"
"
"
落葉の深い雑木林の道
杉林の中へ
下り着く杉谷の広場
"
"
"
小さな石仏が
まだ山は深い
善峰寺山門

* 楚巒山楽会トップへ * やまの町 桐生トップへ

inserted by FC2 system