山の紀行

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*作網山、さかみやまと読みます。先月二渡山脈を歩いてから山の名前が気になって幾度も梅田の上ノ原あたりを歩きました。とある所で作網山で拾ったという鹿の角を見せていただき、さてその山はどれですかと持参の地図でお聞きしても、みなさん頂上を指しては下さらない。ここらの山は全体で作網山だよとアバウトなことを申されます。だってピークの名前が欲しいんだもん、と駄々をこねても作網山には三つくらい頂上があるとあちらも譲りません。困った。
困った時の足頼み、一度下から歩いてみようとまず地図上でなだらかな稜線が始まる上ノ原八坂神社を出発地に選びます。極めつけの方向音痴、しかも里山の初めての道、行きはよいよい帰りが怖いと不安にかられながら登る八坂神社への道は始まりは素敵。道の向うに空が広がり樹木がのびのびと枝を広げる。あそこまで行けば景色が開けなにかが見える、何度騙されてもついわくわくと期待してしまうロケーションです。
上がりきればあるのは古びた八坂さまの社殿。燈籠や鳥居には宝暦や安永の文字が読め、高山彦九郎も下から見上げたという古い社です。機神社の小祠や神名がわからない石祠がふたつ、壊れたままの石祠もあり、8月にお祭りと桐生市史にはありますが果たして続いているのやら。冬枯れの雑草が茂り放題の境内で尾根への道を探しても急斜面ばかりで見つかりません。
忍山道も少し辿ってみましたがこちらも左手には全くとっかかりがない。

今回は感心なことに次善の策を用意しています。少し南下して作網砂防ダムから登る道が1/10000地図上に途中まで記入されている。舗装された作業道を竹の秋を眺めながら歩き、草ぼうぼうの山道に踏み込みます。下でお会いしたお婆さんにたっぷりと猪の恐怖を植え付けられて、杉の植林が延々と続く一直線の急登を鈴を鳴らしながら登る。登っても登っても杉、です。枝が払われているので明るい斜面にかそけき道らしいものが続き、両側からは急斜面が迫ります。がさっと上から音がする度に身構えて、まぁ抜刀した敵兵が逆落としをかけてくることはありませんが、猪突のイノさんがいたらヤだなぁ。

左右の尾根がどんどん近づいて、行手に空は見えているのですが斜面はどんどんキツくなります。倒れたばかりの杉の青々とした葉が前を遮り、何の気なしに振り向くと、あらら駄目だ、整然と杉が並び自分の歩いた道筋がよくわからない。なんだか臆病風に吹かれて進むか戻るか迷い出せば、山がたてるいろんな音が気になり、一服しながらコーヒーを飲んでいるとあらら、右手から大きなものが近づいてくるような音がする。ひぇ〜、恐る恐る見上げればおじさまがひとり軽々と降りてくるところでした。すぐ下に住む方で、午後遅くにこんな山にと不思議に思いながら上からこちらを見ていたそうで、これ幸いと作網山の頂上についてお聞きするとやっぱり山は全体だとおっしゃる。三角点がある所が作網山じゃ駄目かしらと聞けば、うむ確かに三角点はあるとのこと。地図上でも作網沢が詰まるすぐ上が401,2mのピークですし、ここが作網山なのは間違いないと思う。

この道は頂上に真直ぐには続かず、366,8mピークとの間で稜線を越えて忍山へ降りる道へ続くそうな。こんな時期になにしに登るのやらと不思議がられ、ただ歩くだけですと説明してもなんでそれが面白いのかわからないと呆れられながら、ここからおじさまについて戻りました。確かに面白いというよりもまだまだひとり歩きは不安かも。お宅でお茶などいただき、近くの石仏や、梅がもうすぐ見事だという古木などに案内していただき、ひたすら恐縮。長泉寺の裏の山から稜線伝いに周回できる道もあるそうだけど、登山道ではなく獣道に近いらしい。新緑の頃は地元の方が山菜採りなどで登るとか。ネットなどなさらないそうだけど色々ありがとうございました。

教えていただいた古木の周りにはいぬふぐりが咲き乱れ、ひとつ南の大石窪沢ではもう白梅が馥郁たる香りを放ちながら開き始めています。椿も鮮やかな紅でほころび、春はそこまで来ています。

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